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第515話 次のイベントに向けて②

 ラーガストの機体から光が消える。 それにより機動性が落ちた。 今なら殺れる。

 ユウヤは大剣をハンマーに切り替えてのフルスイング。 

 変形させたのはリーチが短い分、速く振れるからだ。


 「甘ぇ。 舐めすぎだ」


 ――が、最強には届かない。


 いつの間にか背後に回り込まれとんと背に肘が当てられる。

 次の瞬間、肘から突き出たブレードに貫かれてプルガトリオは崩れ落ちた。


 ――畜生。


 まるで歯が立たなかった。 

 分かっていた事ではあるが、今の自分ではラーガストの足元にも及ばない。

 だが、だからこそ挑む価値がある。 

 少しでもこいつから何かを――強さの欠片を吸収出来れば自分はもっともっと強くなれるはずだ。 


 「ラーガスト! もう一回だ!」

 「いや、集中力が落ちてる。 やるにしても休憩を挟んでからだ」


 戦意を漲らせるユウヤにラーガストは小さく肩を竦めて機体を引っ込めてアバター状態になる。

 ユウヤは分かったと呟き、同様に機体を格納してアバター状態に。

 ラーガストと向かい合う形で座る。


 「……ラーガスト」

 「何だ?」

 「俺は弱いか?」


 思わずそんな質問をしてしまう。 もしかしたら弱気になっているのかもしれない。

 ラーガストは質問の意図を測っているのか少しの沈黙。 ややあって口を開く。


 「弱い。 まぁ、そこは気にしなくていい。 俺に言わせりゃ、大抵の奴は雑魚かマシな雑魚だ」


 凄まじい事を言っているが事実でもあった。 Sランクは基本的に一度でも負けたら降格だ。

 そしてランク戦は一週間に戦闘ノルマが存在するにも関わらず彼はSランクのまま。

 要はラーガストはこれまでに一度も負けていないのだ。


 「は、じゃあ雑魚じゃないのは誰なんだよ?」

 「あ? ――そうだな。 俺の同期か、オペレーター連中って所か」


 同期。 

 ユウヤもラーガストがこのゲームのβテスターと言う事は察しているので、同じ経験者と言う事だろう。 オペレーターというのは運営の用意した特殊なプレイヤーか。

 何度か尋ねた事があるが隠しているというよりは規約ではっきりとした事が言えないといった様子だった。 


 「でもお前はまだマシな方だ。 虚勢じゃなくマジで殺したいと思っている相手がいる。 そういう前のめりな殺意が強くなる為に必要な要素だと俺は思っているし、俺自身もそうやってここまで来た」

 「お前ぐらい強くても殺したい奴がいるのかよ」


 ユウヤがラーガストに抱いているのは友情というよりは強いシンパシーだ。

 早い段階で察していた。 こいつは自分では想像もつかないレベルで何かを深く憎んでいると。

 そしてそれこそがラーガストという男の強さの源泉。 


 「いるさ。 この間、一匹ぶち殺してやったんだが、全く収まらねぇ。 ユウヤ、これは先輩としてのアドバイスだ。 ぶち殺したい相手が居るっていうのは重要な事だ。 その気持ちを常に意識し続けろ。 その気持ちが燃えている限り、お前のモチベーションは枯渇しない」


 ラーガストの目はアバターにもかかわらずその奥で憎悪の炎が赤々と燃えている。


 「大事な事だから何度でも言うぞ。 憎め、恨め、そして怒れ。 その感情がある限り、お前の足は止まらない。 止まらない限り、前に進める。 進んでいる以上、お前は成長しているはずだ」

 「あぁ、お前の言う通りだ」


 正直、ラーガストの怒りと恨みの深さに呑まれそうになるが、それにぐっと抗いユウヤは立ち上がる。 

 恐らくだが、自分はあの領域に至る事は難しいだろう。 いや、無理と言っていい。

 カナタの事は殺してやりたいが、あのレベルまで憎悪を昇華する事はユウヤには出来ない。


 だから、ラーガストの言葉が間違っているとは思わなかった。

 少なくとも彼は何かを憎む事でここまで来たのだ。 彼にとっては正しい選択だったのだろう。

 ユウヤは考える。 戦う理由を。


 カナタを叩き潰す力が欲しいのは当然だが、折角できた友人の期待に応えられなかった事が悔しかった。 

 ヨシナリは特に落胆もせずにただただ、感謝だけを伝えてきたのだ。

 気遣いはありがたく、同時にきついと感じてしまった。 それはベリアルも同じだろう。


 あの厨二野郎はかなり入れ込んでいたので、目に見えて落ち込んでいた。

 大事な『パンドラ』をくれてやるぐらい気に入っている相手なのだ。 

 次はあんな無様は晒さないように仕上げてくると見て間違いない。


 ラーガストの言葉は正しいが、ユウヤは別の理由で戦ってもいいのではないかと思っていた。


 「……休憩は終わりだ。 もう一戦頼む」

 「あぁ、もう少しだけ付き合ってやる」


 まずはこの化け物から盗めるものを可能な限り吸収してやる。

 そう考えてユウヤは機体を呼び出した。



 「うらぁぁ!」


 マルメルは持っていたブレードを振るう。


 「あぁ、全然だめです」


 向けられたシニフィエは手の甲でいなし、巻き込むようにマルメルの腕を掴んで軽く引き、態勢を崩す。 マルメルはどうにか立て直そうとしたが、そうする前に機体が一回転。

 背中から地面に叩きつけられた。 


 「くっそ。 もう一回頼む」

 「はいはい、いくらでもどうぞ」


 マルメルの機体は全ての武装を外し装備しているのはブレード一本。

 これは近接戦の特訓ではなく接近してきた相手への対応訓練だった。

 前回の戦いでケイロンに敗北したマルメルは得意距離以外での対応力に問題があると判断してシニフィエに教えを乞う事にしたのだ。


 「相手の重心を意識すれば崩し方は自然と身に着きますが、マルメルさんは崩された時の立て直しを学びたいとの事なので取り敢えず引っ繰り返らなくなるまで投げます。 幸いにもトルーパーには姿勢制御用のスラスターが付いているのでそれを利用して上手く立て直してみてください」


 マルメルは考えた。 今の自分に何が足りないのかを。

 単純に長所を伸ばすという手も考えはした。 

 だが、どうにも頭打ちになっている感覚がしたので、今は欠点を潰す事を意識したのだ。


 つまり近接スキル。 

 流石にふわわやシニフィエと同じレベルは無理だと思っているが、接近された時に凌げる程度の術は身に付けておきたい。 そんな気持ちでシニフィエに頭を下げたのだ。


 最初は「えー? 私に教えられる事ありますか?」と微妙に嫌そうだったのだが、パーツを買ってやるといったら二つ返事で頷かれた。

 現金な奴だと思いながら、ふわわもこうして色々と買わされてるんだろうなとも納得した。

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