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第513話 限定ミッション⑦

 スラスターを噴かして体当たりするように脇腹辺りに叩きこむ。

 構造的にエンジェルフレームとそう変わらないのでそこそこは効いたはずだ。

 敵機はまだ動く。 流石にこの程度で仕留められるとは思っていない。


 ヨシナリ見ているのはその先だ。 

 敵機はブレードを引き抜こうとするが銃身を振り回して抜け難くする。

 一手。 諦めるか執着するか、どちらかだが――


 敵機は諦めてブレードから手を放し、蹴りを入れる。

 咄嗟に左で受けるが銃身が圧し折れ、機体の各所にエラーメッセージ。

 クソ。 思った以上に脆いなこのポンコツ。 速度の乗ってない蹴りの一発ぐらい受け止めろ。


 だが、読み通りだ。 蹴りを入れた反動を利用してブースターを噴かして距離を取りに行った。

 ――が、それに合わせてヨシナリは跳躍。 

 推進装置の全てを全開で噴かせば少しは飛べる。 それにより空中で敵機と向かい合う形となった。


 欲しかったのはこの距離感。 大体、5から7メートル。

 機体上部に積んであるグレネードランチャーを向ける。


 「いくら命中精度が終わってる武器でもこの距離なら外しようがないだろう」


 左右で二連射。 ヨシナリはこの粗製トルーパーをあまり信用していなかったので、動作不良の可能性も考慮して両方の引き金を引いた。 

 片方ぐらいはちゃんと動くだろうと言う予想に反してしっかりと両方の砲口から榴弾が放たれ、敵機に直撃。 一発目が敵機の頭部から胸にかけてを吹き飛ばし、残りがコックピット部分を完全に破壊した。


 結構な代物を動力に使用しているだけあって爆発は凄まじく、ヨシナリはどうにか踏ん張ろうとしたが吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 そのままめり込んでくれればよかったのだが、斜面を転がり落ち始めた。


 視点がぐるぐると回る。 

 ヨシナリはどうにか立て直そうと各所のスラスターを噴かして落ちる速度を殺しつつ姿勢制御を試みた。 

 その甲斐あってか途中でどうにか立て直すが壁にあった突起部分に引っかかって空中に放り出される。


 推進装置は残り一割強。 足りるか?

 フロートシステムとスラスターを噴かして落下に限界まで抗い――ボーンヘッド地面に着地した。


 「はは、すっげ。 まだ生きてらぁ。 ――ってか、ぐるぐる回った所為で気持ち悪ぃ……」


 機体のステータスチェック。 武器は全滅。 

 ガトリング砲は弾切れ、グレネードランチャーも砲身が折れているのでもう使い物にならない。

 推進装置は燃料がほぼ空っぽなので移動手段は脚部の底についてるローラーでの移動のみ。

 どこかで補充する必要がある。


 「はは、粗製トルーパーっつってもあんまり馬鹿にできないな」


 ボーンヘッドはギクシャクとした動きで歩き出す。 まだ動く機体にヨシナリは見直したぜと呟く。

 あの女は自爆を止めるとか言っていたが、どうなったのだろうか?

 戦闘に集中していて気付かなかったが静かになっているな。 


 女はリフトを使って下に降りていたので近くに居るはずだが―― 

 少し離れた位置から小さな足音。 そちらに機体を向けると女がこちらに歩いて来ていた。

 どうやら首尾よく片が付いたようだ。 何やら驚いている様子だったので、ヨシナリが例のリベリオンフレームを撃破するとは思っていなかったからだろう。


 ヨシナリ本人としても倒す所まで行けるとは思っていなかった。

 相手の技量が想定より低い事と、機体に慣れていない事もあって何とか勝つ事が出来たのだ。


 ――100%俺の実力だと言いたい所ではあったが、今回は運もあったな。


 この様子だと自爆とやらの制御も完了したと見ていい。

 目的は施設の制圧のはずなので、ミッションが終わっていない点からまだイベント自体は終わっていないのだろう。

 なら、もう少しこの女に付き合ってもいいか。 


 ヨシナリはボーンヘッドの姿勢を低くし、コックピットハッチを開く。

 女は直ぐに入って来ると急いで端末を操作。 

 一息付けそうなので移動しながらゆっくりと話を聞く事にしよう。


 ヨシナリはボーンヘッドを指示された方向に移動させる。 ここは基地の最下層。

 何処にも逃げ場はない。 本来ならこのまま攻め込んで来た他のプレイヤーに狩られる運命のはずだが、そうでもなかったようだ。 


 表示されたマップには脱出の為に用意された鉄道が存在する。

 本来なら列車もあるのだが、それはもう既に他を逃がす為に使ってしまったようだ。

 その為、線路をボーンヘッドで進む必要がある。 機体のコンディション的に最後まで保つかは非常に怪しいが行ける所まで行くしかないだろう。 


 途中に燃料の給油施設があるようでそこで補充すれば移動ぐらいなら何とかなりそうだ。


 ようやく女がメッセージを打ち込み終えたらしく端末が目の前に突き出される。

 何々と目を通すと協力してくれた事に対する感謝と良ければ協力者として一緒に戦って欲しい的な事、後は色々とヨシナリの個人情報を訊ねるような内容がずらりと並んでいた。


 あまりにも気合の入った長文ににヨシナリはどう答えたものかと首を傾げる。

 一先ず端末を受け取って操作。 質問に質問で返すようで悪いが、まずは名前から聞こう。

 いつまでも名無しではやり辛くて敵わない。


 まずは君の名前は何だと尋ねる文章を打ち込んだと同時にそれが起こった。

 位置的には線路が見えた辺りだ。 

 ボーンヘッドのモニターではなくヨシナリ自身のアバターによって表示されたシステムメッセージ。


 内容は作戦行動区域からの離脱によりミッション失敗。 


 「あー、まぁこうなるよなぁ」


 利敵行為と取られなかっただけマシか。 

 恐らく撃破扱いとなってこのミッションから弾かれるので、ヨシナリは少し急いで文章を完成させて女に端末を渡す。 そこで終わりだった。


 視界に強制シャットダウン及び、アバターとの接続解除、後は良く分からない作業を示すウインドウがいくつか表示され、最後には『整合性のチェック』と出て完了の文字と共に視界が暗転。

 意識がぷっつりと途絶えた。



 気が付けばヨシナリはユニオンホームの自室にいた。

 ぼんやりとベッドに座っており、浮かんだのはさっきまで何をしていたんだったかという疑問。

 記憶の糸を手繰るとややあって思い出してきた。


 そう、緊急ミッションを受けたんだ。 敵はテロリストで大した事のない連中だった。

 粗製トルーパーとかいう微妙な機体を使っていたんだ。

 ヨシナリが参戦した時点で勝敗は決しており、基地を制圧するだけの楽な作業だった。


 正直、退屈なミッションだったので機体から降りて基地内を散策していると放置されたボーンヘッドを見つけて好奇心から乗り回したんだ。


 ――で、移動していると隠し通路的な物を見つけて敵のボスと遭遇して撃破。


 「うーん。 何か抜けているような……」


 ピースのかけたパズルを渡されたような気分だが、思い出せなかったのでまぁいいかと立ち上がった。

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