地下施設で防備も整っているので正面からなら簡単に突破される事はない。
――正面からなら。
「僕としてはないと思いたいけど、地中から来る可能性は排除しきれない」
「いや、ほぼ確実に来ると思いますよ」
ヨシナリは口ではほぼと言ったが絶対に来ると確信していた。
何なら攻勢を激しくしたタイミングで五層全てに地中から強襲をかけてくるぐらいは平気でやると思っているので、対策は必須と言っていい。
「だろーナ。 ウチらが前線固めてたらがら空きの地下から仕掛けてくるなんて事は普通にあると思うゾ」
「いや、その点は俺も同意なんだけどどうやって防ぐんだよ。 地中とかどうにもなんねーだろ」
ツガルの言う事ももっともだが、手がない訳でもない。
センサーシステムは物によっては振動を感知するタイプもあるので予兆ぐらいは感じ取れるはずだ。
「そう言えば全体の方針はさっきの会議で聞きましたけど、皆さんはどう動くつもりなんですか?」
ヨシナリがそう尋ねると全員が黙った。
何だこの反応は?と内心で首を傾げていたが、タヂカラオはともかくツガルとポンポンはやや疑いの眼差しを向けている。
「お前が先に言え。 ちなみに嘘は後でバレるからな」
「そうだゾ! 前みたいに抜け駆けしようとか企んでるんじゃねーだろーナ?」
どうやら前のイベントで反応炉を直接潰しに行った事で警戒されているようだ。
「いやだな。 初見のイベントで抜け駆けなんて真似ができる訳ないじゃないですか」
「いいから予定を言え」
ツガルの有無を言わせない口調にヨシナリは苦笑。
「初見なんで一先ずは情報収集に努めるつもりです。 さっきも触れましたがこの施設、不明な個所も多々あるのでその辺の確認の為に一層から五層までぐるっと回って何もないなら防衛に参加する形になると思います」
嘘ではなかった。 何をするにも最低限の情報がないと動きようがないからだ。
ユニオンメンバーにもその話をしており、足の速いヨシナリが偵察を兼ねて情報収集に努める事となった。
「疑うなら一緒に行きますか?」
特に後ろめたい事もなかった上、一人で基地内を回るのも退屈そうなので話相手が居るならありがたい。
そう返すと三人は顔を見合わせた。
「これは本当っぽいな」
「だナ。 演技だったら大したものだゾ」
「僕は君達が何故ここまで警戒するのかが理解できないよ」
ヨシナリは自分が来る前にこれは何か打ち合わせをしていたなと察したが、裏を返せばそれだけ反応炉捜索というイベントを逃した事が惜しいと思っていたのだろう。
流石に少し罪悪感的な物が湧いたので次があったら声をかけるようにしようと決めた。
「まぁ、俺の話はともかく、そちらはどうなんですか?」
「俺は前線で防衛だ。 ジェネシスフレーム持ちを遊ばせるのは勿体ねーから真っ先に突っ込めとか言われちまったよ」
ツガルはそう言って肩を落とす。
「あたしも似たようなものだ。 乱戦になるのは目に見えているからシックスセンス持ちは動かしたくないっておねーたまに言われたからナ。 多分、前線に張り付く事になりそうだ」
「僕もだね。 流石に出し惜しみはしたくないと判断されたらしく、イベントの間だけ機体が戻ってくるので前線で防衛になるよ」
ポンポンは不満はないが少し窮屈といった様子で、タヂカラオは小さく肩を竦める。
「あ、そう言えばポンポン君。 君もAランクに上がったと聞いたんだが本当かい?」
「……あぁ、あたしにはまだ早いって思ってるんだけどナ。 機体は今、作ってる途中だからイベントには間に合わないんでそっちはあんまり期待するナ」
「そうなんですね。 完成したら是非、模擬戦のお相手をお願いしますよ。 見てみたいです!」
特にポンポンは自分と戦い方がかなり近いので今後の参考になりそうだった。
「お、おぅ、そっちも頑張ってるらしいじゃねーか。 もうCだろ?」
「はい、今までランク戦をサボってた事もあって今はかなり力を入れてます」
イベント後もランク戦に注力するつもりなので実を言うともうBランクは視野に入っていた。
そこまで行ければPが安定して手に入るのでジェネシスフレーム購入の為の貯蓄を始める段階に入る。
ジェネシスフレームが必須である以上、Aを目指す前に準備は絶対に必要だ。
「マジかー。 俺もうかうかしてられねーな。 ――ところで話は変わるんだが、ユウヤとベリアルはどんな感じだよ。 あ、そんなに他意はないぞ。 ユウヤに関してはボスと離したいから居場所ぐらいは知っときたいってのはあるけど」
「二人に関しては好きにさせるつもりなので、気ままに暴れるんじゃないでしょうか? 少なくとも地下には来るつもりはないようなので地上にはいると思いますよ」
この質問がツガルにとっての本命だったんだろうなと察し、素直に答える。
元々、あの二人は好きにさせる事もユニオンに引き込む条件の一つなので可能であれば協力を要請するが、そうでないなら基本的に自己判断に任せていた。
Aランクプレイヤーは良くも悪くも戦力として完結しているので、こういった大規模戦では任せておいた方がいい仕事をしてくれると勝手に思っている。
「なるほどな。 俺としてはお前が抜けがねしねーか、ユウヤがどう動くのかだけ知れれば特に言う事ねーよ」
「何か分かったらあたしに声をかけろよ! 待ってるからナ!」
ツガルは聞きたい事は聞いたと言わんばかりに終わった感を出しており、ポンポンは圧が凄かった。
タヂカラオはそんな様子を見て声をあげて笑う。
「あっはっは。 いや、君達は見ていて飽きないねぇ! あ、僕としても面白そうな事は大歓迎なので、是非とも戦力が入り用の時は声をかけてくれ給えよ。 可能であれば駆け付ける」
「ありがとうございます。 次のイベント、勝てるかは怪しいですが勝つつもりで頑張りましょう」
中々に実りのある時間だった。
ヨシナリは『星座盤』のホームに戻り、自室でポンポン達との話を脳裏で反芻していた。
大規模戦では横のつながりは大事だと言う事をこれまでの経験でよく理解していたので、いざという時に泣きつける相手は多いに越した事はない。 地上で苦戦したら真っ先にあの三人を巻き込もう。
ベリアルとの訓練に関しても成果は出ているが、実戦で通用するのかはまだ怪しい。
もっと完成度を高めたいが、イベント戦には間に合わないだろう。
今回は今ある手札でやるしかない。
可能であるならラーガストにアドバイスを貰いたかったが、今はユウヤを痛めつけるのに忙しいらしく無理と返事が返って来た。
――やれる事はやった。
後は行くだけだ。