幸いにもこのボーンヘッドは機動性に優れているだけあって、動き自体はそこまで遅くない。
ヨシナリは脚部のフロートシステムと姿勢制御用のスラスターを噴かして加速。
敵機の銃撃を躱すが、足場が狭いのでいつまでも逃げ切れない。
このまま行けば嬲り殺しで終わりだ。 それを避ける為には相手の思惑の外に出なければならない。
ヨシナリは大きく跳躍。 狙いは下ではなく斜面のようになっている壁だ。
近くの下降用のリフトに着地し、足を止めずに壁を走る。
ホバリングが使えるので直接踏まなくてもいいのを利用したのだ。
「これで射線が取れる」
敵機が意図に気付いて高度を取ろうとする前にやや上を狙って連射。
進行方向を塞がれてやや動揺したのか動きが止まる。
思った通り、エネルギーウイングを装備していないので旋回性能が低い。
直線加速をさせなければ捉える事は不可能ではないだろう。
ただ、それには割と無視できない問題があった。 機体の持久力だ。
既存機と違ってこのボーンヘッド、推進装置に旧式のノーマルエンジンを使っているのだ。
つまり燃料が要る。
ちらりと計器を確認すると満タンだった燃料がもう三割近くもなくなっていた。
残弾もそう多くない。 ガトリング砲は連射速度の代わりに消耗が速いのだ。
簡単に言うとこの機体、継戦能力が終わっている。
肩のグレネードランチャーは左右で合計六発。 仕留めるならこっちを当てる必要があった。
手札の確認は済んだので次は相手のスペックだ。
リベリオンフレームという既存機のキメラといった機体で、総合性能はノーマルのキマイラに毛が生えた程度だ。 そもそも、エンジェルフレームはエネルギーウイング装備ありきの機体設計なのでそんな機体に通常の推進装置を乗せたとしてもそこまでの性能は発揮できない。
核融合エンジンとかいう凄まじい動力を持っているのだろうが、使い切れなければ宝の持ち腐れだ。
武装に関しても既存機――キマイラ以下が使う傾向武装の域を出ないので肩の砲以外はそこまで怖いとは思わなかった。 ただ、この装甲が貧弱なボーンヘッドが貰えばその時点で終わりだが。
最後に技量。 感触としては甘く見積もってもDランク以下。
加えて、明らかに使っている機体に慣れていない。 恐らくはボーンヘッドかⅠ型ぐらいしか碌に扱ってこなかったのだろう。 空中という全方向に動ける強みを活かせていなかった。
つまりは大した事がない。 条件が同じなら問題なく勝てる相手だった。
ヨシナリは壁を走りながら銃撃。 思いっきりばら撒くとすぐに弾が尽きるので小刻みに緩めながら相手を狙う。 敵機は躱しながら応射してくるが、狭い足場と違ってこの広い空間を丸ごと使える壁走りは敵機の銃撃を余裕を持って躱せる。
それに弾を吐き出せば吐き出す程に機体が軽くなるので弾薬の消耗は必ずしもマイナスには働かない。
ヨシナリ自身もそろそろこのボーンヘッドの扱いに慣れてきたので少し調子が出て来た。
いっそこっちから攻める――いかんいかん。
調子が出てくるだけなら問題ないが調子に乗るのはよろしくない。
これまでで何度も失敗しているのだ。 ここは意識して気持ちを締める場面だろう。
コンティニューなんて気の利いたシステムは積んでいない以上、この良く分からない敵と戦えるのは今回限りだ。 なら、悔いのないように楽しませて貰う。
これまでの事を踏まえると敵兵はAIだと思いたいが、あの女は随分とナチュラルな反応だった。
もしかしたら役者を雇ってるのかもしれない。
それともヨシナリのような行動を取るプレイヤーを想定して仕込んでいたのだろうか?
だとしたらこのミッションはロールプレイを組み込んだ内容と言う事になる。
プレイヤーの選択によって結末や展開が大きく変わる展開。
もしかしたら今後のイベント戦は行動によって敵味方が分かれるなんて事になるかもしれない。
そう考えると腑に落ちる事も多く、ヨシナリとしても納得できる。
さっきの女の挙動もかなり真に迫っていたので、もしかしたら本実装される時はこの連中もまともな人型に見えるようになるのかもしれない。
――だとしたら今後の更新が楽しみだな。
マルメル達に良い土産話が出来そうだ。
さて、このAIか役者かは不明の敵機だが、ヨシナリの感覚としては後者だと思っている。
その為、対処はプレイヤーと同じでいい。
突撃銃で捉えきれない相手に対してこいつはどういった手を取る?
恐らくは二択。 ボーンヘッドは近接武器を持っていないのでブレードを抜いての接近戦か、肩に付いている良く分からない武器のどちらかだろう。
個人的には肩の武器の正体が分からないので一度見ておきたいのだが――
どっちだと観察すると敵機は肩の砲を向ける。 バチバチとエネルギーの収束している気配からレールガンか光学兵器のどちらかなのは間違いない。
感じから前者の可能性が高い。 明らかにしっかりと狙いを付けている点からも間違いなさそうだ。
発射。 綺麗にヨシナリの移動先を狙っていたが、推進装置を切って近くのリフトに着地。
敵機の発射した弾体が壁に突き刺さる。 これで一通り捲れたな。
どうもテロリストの技術力はそこまでではないようで発射したのはいいが、発射後の排熱が凄まじい。 明らかにこれまでに見て来た武装と比べてクオリティが低かった。
本当に粗製という表現が適切な代物だ。
ただ、動力だけは結構なだけあって、機体の出力低下が起こっていない。
どうやらヨシナリの足を止める事も視野に入れていたようだ。
推進装置を全開にして突っ込んで来る。 突撃銃を投げ捨て、ブレードを抜き放つ。
この状態だと確かに躱すのは難しい。 ヨシナリは両腕のガトリング砲を連射。
今回は緩めずに一気に残弾を吐き出す。 直ぐに右、左と弾が切れた。
ちらりと推進剤の残りを確認。 残量、三割弱。
「まぁ、何とかなるか」
敵機はボーンヘッドの構造を熟知しているので真っすぐにコックピットを狙った刺突。
斬撃でも充分に仕留められるが確実に仕留める事を考慮しての選択だろう。
比較対象がふわわなので敵機の動きは随分と見極めが楽だ。
刺突に合わせて右のガトリング砲を突き出す。
銃身に突き刺さり、刃が半ばまで埋まった所で思いっきり銃身を回して跳ね上げる。
すると敵機が引っ張られて上半身が仰け反るような状態で態勢を崩す。
「よし、これで行けるだろ」
そしてがら空きになったボディに左の銃身を全力で突きこんだ。