一夜明けてイベント当日となったのだが――
「うーん。 こうなったか……」
ヨシナリは思わず呟く。 ホームに集まったメンバーは全員ではなかった。
ヨシナリ、マルメル、グロウモス、ベリアルの四人だけ。
ふわわ、シニフィエは昨夜にシニフィエからの連絡で欠席を伝えられた。
どうもふわわがガチの修行に行くとかでシニフィエも付き合わされる事になり、揃って欠席。
ホーコートは連絡が取れない。 ユウヤはラーガストとの特訓に専念するとの事なので休み。
ラーガストが一緒という事で必然的に彼も不参加だ。
「まぁ、これまでの出席率が良かっただけで、大体はこんな物か」
「だな! 今回は大規模戦だし、面子が足りないのはそこまで問題じゃないだろ」
来ないものは仕方がないのでいる面子でやり繰りするだけだ。
「よ、ヨシナリにはわ、私がい、居るから大丈夫。 フヒッ!」
「た、頼りにしてますよ。 マジで」
少し声が引き攣ってしまったが、グロウモスは特に気にしておらず「ヒヒッ!」と気味の悪い笑い声を漏らす。
「この研磨されし闇を披露する時が来たようだな」
「ふ、俺達が闇を理解し、闇が俺達を理解する。 それにより俺達の闇は研磨され、あらゆる敵を両断する刃となるだろう」
「だが、我らの闇はまだ不完全。 完成には更なる研磨が必要か」
いつもの調子を取り戻したベリアルがくねっとポージング。
ヨシナリもそれに合わせて身をくねらせる。
「可能であるならば披露は因縁の相手にこそ相応しいが、場合によっては奴らの走狗に見せつけるとしよう。 俺達が至った境地を、な」
ヨシナリが意味深な事を言うとベリアルは心底から愉快だと笑い出した。
それを見て、マルメルは「どんどん酷くなってるな」と軽く引いて、グロウモスは何故か不審な眼をベリアルに向ける。
「よし、イベントの概要と動きに関しては問題ないな?」
「お前の切り替えの良さには驚きしかねよ。 ――まぁ、頭には入ってるぜ。 ヨシナリは施設の確認、俺、グロウモスは地上の監視。 ベリアルは遊撃だろ?」
その通りだった。 今回は負ける事も視野に入れての情報収集だ。
勝ちたいとは思っているが、何も知らずに負ける事が最悪だと思っているので最低限の情報は得ておきたかった。
「別にお前の意見に口を挟む気はないけど、そこまでする必要があるのか?」
「なかったらなかったで『何もなかった』事がはっきりするからそれはそれで収穫だよ。 そもそも事前情報で秘匿するような区画があるのが滅茶苦茶胡散臭いんだよなぁ……」
そうこうしている内に開始のカウントダウンが始まり、入場が可能になったのでそのまま移動。
風景がホームから切り替わる。 ヨシナリのアバターは機体と接続され、フィールドへ。
空を見上げれば一面の星空。 そして圧倒的な存在感を放つ惑星ユーピテル。
斑の雲と特徴的な大赤斑は見間違いようがない。 どうやらここはユーピテルの衛星と言う事なのだろう。 もう既に大手のユニオンは動き出しており、施設内へ入ってコンソールを用いてセントリーガンを大量に生産して防備を固め始めていた。
元々、防衛システムは存在しているが、可能な限り強化して防御力を上げようという訳だろう。
「じゃあ俺は下を見てくる。 何かあれば連絡してくれ」
「おう、何もないと思うけど気を付けてな!」
ヨシナリはマルメルに小さく手を振って移動を開始。
『星座盤』の初期配置は中央のゲート付近だったので内部への侵入は楽だった。
ゲートの操作方法を発見したユニオンから戦況次第ではゲートを閉鎖するので気を付けるようにとアナウンスされているのを聞きながら無数の機体が出入りしている脇を通って内部へ。
第一層はメンテナンス施設や宇宙港。
港に船はなかったが停泊できそうなスペースはあったので、将来的にはユニオンで戦艦を持てる日が来るのかもしれない。 実装されてみないと分からないが金がかかりそうだなと思いながら奥へ。
下層へ続く巨大なゲートを潜って更に下へと向かう。
途中、各階層へ向かう為のエレベーターをいくつか見かけたがヨシナリは全ての階層を見ておきたかったのでそちらはスルー。 第二層へ向かう。
そのタイミングでカウントがゼロになったようで基地内が僅かに振動。
どうやら始まったようだ。
「マルメル。 どうだ?」
『来たけど前の防衛戦で見た虫系のエネミーだな。 始まったばっかりだから何ともいえねぇが、この調子ならしばらくは問題ないと思う』
通信を送ると応答は即座だ。
「分かった。 変化があったら教えてくれ」
問題はなさそうなのでそのまま先へ進む。
二層は食料の生産プラントととの事だったが随分と廃れており、単なる森になっていた。
名残のようにあちこちに施設が存在しているが、植物による浸食によって明らかに稼働していない。
マップを確認すると目立つ建物はエレベーターを用いた昇降口のようだ。
流石に東西南北から入れるだけあって異様に広い。
そして問題はこのフロアには防衛装置の類が一切ない事だ。
ただ、それを懸念しているのはヨシナリだけでなく、他の大手ユニオンも認識はしているようで、出入りしているプレイヤー達がせっせと防衛装置を設置している姿が見えた。
三層は研究エリアと言う事で詳細が不明だったので、一番気にはなっていた場所だ。
専用のゲートから降りるとマップが表示される。
――あっさり入れた上、マップも表示されているのに何故隠したのだろうか?
さっぱり分からないが表示を見ると面倒な地形ではあった。
基本的にトルーパーで移動できるのは物資や大型機材を移動させる為に用意された場所ばかりで、他は人間が行動する事を意識した作りなので全体を見たいなら機体から降りなければならない。
既に先客が居て、機体から降りて探索しているプレイヤー達が数多くいたのでヨシナリは地形の確認だけに留めて先へと向かう。 何が起こるか分からない以上、機体を降りるのは少し怖い。
ざっと見た限りでは映画などでよく見る研究所でございといった様子だが、こちらも時間の経過による荒廃が見て取れる。
――設定的にここは放棄された基地なのだろうか?
「その割には電源は来てるんだよなぁ……」
壁や天井には照明が取り付けられており、視界に問題はない。
見れば見るほどに分からない場所だった。 次は第四層だ。
たしかインフラ関係だったはずだが――