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第530話 第二次防衛戦⑫

 「はっ、こいつら大した事ねーナ!」


 中でもシックスセンスを扱っているポンポンは特に処理が早かった。

 レーザーで狙って来る相手は先制して銃撃し、散弾銃持ちは突っ込んで来たタイミングで急旋回をかけて背後を取って拳銃で一撃。 フィールドで防御しようとした相手は薄い部分を狙う。


 「ですね。 数はいますけど思ったほど大した事ないですよ」


 ヨシナリも対処に慣れてきたのでアシンメトリーからアトルムとクルックスに持ち替えて敵機を順番に撃墜する。 狙い目はこちらに意識を向けていない機体だ。

 高出力の兵装を使う関係でフィールドを全面展開ではなく、局所展開しかできないのがかなり致命的だった。 防御に意識を割いた瞬間にがら空きの所に撃ち込めばあっさりと墜とせる。


 そもそも挙動の何割かをチートに頼っているような連中な上、回避、攻撃モーションもホーコートのよりバリエーションが多い程度なので慣れると簡単に回避先を狙えるのも楽な要因だった。

 特にホーコートが多用している右旋回はもはや見慣れたと言っていいレベルなので、使って来たら遠慮なく狩りに行く。 目の前で右旋回した機体の回避先にバースト射撃。


 吸い込まれるようにコックピット部分に命中してそのまま撃破。 

 ヨシナリを脅威と認識したのか赤い機体が急旋回でヨシナリの背後を取ろうとしてきたが、機体を振り回すようにその場で横回転。 鞭のようにしならせた蹴りを放ち、銃身を蹴り飛ばす。


 逸らした所を至近距離から一撃。 敵機が爆散したのを確認せずに意識は次の標的へ。

 運営の狙いとしては戦況を傾けるつもりで投入した機体なのだろうが、思った以上にプレイヤー側が崩れていない。 


 「機体の性能は良いのにもったいないナ」 

 「明らかに使いこなせてませんからね」


 正直、これまでのイベントで一番ヌルいのではないかと思ってしまう。

 加えて――戦場の一か所を見てヨシナリは思わず笑ってしまった。

 何故なら敵の機体の一部が味方の識別信号を出して戦っている。


 これが敵の欺瞞工作等であるなら面倒な事をしやがってと思うが、実際は機体を奪ったプレイヤーが乗り回して敵に襲い掛かっているのだ。 これで笑うなという方が無理な話だろう。


 「機体パクられてる奴滅茶苦茶居て笑っちまうな」


 マルメルの言う通りだった。 結構な数の低ランクプレイヤーが例の機体で暴れまわっている。


 ――これ、本当に大丈夫なんだろうな?


 上手く行きすぎて不気味さすら感じられる。 

 こうしている間にも味方は敵の船や機体を強奪して戦力を増強しているのだ。

 施設の方はエネミーの無限湧きが収まっていない事もあって一進一退といった様子ではあるが、今の所は一層で抑えられている。 時計を確認すると既に三時間が経過していた。


 イベントは十二時間。 もう四分の一が消化された事になるが、敵の勢いはそのままだ。

 敵は次々と出て来るので楽ではないのは確かだが、畳みかけてこないのが引っ掛かる。

 まるでこの状態を維持したいといった意図が見えるが、何故維持したいのかが分からないのだ。


 ――不気味ではあるが使えるものは有効活用するべきか。


 「気になる事は多いですが補給と整備を兼ねて交代で休憩に入りましょう!」


 まだまだ先は長いのだ。 休める時に休んでおくべきだろう。 

 その後は数名でローテーションを組んで休憩に入り、ヨシナリも機体を戦艦内のハンガーに預けて休息を取る。 ログアウトはせずに何が起きても対応できるように機体の中で眼を閉じた。


 アバターではあるが視界を閉ざして力を抜く事で多少は気持ちが休まる。

 だが、思考はこのイベント戦への分析に割かれていた。 

 運営の意図は気にはなるが今は棚上げにし、次は何を仕掛けてくるかだ。


 以前のイベント戦ではどうだったかと記憶を掘り起こす。

 基本的にこの運営の攻め方は数での圧殺だ。 

 それができないなら巨大兵器を繰り出して抉じ開ける。


 だから傾向的にそろそろ大物が出て来るのではないかと思っていたのだが、今回は外してきた。 


 「いや、順番が違うだけで次に来るのか?」


 思わず呟く。 来るとしたらどこだろうか?

 思考を切り替える。 自分が運営ならどう攻める? 

 目的は基地の破壊だ。 制圧ではなく破壊なので攻撃側のハードルは低い。


 ――まぁ、単純に焼き払うのが手っ取り早い。


 さて、ならそれを行うに当たって都合がいいのは何だ?

 これまでに遭遇したエネミーを思い出す。 メガロドン型? それともカタツムリ型?

 いや、有人操作の機体が主戦力であるなら最適なのは――


 不意にズンと衝撃音が響く。 ヨシナリは目を見開き、ホロスコープを起動。


 「何があった?」 


 通信の相手はマルメル。 返事は即座で声は引き攣るように笑っていた。


 『いやぁ、これまでちょっとヌルいなーとか思ってたんだけど、いきなり本気出してきやがったぞ』

 「何が出てきた?」


 質問しながら外へと飛び出す。 視界に戦場が広がるが、巨大な異物が目を引く。


 「まぁ、そう来るよなぁ……」


 この状況での最適解。 最も効率よくプレイヤーを苦しめる事ができる機体。

 数十メートルクラスの巨体、イソギンチャク型だ。

 それが基地を囲むように十数機。 以前の防衛戦で猛威を振るったあの化け物が複数。


 最も厄介なのは基地を取り囲むように配置されている事だ。 

 あのエネミー――システム上は強化装甲扱いなので武装なのだが――にはあの凄まじい破壊力のレーザーがある。 それが意味する所は――


 『クソがっ!! またあいつかよ! 基地の中へ逃げろ! 地上はもう駄目だ』


 誰かが通信でそう叫ぶ。 ヨシナリも全くの同意見だった。

 全てのイソギンチャクが口を大きく開き、エネルギーが収束していく。


 「あぁ、畜生。 数を繰り出してくるとかありかよ!」


 シックスセンスでエネルギー流動を確認。 

 エネルギーの流れは何も攻撃のタイミングだけでなく、機体の挙動を予測するのにも使える。

 ヨシナリが知りたいのは上か下かだ。 形状的にそこまで深い角度で撃てないとは思うが――


 「フカヤさん! 北東方向へ全速で後退を! 急いで!」

 『わ、分かった!』


 ふざけた事に半分は下。 残りは上を狙ってる。

 明らかに味方ごと葬ろうとしているのは明白だ。 急いで射線から逃れなければならない。

 その間にヨシナリは近くの船にも北東方面に逃げるように促す。


 やがてイソギンチャクのチャージが済み――光が放たれた。

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