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第531話 第二次防衛戦⑬

 以前の出現したイソギンチャクは直接基地を狙わずに上空への威嚇へ留めた。

 理由はプレイヤーを誘き寄せて正面から戦う為の手段だったからだ。

 つまり前に現れた機体はプレイヤーと戦う事が目的であって基地の破壊は二の次だった。


 あの時はそれに救われた形になったのだが、今回は複数繰り出してきている時点で本気度が違う。

 地面が縦に揺れる程の衝撃。 砲撃の結果を見てヨシナリは思わず表情を歪めた。

 基地の地上部分が軒並み消し飛んでいたからだ。 誇張抜きでほぼ更地と化していた。


 空中も同様で射線上に居た機体、戦艦は一つ残らず消し飛んだ。

 被害だけでも凄まじいが、厄介な点は味方ごと撃った事だった。

 つまり何があろうと攻撃を一切躊躇しない。 


 「容赦がないな」

 「ヨシナリ! どうするよ?」


 ツガルの機体が隣に来る。 流石の彼もこの有様に少し動揺しているようだった。


 「選択肢はありません。 あのイソギンチャクを潰します。 厄介な相手ではありますが、無敵ではないのでやり方次第ではどうとでもなるでしょう」 


 そう言ったがイソギンチャクの最も厄介な点はあの姿が第一形態・・・・である事だ。

 主砲に関しては長いチャージが必要なのでもう撃って来ないだろうが、あの反射ドローンを用いてた結界とも呼べる守りがある。 仕留めても第二形態、更に操作している本体が現れるのだ。


 正直、やってられない相手だ。 最大の問題は中身。

 ラーガストと同等レベルの使い手が中に入っていたらどうしようもない。


 ――どう攻めたものか……。


 不意に横を飛んでいたカカラの機体が加速。 


 「カカラさん?」

 「ヨシナリよ。 先行する。 奴には借りがあるからな!」


 そう言って一番近くのイソギンチャクへと突っ込んで行った。

 できれば足並みを合わせて欲しい所ではあったが、元々一匹狼が集まった『烏合衆』所属のプレイヤーだ。 多くを求めるのは間違っているので、ここまで協力してくれただけでも上出来だろう。


 「了解です。 お互いに頑張りましょう」

 「うむ。 お前との共闘、中々に楽しめたぞ!」


 そう言ってカカラは一気に加速。 直ぐにその機影が小さくなっていく。

 イソギンチャクは基地から数キロ離れた位置なので処理するには基地の守りを捨てなければならない。 ただ、地上部分が焼き払われた以上、もう内部での戦いになるので外を守る事にはあまり意味がなかった。


 「戦友よ」


 次に声をかけて来たのはベリアルだ。 用事は分かり切っていた。


 「闇の王よ。 征くのだな」

 「あぁ、中身は違うが奴には借りがある。 その清算と我が闇が何処まで届くのかを見極めたい」

 「直ぐに追いつく」


 それだけで充分だった。 ベリアルは小さく頷くと短距離転移を多用して瞬く間に先へと進む。

 ヨシナリは小さく息を吐く。 二人に関しては想定内だったので気にはしない。


 「さて、これからイソギンチャクを仕留めるんですが、作戦を説明したいと思います。 不満や疑問があれば遠慮なくお願いします」


 ヨシナリはそう言ってこれからの動きに関しての説明を始めた。



 ベリアルがその場に到着した頃には既に戦闘は始まっていた。

 判断の早い者が即座に向かって行ったからだ。 イソギンチャクの強さは前回から据え置きの様で展開した無数の反射ドローンによる結界のようなレーザーの檻が既に展開されていた。


 第一形態は防御に偏った装備構成だが、攻撃力がない訳ではない。

 光学兵器は跳ね返される事は前回のイベントで散々見て来た事もあって攻撃を仕掛けている大半のプレイヤーは実弾兵器で対応している。 


 複数の戦艦がミサイルをばら撒き、艦砲射撃を繰り返すが結界に阻まれて通らない。

 そんな中、ベリアルは光の格子を掻い潜り、イソギンチャクの表面へと肉薄。

 エーテルブレードを一閃。 傷は付くが装甲が厚すぎて中まで通らない。


 これでもジェネレーターの強化によってブレードの硬度は増したのだが、まだまだのようだ。

 穴の周囲にある触腕が光る。 EMP攻撃。 

 これに関しては真っ先に対策を取っているので関係がない。 発光。


 強化されたエーテルの鎧は電磁パルスだけなくジェネレーターを強制放電させる特殊パルスも完全に無効化する。

 触腕の一つに無数のミサイルが突き刺さり爆発。 ちらりと上を見るとカカラが結界を強引に突破して攻撃を仕掛けていた。 彼の機体は巨体である分、防御に非常に優れているが無茶と言わざるを得ない。


 「はっはぁ! いつぞやの借りを返させて貰うぞ!」


 そう言って機体が変形・・した。 本来の姿へと。

 イソギンチャクはカカラの脅威度が最も高いと判断して攻撃を集中しようとしたが、他の機体がそれを阻む。 


 反射するのは光学兵器のみで実弾兵器を用いれば破壊は可能なので数を減らせば攻撃密度を薄くすることができるのだ。

 カカラは拳を握ると手首が内部に格納され代わりに出てきたのは巨大なドリルだ。 


 「行くぞぉぉぉぉ!」


 背面に移動した推進装置を全開にしてカカラはドリルをイソギンチャクの装甲に叩きこんだ。

 凄まじい音がして装甲が削られて破片が飛び散る。 装甲の一部を剥がした所で胸部装甲が展開。

 仕込まれていたガトリング砲が火を噴く。 流石に不味いと判断したのか触腕の一つが伸びてカカラを薙ぎ払おうと振るわれるが、割り込んだベリアルがエーテルブレードで切断。


 「ん? おぉ! ベリアルではないか! 助かったぞ!」

 「構うな! 貴様の為すべき事をしろ!」


 カカラは応と頷き、ガトリング砲を連射しながら距離を取る。

 意図を察したベリアルは胸部の吸排気口にエーテルを集中。 

 カカラの全武装を解放したタイミングで発射。 無数のミサイルと銃弾、そしてベリアルの放った収束したエーテルの砲がイソギンチャクの胴体へと深々と突き刺さった。


 衝撃が全身に行き渡ったのかあちこちで爆発が起こる。 

 やったか?と思ったが、爆発が浅い部分でしか起こっていない。

 次が来る。 イソギンチャクの外装が剥がれ落ち、ウツボ型が出現。


 この巨大な怪物はこうなってからが本領だ。 

 一度戦った事で攻撃手段も割れている以上、未知に恐れる必要はない。

 イソギンチャクを比較的ではあるが簡単に仕留められた事もベリアルの勝てるといった気持ちに後押しをしていた。 


 ――だが、その裏であるタスクが完了しようとしていた。




 ――ダウンロード。 『アヴェスター』シリーズの投入開始――完了。


 ――ユーザーにマニュアルと専用MODのインストール開始――完了。


 ――『サクリファイス』、『スレイブ』の撃破数が一定値を突破。


 ――一部MODの制限を解除。


 投入開始。

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