アメリアは戦況を確認する。 現状、エネミーの侵入は一層で止まっている状態だ。
二層に入れていないのはよく戦っていると言えるが、いい状態とは言い難い。
「オーバーSランクが居たなら楽勝だったでしょうが、あの子を入れるとボランティアを使う意味がなくなるからねぇ」
希少なオーバーSランクの力は圧倒的だ。
Ωジェネシスフレームを使ったとはいえアレを仕留めて見せたのは素晴らしい。
流石はあのβテストに最後まで抗って生き残っただけはある。
「ですねぇ。 Ωなしでもあの強さですから、彼等はちょっと格が違いますよ。 ――というか、Ωがあればボランティアに頼らなくてもいいんじゃないんですか?」
ジョゼの言葉にアメリアは溜息。
この娘はオペレーターとしては優秀だが、スタッフとしてはあまり褒められた出来ではないのであまり好きではなかった。
「あの豚達はΩみたいな替えが利かないようなワンオフ機より、安定した性能を発揮する高性能量産機とそれをまともに扱える駒が欲しいのよ。 だからボランティアを増やす事にも積極的だし、私のアヴェスターシリーズ開発にも金を落としてくれる」
それにβテスターは状況によっては言う事を聞かないから、そういった意味でも扱いやすいのが欲しいのよと付け加えた。
「あぁ、だからボランティアへのMODインストールに積極的なんですね」
「そう、あの愚かな豚達は他人の猿真似を寄せ集めれば『超人』を作れると勘違いしているのよ。 ――本当に馬鹿な話、石に何をメッキしたって石でしかないのにね?」
アメリアはそう言って嘲笑を浮かべるが、ややあってジョゼを振り返る。
「使用許可は出したわ。 ジャパンサーバーを担当するオペレーターはあなたって聞いているのだけどこんな所で油を売ってていいのかしら?」
「あー、そういえばそうでしたね。 用事も済んだしそろそろ行ってきます。 まぁ、私の出番はあればいいってレベルなのでのんびりでも大丈夫なんですよ」
アメリアは特に応えずに追い払うように手を振る。
ジョゼが失礼しましたと出て行ったのを見送って可視化したウインドウへと視線を戻す。
イベント戦ではそろそろ変化が起ころうとしていた。
「日本のプレイヤーには私の求める宝石は居るのかしら?」
アメリアは小さくそう呟いた。
敵艦を奪う事で施設への攻撃を防ぐという動きは機能している。
ヨシナリは交代で補給を済ませて次に備えていた所でそれが起こった。
無数のレーザーが空から降り注ぐ。 それだけなら敵が来たと思うだけでいいのだが、そのレーザーが問題だった。
曲線を描いて飛んで来たのだ。 いや、曲線だけではなく、不自然な曲がり方をしている物もある。
湾曲――ではなくホーミングか何かか? 飛んで来た方を見ると見慣れない機体が次々と戦場に現れていた。 現れたのは二種類。
片方は白。 エンジェルフレームに似たやや細身のフォルムだが、推進装置は重力制御なのか目立つ形で付いていない。 その所為で猶更細く見える。
背中、人間でいう肩甲骨の辺りに光の輪が浮かんでおり、レーザーはそこから飛ばすようだ。
エネルギーの分布を見ると根本的な出力の高さもあるが、誘導性能のあるレーザーは厄介だ。
どういう仕掛けなのかは不明だが、狙った所にそのまま飛んでいくと見ていい。
処理としては下手に躱すよりは防ぐ方が楽かもしれないか。
もう一種類は赤の機体。 背中に真っ赤な光輪と携行武装に散弾銃。
吐き出されるのは実弾ではなくエネルギー弾だ。 特筆するべきは機動性で、加速もそうだが旋回性能が厄介だった。 重力制御とエネルギーウイングに似た推進装置の合わせ技だろう。
追加が出てくるのは分かっていたが、ヨシナリの感想としては思った以上にまともなのが出て来たなといったものだった。
運営の方針的に理不尽な攻撃密度の巨大エネミーや侵攻戦の時のような探知方法が限られている初見殺しが来るものかと疑っていたので想定していたほどではなかったので少し安心したぐらいだ。
「おぉ、ヤバそうなのが来たな」
「まだ簡単に落とせそうな奴で良かったじゃねぇか!」
ヴルトムとマルメルが近寄らせないように弾幕を張る。
ヨシナリとしてはマルメルに同意だった。 手強いだろうが既存の技術の合わせ技のような印象を受ける。 実際――
「ふ、天使を気取るか黒幕の走狗よ。 だが、貴様ら程度では闇の深さは越えられない。 沈め! 奈落の底へとな」
ホーミングレーザーを短距離転移で躱し、散弾銃を旋回で対処。
斥力フィールドを展開していたが、ヨシナリとのセンサーシステムのリンクを行っているので無意味だった。 エーテルブレードが防御の密度が薄い所を狙って一閃。
次々と撃破していく。 性能はジェネシスフレームと同水準かやや下回るといった所だろうか?
尖った部分が少ない分、扱い易さを意識した作りになっているように見えた。
他の敵機に比べて確かに手強いが、そこまでの怖さは感じない。
レーザーが飛んでくる。 試しにと加速するが、躱すのは難しそうだ。
ただ、手応え的に距離があれば加速で振り切れそうだった。
――数が居るこの状況的には防いだ方が楽か。
シックスセンスを使えばどこをロックしているのかが、丸見えなのでそこに合わせて防御すれば――腕に展開したエーテルシールドで防ぐ。
「そこまで怖くないな」
発射直後を狙ってアシンメトリーで一撃。 コックピットを撃ち抜いて撃破する。
性能の平均化だけでなく、ホーコートのようにチートを使っているのも明白。
挙動にある種のパターンが見受けられる。
特に回避が顕著で白は距離を取ってレーザーでの反撃、赤は旋回で背後を取る事を狙う動き。
恐らくはスムーズに反撃に繋げられる為のアシストだろう。
平均化された機体、平均化された操作、平均化された挙動。
あの二種類の機体から伝わってくるのはとにかく誰にでも簡単に扱えて一定の戦闘能力を発揮しようといったコンセプト。 要は数が居る事が前提なのだ。
多数で来ないなら何の問題もなく処理できる。 ヨシナリでこれなのだ。
ちらりと見るとツガルは純粋に軌道で上回り、ベリアルは完全に圧倒、マルメルも感覚で回避先を狙って弾幕を張って仕留める。 機動性を重視している所為で過度な被弾はフィールドで防ぎきれないようだ。