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第532話 第二次防衛戦⑭

 ウツボ型が攻撃態勢に入った時にそれは現れた。

 白い機体。 識別は当然敵。 デザインはさっきから湧いているエネミーと同系統と感じられる。

 武装も推進装置も見当たらないので随分とスマートな印象を受け、胴体部分にある無数の顔のような意匠が目を引く。


 デザイン的に完成度はこちらの方が遥かに上。 

 恐らくはさっきから出て来た連中は量産型・・・といった所だろう。


 そして目の前の現れたこの機体はオリジナル。 もしくは上位機種。

 面白い。 ベリアルの意識はウツボ型から目の前の敵機を仕留める方向へと切り替わった。

 カカラはベリアルの様子を見て機体を変形。 ウツボ型へと向かっていった。


 「ふ、光輪も翼も見えぬが天使といった所か。 この戦場を用意した神の走狗が現れたという事は貴様等も追いつめられているのだろう」 


 敵機は手を軽く振るうと何もない所からいきなりドローンが出現。

 出現と同時にノータムで射撃。 短距離転移で回避しつつ懐に入る。

 エーテルの爪を出現させて一閃。 敵機はどこからか呼び出した剣で受ける。


 その間にも次々とドローンが数を増やし、レーザーを発射。

 短距離転移で回避しつつ、加速。 このタイプの手数で来る敵機は転移先を狙ってくる事が充分にあり得るからだ。 手数で圧倒して来る手合いか?


 脅威が分かり易ければ対処を練る事も容易い。 

 ドローンはベリアルを包囲するように追いかけて来る。 味方を巻きこむ事を懸念して戦場から離れると敵機はしっかりと追ってきた。 こちらに執着している事を確認して加速。


 こうしている間にもドローンの数は増え続け、既に二十を超えていた。

 増えすぎると躱しきれなくなるので適度に減らす必要があると判断したベリアルは速度を緩める。

 意図して作った隙。 包囲に成功したドローンがレーザーを発射。


 同時に短距離転移で包囲の外へ出てエーテルを収束させた砲で纏めて焼き払う。

 息を吐かずに腕をブレードに変形させて振り返りながら斬撃。

 背後に居た敵機が剣で受け止める。 押し切ろうとしたが敵機の剣が振動したと同時にエーテルブレードが砕け散った。 動揺は僅か、胸部から無数のエーテルの弾丸をばら撒きながら後退。


 離れたと同時に転移で死角へ。 腕にクローを生み出して一閃。

 旋回して回避。 死角を狙った一撃だったのだが、まるで見えているかのように躱す。

 この反応には見覚えがあった。 侵攻イベントで現れた頭が三つある機体と似ている。


 後で聞いた話だが、アレは恐らく複数の人間が操作しているので死角が少ないとの事。

 それを聞いてベリアルはなるほどと納得した。 単純に眼が多い以上、死角が死角足りえない。

 これまでの攻防で敵機の性能は凡そ知れた。 最も厄介なのは無尽蔵に出現するドローンだろう。


 技量自体はそこまで驚くような物ではない。 

 複座の強みを活かした死角の少なさと反応の良さ、後は単純なマシンスペックだ。

 様々な用途のドローンを召喚する事で畳みかけてくる事で技量の不足を補っている。


 強敵ではある。 それにあの時の敵と似ているのはベリアルにとって好都合だった。

 あの時は戦友を救う事を優先しただけで、目の前の敵に対して自らの闇が通用しないという事はあり得ないと思っている。 寧ろいい機会だった。


 ベリアルは強敵を打倒する事でまた一つ奈落の深い階層へと潜る事ができると固く信じている。

 目の前の敵をどう突破するのかを考え――咄嗟に後退して攻撃を回避。

 飛んで来たのは実弾兵器だ。 何だと上を見ると見慣れない新しい機体が現れた。


 茶色の機体で各所に頭部を模した意匠――恐らくは本当の意味での頭部が複数。

 手には突撃銃が握られているが、それだけで今の弾幕を成立させる事ができるのだろうか?

 疑問の氷解は即座だ。 茶色の機体の周囲に無数の反応。


 浮かび上がるように全く同じデザインの機体が次々と現れる。

 分身? それとも量産機? どちらでも構わないが、数が居る事だけは確かだ。

 どうやらベリアルを脅威度が高い敵と判断したのか明らかに彼を狙っている。


 それだけではなくデザインが似た別の機体も彼を狙って取り囲むように現れた。


 「ふ、面白い。 神の走狗共が徒党を組んでこの闇の王を討たんと現れるとはな。 怖いのか? この俺が」


 エネミーは応えずに各々、武器を構えるが無数の銃弾やエネルギー弾、レーザー攻撃が敵機を襲う。

 敵機群は散開して回避。 新たに現れた脅威に対して銃口を向ける。


 「闇ある所に星は瞬く、か」


 複数の戦艦と無数の友軍機。 その先頭を行くのは彼が最も信を置く戦友――魔弾の射手ヨシナリだ。


 「どうやら間に合ったようだな。 闇の王よ、貴公の力は疑っていないが多勢を制すにはこちらも多勢で当たるべきだ」

 「ふ、王とは孤高な物ではあるが、貴様らはそうはさせてくれないようだな」


 そういってベリアルは少しだけ眩しそうに目を細めた。



 ――間に合ったようだ。


 ヨシナリは二人が健在であった事にほっと胸を撫で下ろす。


 状況は思った以上に悪い。 先行したベリアルとカカラに関しては簡単にやられないと思っていたので追いかけるついでに近くの味方艦に協力を要請しながら移動したのだ。

 カカラは凄まじい事にウツボ型と正面から殴り合っている。 


 ドローンを介して反射させたレーザー攻撃を高出力のエネルギーフィールドで防ぎつつ敵のテリトリーを強引に突き破って攻撃を仕掛けていた。

 笑いながらガトリング砲を連射しながらミサイルをばら撒いているカカラを見てアレは簡単に落ちないなと視線を切る。 


 問題はベリアルの方だ。 見覚えのない機体に囲まれていて明らかに苦戦していた。

 位置的にウツボ型を守る為の近衛兵といった様子だが、ジェネレーター出力が他の雑魚とは比べ物にならない。 明らかにジェネシスフレームと同水準のハイエンド機だ。


 それが全部で七機。 厄介そうな相手だったので、ふわわ達の不在が痛いと思いながら分析を開始。 


 「情報が欲しいです。 様子を見ながら仕掛けましょう!」


 待ってましたと言わんばかりにまんまるが砲撃を開始し、ツガルとポンポン達が斬り込む。

 後方ではフカヤが距離を置いて砲撃を開始。 

 マルメルとヴルトムは空中戦に向いていないので甲板で支援射撃。


 ヨシナリ自身も手近な敵機へと突っ込んで攻撃を開始する。

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