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第514話 次のイベントに向けて①

 ミッションの報酬はそこそこ貰えたので良しとしよう。 

 そんな事よりも考えるべき事があった。 ヨシナリはウインドウを開く。

 ICpwの公式サイトだ。 お知らせを見ると次回のイベント告知。


 内容は防衛戦。 最初に遭遇したイベントも防衛戦だった事もあって少しだけ感慨深い。

 相変わらず全ては明かされないが戦場や簡単なルールは公開されていた。

 フィールドは月面のような広い場所。 内容は以前のものと同じで基地の防衛。


 制限時間までに防衛を続け、終了後の基地の被害状況によって報酬が変化するのも同じ。 

 ただ、大きな相違点は基地が地上ではなく地下に広がっている点だろうか。

 どうも五層まで分かれる広大な地下施設で敵の侵入を食い止めるといったシチュエーションが想定される。


 恐らく迫りくる敵を凌ぎながら侵入を防ぐといった流れなのだろうが、あまりいい地形とはいえなかった。 

 まず地下への入口は地上部分中央の正面ゲート。 メインの搬入出を担っている様でとにかく大きい。 

 後は東西南北に各一か所とその周囲に人間用の出入り口が無数。


 問題はその人間用の出入り口だ。 トルーパーでは対応しきれない。


 ――絶対に人間大のエネミーが出てくるな。


 基地の映像を拡大すると地下へと向かう為の階段があちこちに見える。

 火炎放射器か何かで焼き払うか? いや、数か所程度なら――

 あれこれと考えていたが、肝心のエネミーの情報がない以上は大半がアドリブとなるだろう。


 小細工よりも自身の強化を優先した方がいい。 イベント開催は一週間後。

 その間に何ができるだろうか? 自室からリビングへ出ると珍しい奴が居た。

 ベリアルだ。 ソファーに座ってぼんやりとしていたがヨシナリが来ると顔を上げる。


 「闇の王よ。 何を黄昏ている。 貴公にそのような物憂げな振る舞いは似合わないぞ?」

 「ふ、戦友よ。 俺自身もそう思っているが、こればかりはどうにもならなくて、な」


 割と重症のようだ。 もしかしてイベントで沈んだ事を気にしているのだろうか?

 敢えて触れるというのも選択肢としてはあったが、傷口を抉るのもなぁと少し悩む。

 何故なら彼は充分に敗北を味わったはずだ。 それでも引き摺ってしまっている以上、できる事はそう多くない。


 「己の無力を感じているのは俺とて同じ。 敗北を塗り潰すには結局の所、それ以上の勝利でしかない。 そして勝利の栄光を掴むのであれば過去の自身から脱却する必要がある」

 「――そして脱却するには自らを研磨す事が必須」

 「その通りだ。 俺達は『星座盤』星が集いし地図。 星が集まり、星座を描く為には俺達の輝きを磨く必要がある。 決して何物にも侵せぬ力という名の輝きを」


 要は次は負けないように練習頑張ろうねと言う事なのだが、伝わっただろうか?


 「あぁ、感謝するぞ戦友よ。 立ち止まっている暇などなかったな」


 元気が出たのかベリアルが立ち上げる。 

 ヨシナリは内心でほっと胸を撫で下ろし、折角なので彼に協力してもらおうと考えた。


 「ならば我らの力を高める為に互いに研磨が必要だと思うがどうだ?」

 「ふ、よかろう。 共に高め合おうではないか」


 ヨシナリは内心でよしと拳を握る。 Aランクプレイヤーと模擬戦できる機会はそう多くない。

 ベリアルからは学ぶ事が多いので彼から何かを吸収して強くなるのだ。

 互いに頷くとトレーニングルームへと移動した。


 「加減はなしだ。 死線にこそ新たな境地へと至る何かがある」


 場所はいつもの市街地ステージ。 少し離れた位置にはプセウドテイがいる。

 手加減なしで来ると言っているベリアルに大きく頷く。 


 「望むところだ。 征くぞ! 闇の王よ!」


 模擬戦が開始され、両者が同時に動き出した。




 ――クソが。


 ユウヤは内心でそう呟く。 愛機であるプルガトリオは満身創痍。

 全身に切り傷が刻まれ、もう立っているのがやっとだった。


 「だめだ、反応が遅すぎる。 もっと必死になれ」


 そんな声が響いたと同時にユウヤは大剣をハンマーに変形させて背後に一閃。

 敵機には掠りもしない。 そのまま武器を手放し、散弾砲を構え――発射する前に腕が切断される。

 だったらと電磁鞭を伸ばす前に機体のコックピット部分にブレードが突き立てられた。


 そのまま崩れ落ちて機体は大破。 そのまま撃破となる。

 ユウヤは即座にウインドウを操作して仕切り直し、相手を睨む。

 六基のエネルギーウイングを搭載した特徴的な機体。 エイコサテトラ。


 ラーガストの機体だ。 

 何度も連絡を入れてようやく捕まえた彼にトレーニングを依頼したのだが、まるで歯が立たない。


 「随分と派手に負けたそうだな。 あんな舐めプの雑魚共に負けて死にたくなるぐらい恥ずかしい気持ちは分からなくもないが、今のお前はあの雑魚以下だと言う事を自覚しろ」


 『烏合衆』の事を言っているのは分かる。 

 ラーガストからすればあの連中は誰と当たっても楽勝の雑魚なのだろう。

 改めて対峙してよく分かる。 このSランクの圧倒的な強さが。 同時に敗北の屈辱が身を焼く。


 ユウヤの感情を感じ取ったのかラーガストは小さく笑う。


 「それでいい。 怒れ、殺意を剥き出しにしろ。 それがお前を強くする」


 ユウヤは獣のように吼えてラーガストへと突っ込む。

 初撃はまず当たらない。 

 エイコサテトラの機動性と旋回性能は既存機どころかジェネシスフレームの常識すら逸脱している。


 当てたいのであれば攻撃の組み立てが必須だ。 つまり初撃で回避先に叩きこむ。

 もはや未来予知が必要なレベルだが、それを感覚で実行するのだ。

 ラーガストの挙動を先読みしろ。 思考の裏を読め。 


 いくら早くてもそこに居る以上、必ず攻撃は当たる。 

 ラーガストは動かない。 刺突を繰り出すと見せかけてスラスターを噴かして反転。

 背後へ斬撃を繰り出すが、エイコサテトラは刃の上に乗っていた。


 「狙いは悪くない。 だが、遅すぎる」


 蹴りを入れられて吹き飛ぶがただでは吹き飛ばされずに散弾砲を発射。

 散弾は何もないと空間を撃ち抜く。 発射したタイミングで噴かして躱した。


 「焦り過ぎだ間抜け」


 咄嗟に大剣を盾にする。 衝撃。 

 恐らく刺突を喰らったのだろうが、速すぎて見えない。 

 エネルギー系の兵装を無効化するアケディアを使いたいが、タイミングを見極めないと効果範囲内に捉えられないのだ。


 即座に立ち上がって電磁鞭を振るい、散弾砲を発射。 

 前者は紙一重で躱され――恐らく軌道を完全に見切られた上でほぼ動かずに躱した。

 後者は回避先を狙ったので完全に空振り。 ラーガストの姿が消える。


 ――ここだ。


 アケディアを起動。 一定範囲のエネルギー系の武装を使用不可能に――

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