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第534話 第二次防衛戦⑯

 明らかに正面からの戦闘に長けたタイプだ厄介ではあるが、変な小細工をしてこない分、まだマシそうな相手だった。 問題は最後の一機。

 黒い機体。 分かり易い重装甲と明らかに防御に振った機体でジェネレーター出力も他に比べてかなり高い。 


 こいつのウザ――厄介な点は防御の固さではなくその能力にある。

 シックスセンスは常に垂れ流す信号のような物が見えた。 

 さて、これがどんな影響を及ぼすのか? ヨシナリの影響はそこまででもないが他はそうでもなかった。


 味方の放つミサイルや銃撃が黒い機体に吸い込まれるように飛んでいく。 

 何が起こっているのかというと範囲内の敵機に自身を強制的にロックオンさせているのだ。

 ターゲットが吸い込まれる。 オートエイムを使っている下級のプレイヤーやロックオン機能が付いているミサイル系の武装はほぼこいつにしか飛んでいかない。


 攻撃を吸い込むだけあって防御に偏っているのではなく極振りのようだ。

 攻撃行動を一切取らない代わりにフィールドを恒常展開。 貫通しても重装甲で通りが悪い。


 ――ウザすぎる!


 以上七機。 漏れなく頭部が複数付いている事から複数人操作だ。

 この場に何でこんなにもバラエティー豊かな面子が揃っているのかもは分かっていた。

 ちらりと他のイソギンチャクの方を一瞥するとそちらでも激しい戦闘が繰り広げられている。


 要はこの七機はイソギンチャク一機につき、ワンセットで護衛に付いているのだ。

 他もイソギンチャクを仕留めてウツボに変わっている所は多い。

 イソギンチャクは形状の関係で下に向けて撃つにも限度があるので恐らくは地上部分より下にはそこまで効果的な攻撃は放てないはずだ。 


 ただ、ウツボとなると話が別だ。 あいつなら直接基地を狙えるので撃墜は必須と言っていい。

 ヨシナリは味方の戦力を確認。 現状、連携を取ってくれそうなプレイヤーはツガル、ポンポン、まんまる、ニャーコ、タヂカラオ、そしてベリアルだ。


 マルメル、ヴルトム、グロウモスは空戦に向かないのでフカヤと一緒にウツボに仕掛けている。

 奇しくも同数となったが、他の味方、他の敵機と不確定な要素も多い状態だが、やれるはずだ。


 「あのデカブツはカカラさん達に任せるとして、俺達はあの戦隊モノみたいなカラーリングの連中を仕留めます。 どいつこいつも厄介な相手ですが、一機でも落とせたならそこから崩せる。 勝ちましょう!」


 ヨシナリの声に真っ先に応えたのはベリアルだ。 彼は金色の機体に真っ先に斬り込む。


 「闇の王よ。 任せても?」

 「この金の走狗はこの俺が闇に沈めて見せよう」


 つまり他に専念すればいいという事だ。 


 「白、茶色は手数、紅は火力、緑は回復、紫はハッキング、黒はタンク役。 可能であるなら後衛から処理します! ウインドウに少しでもノイズが走ればハッキングを警戒!」 


 まずは仕掛けて綻びを見つける所からだ。 

 白と茶色が無数のドローンと無人機を繰り出してくる。 

 他の友軍機も居るので全てのリソースをこちらに向けてくる訳ではないが、厄介な事には変わりない。 


 「まずは道を抉じ開けるぜ!」


 ツガルが機銃を連射しながら敵中を突破、本丸である敵機へと肉薄するが、同様の推進装置を備えている敵機は即座に散開。 僅かに迷ったが逃げずに突っ込んで来た黒に対応。

 敵機を中心にぐるぐると回転しながら銃撃を繰り返すが、フィールドに阻まれて通らない。


 「それでも足は止まったナ」


 脇を抜けたポンポンが紫を狙ってエネルギーライフルを連射。

 紫は加速して回避しながら光学迷彩で姿を消すが、ポンポンは全く意に介さずに回避先に更に銃撃。


 「見えてるゾ!」


 躱しきれずにフィールドで防御。 足を止めたタイミングでニャーコが接近戦を試みるべく突撃。

 紅が援護の為にニャーコを狙うがまんまるが砲撃で妨害。 迷彩は効いてはいるがセンサーリンクを行っているのでニャーコの目には紫の姿がはっきりと見えていた。


 無人機が割り込むがエネルギークローで次々と切り裂き、強引に突破。

 間合いに入る直前、紫の機体から不可視の信号が放たれる。 ニャーコの機体の動きが僅かに鈍った。 ウイルス攻撃を喰らったので駆除に意識を割かれたからだ。


 その隙に紫は離脱――する前にヨシナリとタヂカラオが挟む。

 タヂカラオが両腕を向け、無数のエネルギーリングをばら撒くように発射。

 紫はフィールドを展開しながら躱すが、回避が追い付かずにリングの一つを潜ってしまう。


 それにより内部の重力異常に巻き込まれ推進装置に異常が起こり動きが止まる。 

 タヂカラオが連射している間にチャージしておいたアシンメトリーでヨシナリは狙いを付けて発射。

 高出力のエネルギー弾は完璧に紫を捉えたが射線に割り込んだ黒が防ぐ。


 「邪魔な奴だな!」


 最大出力だけあってフィールドを貫通して多少の損傷を与えたが、その僅かなダメージもいつの間にか近くに来ていた緑がナノマシン散布によって瞬く間に損傷が回復。 

 追撃をかけようとしたがドローンが銃撃。 ヨシナリは内心で舌打ちして回避に移る。


 アトルムを抜いてドローンを撃墜しながら戦場を油断なく見回す。


 ――やる事が多い。


 ベリアルが一番厄介な金を抑えているので分かり易い前衛が黒だけになったのはありがたいが、他の連携を崩せないので決め手にかけている状態だ。

 相手の反応を上回れるふわわと直接組みつけるシニフィエの不在が痛い。


 「だけど攻撃は充分に通用している」

 「だナ! このまま油断せずに次行くゾ!」


 ポンポンもそれは理解しているようで攻撃を継続。

 攻め手を緩めない理由は簡単で、受けに回ると手数で負ける事もあるがリソースの違いだ。

 敵は明らかに無補給でいつまでも戦える状態だが、こちらはそうもいかない。


 弾薬もそうだが機体にダメージが蓄積されればパフォーマンスの低下は避けられない。

 だから、全開で動ける今の内に押し切ってしまうべきなのだ。 加えて仕掛け続けてる間は敵はこちらの攻撃に対処せざるを得ないので行動が防御に偏る。


 疎かにすると食い破られると理解している事もあるが、持久戦に持ち込めば絶対に勝てると確信しているからだろう。 要は連中は無理に仕掛けなくてもよく、死ななければ勝てるのだ。

 消極的とまでは言わないが明らかに回避と防御に重きを置いている時点で疑いようがない。

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