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第527話 第二次防衛戦⑨

 必要な人材は揃った。 

 敵の戦艦を奪うには取り付く必要があったので必須なのは頭数と空中での突破力。

 前者はヴルトム達が、後者はカカラが満たしてくれた後はどれを狙うかなのだが、ヨシナリは既に当たりを付けていた。 奥の方――要は高々度にいる戦艦。


 下手に真ん中の船を奪っても袋叩きに遭うので上を取れる位置が望ましい。


 「カカラさん。 動きに関しては――」

 「心配するな。 心得ている」


 カカラが機首を上に向け、ヴルトム達がその機体の各所に持って来た鎖分銅のような物を取り付ける。 先端が強力な電磁石になっており、簡単に剥がれない。

 マルメルとグロウモスの分も用意されており、二人も鎖に掴まる。


 「妙な物を用意させるから何に使うのかと思ったら……」


 ヴルトム達がカカラの機体に取り付けた鎖をしっかりと掴む。

 カカラの役目は敵陣の突破とその推進力で味方を引っ張り上げる事にある。


 「振り落とされないようにだけは気を付けてください。 落ちたら拾いに行けません」


 他のメンバーは単独でも問題ないので準備は完了だ。


 「では、行きますか!」


 ヨシナリの一言で全員が推力を最大にして空へと駆け上がった。



 最初に突っ込んで来た時点で気にはなっていたのだ。

 あの戦艦はどちらなのかと。 エネミーと同じで設定された目標に向けて動くだけ?

 可能性としては充分に有り得る話ではあるが、動きを見るとそうでないことが分かる。


 闇雲に撃ちまくっている訳ではなく、基地を包囲しながらゲート周辺を更地にするべく絨毯爆撃や艦砲射撃を繰り返している。 明らかに有人の敵性トルーパーと動きの傾向が同じだ。

 つまりあの戦艦は有人操作の可能性が高い。 そしてこれまでの傾向から敵の有人兵器は本質的には味方側が使っているトルーパーとそこまでの違いはない。


 事実として強化装甲等の装備は強奪可能であったからだ。 

 つまり、あの戦艦は奪い取れる。 そう結論付けたのだ。

 根拠はあるが確実である保証はない。 付き合ってくれた仲間達には無駄骨を折らせてしまうかもしれないが、敵の兵器を奪い取って敵を殲滅するシチュエーションは最高に面白そうなのだ。


 できるできないをはっきりさせる事を含めて非常に胸が躍る挑戦だった。

 カカラの機体が前面にフィールドを集中させて敵の弾幕を突破。

 流石にあれだけ目立つ機体なのだ。 狙われるのは目に見えている。


 同時に防御を前面に集中している事を看破されるのもだ。 


 「掴まってる連中は碌に反撃できねぇ! 回り込んでくる奴らは俺らで処理するぞ!」


 カカラの防御の死角に回り込もうとする敵機をツガルが次々と撃墜する。

 改めて見るととんでもない挙動だ。 既存の航空壁の型に嵌まらない挙動は初見であるならまず背後を取られる。 そこを一撃。


 彼に狙われた機体の大半は即座に撃墜される。 

 負けてられないと言わんばかりにポンポンは遠距離から狙いに来ていた敵機を次々と撃ち抜き、まんまるは両肩に背負った砲で前方の敵を焼き払って突破口を切り開く。


 ヨシナリはベリアル、ニャーコと接近して来る敵を処理。 

 タヂカラオは敢えて敵の只中に飛び込んでの攪乱だ。 

 とにかくカカラの被弾リスクを減らす立ち回りを意識した動き。


 事前にマーキングしておいた敵戦艦が射程内に入るぐらいに近づいた。


 「カカラさん!」

 「任せろ!」


 カカラはぬんと声を張り上げ、機体を横に大きく振り回す。

 半回転した機体に引っ張られ掴まっていたメンバーが遠心力で振り回される。


 「行け!」


 ヨシナリが声をかけると同時に全員が手を放して推進力を全開にして目標の敵戦艦の甲板へと着地。

 最初に着地したマルメルが出撃用のカタパルトから内部へと侵入する。

 それに続く形でヴルトム達も後を追う。 グロウモスは甲板上で敵への狙撃を開始する。


 「突入を援護! マルメル達が制圧するまで時間を稼ぎます!」

 「荷物も下ろした事だ。 ここからは好きにさせて貰うぞ!」


 カカラの機体が全ての武装を解放。 

 ミサイルとガトリング砲が火を噴き、近くに居た戦艦と敵機を次々と撃墜。

 巨体なだけあって火力は圧倒的だ。 敵だと死ぬ程厄介だったが、味方にするとこれほど安心できる相手はそう居ないだろう。


 『ヨシナリ! ブリッジを制圧したぜ!』

 『ヴルトムだ! ハンガーの制圧が終わった。 艦載機がほとんど出払ってて助かったぜ!』


 マルメル達がやってくれたようだ。 その証拠に戦艦の攻撃が停止する。


 「どうだ?」

 『お前の睨んだ通りだ。 船の制御にトルーパーを使ってやがる。 こりゃ奪えるぞ』


 マルメルは制圧したの俺だし最初は俺なと機体を船に接続し始めた。


 『おぉ、これヤバいぞ!』

 「おい、もうちょっと具体的に言え。 よく分からんぞ!」

 『まぁ、見てろって』


 レーダーに表示されている船の識別が敵軍から友軍に変化。

 他の敵戦艦に艦砲射撃を開始する。 レーザー砲、ミサイル、機銃などが次々と敵を攻撃し始める。


 『うははははは! 何だこりゃぁ! 気ん持ちいいいいいいいいい!!!』

 「おい、マルメル! 後で代わってくれ!」

 『おう! 後でな!』


 楽しそうに敵を焼き払うマルメルが余りにも楽しそうだったので羨ましくなったが、まだやる事がある。 

 ある意味読み通りではあったが、制御に一機使わされるのは少し重い。


 『ヨシナリ! こっちも報告がある』

 「何かあったのか?」


 内部を探索していたヴルトムからだ。 どうもハンガーの奥で何かを見つけたようだ。


 『聞いて驚け。 敵の大型機体だ』

 「例の黄土色のでかい奴か?」

 『それだ。 アバターっぽい奴が乗り込もうとしてたから踏みつぶしてやったぜ。 お陰で機体が丸々手に入った』


 ヴルトムはやや興奮気味だ。 これにはヨシナリも驚いた。

 流石に敵の特殊機が丸ごと手元に来るとは思わなかったからだ。


 「行けそうか?」


 そう尋ねるとヴルトムはにやりと笑う。 


 『今、コックピットに入った。 ――動かせそうだ』

 「マジかー」


 装備だけでなく機体まで扱えるとなると、これは場合によれば他のプレイヤーの機体も扱えるようになっているのか? 

 疑問は尽きないが敵専用の機体を触れるのは素直に羨ましかった。


 『やべぇ、イベント戦で過去一楽しいかもしれねぇ。 マルメル! こいつは図体がデカいからカタパルトから出せねぇ。 どうすれば出せる?』

 『ちょっと待て。 今調べて――奥に甲板に出る為の昇降機がある。 こいつで出られるぜ』


 マルメルも楽しそうだ。 ヴルトムは早速試そうぜと動き出す。

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