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第511話 限定ミッション⑤

 エレベーターが最下層に到着する。

 ヨシナリは機体を慎重に進めつつ周囲を警戒。 それもそのはずだった。

 何故ならここでは戦闘の物と思われる音が聞こえてこないからだ。


 目的地まではこの先の通路を抜ければ到着する。 

 友軍機が既に制圧しているならそれでもいいが、ボスが居て逆に返り討ちに遭っているのならかなり不味い。 そんな相手にこの機体では厳しいからだ。


 ――こんな事だったら無理にでも自分の機体を取りに行くべきだったか?


 そんな後悔にも似た考えが浮かぶが、歩兵サイズが通れる区画を経由している関係で難しい。

 結局はここに来るにはボーンヘッドで妥協しなければならない。

 少し緊張していると目の前に端末が差し出された。 どうやら書き終わったらしい。


 そのまま視線だけ向けて内容を読む。


 「……うーん。 これはヤバいかもしれん」


 思わずそう呟いた。 

 何故なら書かれていた内容がヨシナリの手に余りそうな事だったからだ。

 まず、この先に何があるのか? ここは基地の最下層――パワープラントと呼ばれるエネルギーを賄う動力施設で、そこには核融合炉という名称の時点でヤバい代物があるらしい。


 ――そう言えばさっき喋ってたテロリストの親玉みたいな奴が基地を自爆させるとか言っていたな。


 基地の底にそんな代物があるのなら割と現実的な内容だった。

 少なくともただのハッタリとは思えない。 

 流石に爆発オチは以前のイベントで懲りたので可能であれば阻止したいところだ。 


 で、問題はもう一つの質問の答え。

 そこで何をするのか?に対するアンサーがヤバかった。 

 何かというとどうやらさっきの男はこの基地を自爆させる為にここで粘るのだが、爆発規模が結構な物らしく近くの都市部にまで影響が出るので女としては阻止したかったらしい。


 本来はこの基地を吹き飛ばすだけなのだが、さっきの男が被害が拡大するように細工を施したとの事。


 「で、撃たれたと」


 具体的にどう阻止するのかと言うと起爆キーはさっき喋っていたおっさんと男の二人が持っているらしく、男は適当言っておっさんから起爆キーを受け取り使用可能な状態にしたようだ。

 つまり現在、核融合炉は自爆に向けて動いているという。 阻止したいなら端末からの操作で無効化するしかないのだが、あの男が立ち塞がる。 


 単に生身というのならボーンヘッドの装備を使えば一瞬で始末できるだろう。

 だが、それも難しいようで男はこの基地で試作されていた機体を持ち出しているので、それを何とかしなければならない。 


 リベリオンフレーム。 さっき図面で見た奴だ。

 どうもエンジェルフレームのダウングレード版といった印象の強い機体だが、戦力構成がほぼⅠ型のこちら側が相手なら技量次第では大抵の奴には負けないだろう。


 スペックに関してはざっと見ただけなので大雑把に頭に入ってはいるのだが、問題は動力が核融合エンジンなのだ。 少なくとも出力に関してはボーンヘッドでは話にならない。

 女は画面をスクロール。 ここからが本題のようだ。


 この先でヨシナリが敵のリベリオンフレームを抑えている間に女が起爆を止めた後、内容を書き換えてこの基地だけを吹き飛ばすつもりらしい。

 つまりヨシナリは足止めを求められている。 


 「この機体でほぼエンジェルフレームと戦れってか」 


 とんでもない無理ゲーだ。 

 せめてホロスコープがあるなら撃破も視野に入るのだが、ボーンヘッドではまず無理だろう。

 そして末尾に――


 『私達には戦う理由と大義があるが、無関係な人々を巻きこむ事は本意ではない。 だから、今だけは私を信じて力を貸して欲しい』


 なるほど。 テロリストの矜持という訳か。

 その辺はヨシナリには理解できないし、興味もないがいい事があった。

 まずは利敵行為にならない事。 騙されている可能性はなくはないが、リベリオンフレームとやらはどう見ても敵機だ。 つまり可能性としては非常に低い。


 そしてもう一点。 

 こんな雑魚狩りのようなつまらないミッションはダルいと思っていたので、これぐらいの難易度の方が燃えるからだ。 通路を抜けた先で機体を停止、コックピットハッチを解放。


 こちらを見る女に任せろと親指を立てて見せる。 

 女は何か言っていたがこちらの手をそっと握ると注射器――恐らく痛み止めを肩に打ち込んでコックピットから出ると走っていった。 


 ――さて、やるだけやってみますか。


 辿り着いたパワープラントという施設は中々に迫力がある見た目だった。

 縦長に広い空間に巨大な筒のような物がいくつも並んでいる。 その上に管理する為の足場が乗っており、壁面には降りる為であろうリフトが無数に設置されていた。


 荷物がなくなった事でヨシナリはボーンヘッドを加速。 

 さっきまでで操作のコツは大体掴んだ。 時間稼ぎぐらいはできるだろう。

 スラスターを噴かしてジャンプし、中央の広い空間に着地。 派手に音を立てたのはわざとだ。


 陽動なのだから釣られてくれないと困る。

 その甲斐あって下から聞き慣れないエンジン音と共にそれが現れた。

 現地で調達したパーツで組んだといった印象を受けるくすんだ灰色の装甲は汚れが目立つ。


 形状はエンジェルフレームというよりはキマイラの人型形態に近い。

 腰部にはエネルギーウイングの代わりに小型、両肩には大型のブースターという四機の推進装置。

 装備は突撃銃と短機関銃、腰には実体剣。 肩には砲が乗っているが見た事がないタイプなので判別が付かない。 恐らくは実弾系だと思うが、光学兵器の可能性は充分にあり得る。


 プツプツと音声が途切れている所から何か言っているようだが、ヨシナリには聞こえていないので無視。 相手も返事をしない所から会話は無駄と判断したのかもしれない。

 すっと突撃銃を構える。 どうやらやる気になったようだ。


 相手が撃ったと同時に回避。 腕のガトリング砲を向けて発射。


 「あぁ、クソ。 使い難い!」


 銃身が回転を始めてから発射なので最初の一発が出るまで僅かなタイムラグがあるのだ。

 この手の武装をあまり使ってこなかったのでついいつもの感覚でやってしまった。

 加えて腕の可動域が狭いので上を取られると厄介だ。


 攻撃を当てたいのなら距離を取って射線を確保しなければならない。

 ついでに機体からのレスポンスが終わってるので見てから反応していたのでは遅い。

 要は普段よりワン――いや、ツーテンポは意識して早く動かなければならなかった。


 ――まずは射線の確保か。


 ヨシナリはどうしたものかと周囲を見回しながら思考を回す。

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