侵攻戦で見かけた機種は四種類。 強化装甲装備の灰色機体。
スペック的にはソルジャー+と同程度だが、プラスフレームと同等というだけあって使用者によっては脅威度は変わって来る。
よくよく見ると強化装甲を装備せずにエネルギーウイングで機動性を盛っている機体も居るのでCランク相当の戦力と評価すれば間違いはないだろう。
次に白黒のツートンカラー機。
性能的には灰色の完全上位互換で、大半は機動力に振っている事もあって油断はできない。
そして最も厄介な銀色の機体。
エネルギーウイングを四基も積んでいるだけあって機動性だけなら一部のジェネシスフレームすら超える。
他にも拠点防衛用らしい黄土色の機体が居たはずだが姿が見えない所を見るとこれから入港を試みる戦艦に搭載したままだろう。 あの機体の火力は閉所などの限られた空間での脅威度は非常に高い。
割合としては灰色6、白黒3、銀1といった所だろう。
まともにやれば勝てない相手ではないはずだが、イベント戦で相手にはエネミーという無尽蔵の戦力が居る以上、圧倒的に不利だ。 今回も時間制限付きなので勝利条件は粘る事。
相手もそれを理解しているからこそこんな前のめりの攻勢に出ているのだろう。
数が無限なら圧し潰すのは理に適っている。
今までに何もしてこなかったのはこちらの戦力を測っていたとみていい。
――頭を使ってきているね。
これまでは突撃一辺倒で、次々に上位機種を投入するといったあまり頭のよろしくないゴリ押しばかりだったのだが、今回はしっかりと策を練ってこちらを潰しに来ている事を感じる。
敵機がエネルギーウイングを噴かして背後を取ろうとするのを躱しながらタヂカラオはエネルギーリングを連射。 特性を理解できずに輪を潜った機体がリング内の重力異常に引っかかり動きが止まる。
そこを味方がとどめを刺す。 敵の数がとにかく多いのでタヂカラオのエネルギーリングは誤射にさえ気を付ければこの戦場ではかなり有効な攻撃手段だ。
上手く行けば複数纏めて動きを止められる事もあって上手く決まれば中々に美味しい。
――とはいっても数の差は如何ともし難い。
ちらりと振り返ると彼が配置された南ゲートがかなり近くなっている。
最初はかなり離れた位置だったのだが、徐々に押し込められてここまで下がってしまったのだ。
味方機も随分と減ってきている。 早い段階で地上部分は放棄せざるを得ない事は読めていたが、思った以上に早い。
経過時間を見るとようやく二時間。 展開的にはまだ序盤だ。
タヂカラオとしてはもう二、三時間は保たせて欲しいと言うのが本音だった。
理由としては補給、整備設備が一層に集中しているのでそこにダメージを受ける事はこの先の継戦能力にかなりの悪影響が出るからだ。
調べによると下層にもメンテナンス施設は存在するようだが、規模が最も大きいのは一層だ。
つまり一層が陥落した時点で整備、補給にあまり期待が出来なくなる。
――まったく、メンテナンス施設を一層に集中させたのは誰だ?
せめて三層ぐらい下層に存在するなら二層までなら捨てても充分に巻き返せるといった思考にもなるが、先々の事を考えると一層は死守する必要があった。
至近距離で放ったエネルギーリングで白黒と灰色を数機纏めて撃墜したタヂカラオはとにかく相手の足を止める事を念頭に置いた立ち回りを意識していたのだが、いい加減に小細工でどうにかなるレベルを越えつつあった。
援軍を期待したい所だったが、他のゲートから少数が入り込み始めているとの話なのでこちらの援護には割いてくれないだろう。 つまり今の戦力で戦い抜く必要がある。
タヂカラオの攻撃を掻い潜って銀色の機体が突っ込んで来た。
「流石に速いな」
銃撃を躱しながらリングで応射。 敵機はリングが広がる前にひらひらと躱す。
もう特性を見切られた。 彼の機体『トガクシ』は重力制御を採用しているので機動性では分があるが、直線加速と瞬間的な旋回性能では劣っている。
加えて他の敵機の処理もあるので処理が追い付かないのだ。
だが、一対一なら充分に反応できる程度の動きであるならどうとでもなる。
他の敵機の数を減らしながら銀色の機体を常に視界にいれておけば――
「何とかなるか」
背後に来た銀色の機体に対して腕を向けてエネルギーリングを連射。
トガクシの最大の特徴は両腕両足のリングがそれぞれ攻防を担う事だ。
加えてエネルギーリングは発射すると広がりながら飛んでいくので少々雑でも相手は対処せざるを得ない。
輪を潜るとどうなるか理解しているのなら猶更だ。
敵機はやや大きな動きで回避。 凌ぎはしたがいい加減にきつくなってきた。
――本当に助けを求めるか?
最近できた『星座盤』の友人達は声をかければ来てくれるだろうか?
一度、イベントで共闘しただけの相手。 あまり濃いとは言えない関係ではあるが、タヂカラオは彼等の事を気に入っていた。 だからといって相手がそうとは限らない。
何だか試しているようで素直に助けを求める事を躊躇ってしまうのだ。
「まぁ、もう少し頑張ってみるかな」
『いや、そこは助けてって言う場面じゃないですかね?』
南側のゲートから高出力のレーザーが照射され、敵の一部が薙ぎ払われる。
空いた穴を広げるように重武装の機体――マルメルが突撃銃と短機関銃を連射。
銀色の機体はタヂカラオか突っ込んで来たマルメルの対処で僅かに迷う。
その間隙を突く形で直上から銃撃。
飛行形態のキマイラプラスが背負った特殊銃を連射しながら降りて来た。
特徴的なその機体は見間違いようがない。 ヨシナリだ。
「ヨシナリ君!」
「合わせてください!」
敵機はヨシナリが接近して来たタイミングで急旋回。
機体の腹を狙うが、ヨシナリは変形して急制動し、その真下を狙う形でタヂカラオがエネルギーリングを連射。 リングの外側に躱す関係で敵機の機動が限定される。
特に連射してしまえば誘導は容易だ。 敵機の回避先にはハンマーをフルスイングしたヨシナリ。
ポジションは逆だがイベント戦でヤガミ相手にやった連携だ。
前回との違いは相手の技量が低い事。 ハンマーのヘッド部分が敵機の脇腹を捉え、くの字に圧し折った。
メキリと嫌な音がして敵機の上半身と下半身が泣き別れ、上下の順で爆発。
「どうも。 頼まれてませんが助けに来ましたよ」
そう言ってヨシナリは振り切ったハンマーを肩に担いだ。