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第539話 第二次防衛戦㉑

 補給を済ませ、地上に残る事を決めたので他のイソギンチャクやその取り巻きの処理に協力する事で決まった。 ちなみにカカラはさっきまでいたのだが、補給と整備を済ませるとさっさと行ってしまった。


 外に出て戦況を確認すると十数――確か十八機居たイソギンチャクはもう半数が消えており、残りもウツボへと姿を変え、撃破は時間の問題といった様子だ。


 中身の技量差が露骨に違うとはいえ、ここまでとは思わなかった。

 味方が強くなっている事を差し引いてもスムーズにいきすぎている。

 例のカラフルな機体群も手強くはあったが、決して勝てない相手ではない。


 特に上位のAランクプレイヤーであるなら問題なく処理できる相手だ。

 だからこそヨシナリは次に起こる事に警戒していた。 

 ここでイソギンチャクを使ってきた以上、次は更に厄介な代物を繰り出してくるだろう。


 ヨシナリはこの運営は割と大艦巨砲主義な所があると考えていたので、次は更にスケールの違う何かが出て来るんだろうなと勝手に予想していた。 

 読みとしてはイソギンチャクよりも更に巨大なエネミーといった所だろう。


 考えている内にまたウツボが一つ落ちた。 これで残りは六機――三分の一まで減った。

 どうやらそれがトリガーだったようだ。 シックスセンスが巨大すぎるエネルギー反応を捉える。

 場所は基地の直上。 よくよく考えたら敵の戦艦も上から来ているから大本はあそこなのだろうかとぼんやり考えているとそれが現れた。


 「そうきたかぁ……」


 思わず呟く。 ヨシナリの予想はある意味では当たっていたが、ここまでとは思わなかったからだ。

 エネルギーの反応の接近に伴って頭上を見上げると少し離れた位置に居た小惑星がこちらに向かって来ていたのだ。 そして基地の直上で停止。


 サイズはこの衛星ほどではないが結構な大きさだった。 大陸一つ分ぐらいはありそうだ。

 小惑星に擬態する為だったのか表面に張り付いていた鉱物が剥がれ落ち、その本隊が露出。

 メカニックなデザインは正に宇宙要塞といった風情だ。 他人事なら「すげー」で片付けられるのだが、目の前に敵として出現した以上はそうも言っていられない。


 気付いた他のプレイヤー達も思わず空を仰ぐ。 


 「はは、マジかよ」


 マルメルが半笑いで呟き、ヴルトムは圧倒されたのか声も出ないようだ。


 「来る。 フカヤさん!」


 咄嗟に操艦しているフカヤに声をかけると察したのか推力を全開にして離脱を開始。

 実を言うと呆けている場合ではなかった。 何故なら剥がれた破片が真っすぐにこちらに落ちてくるからだ。 圧倒的な質量による絨毯爆撃。


 これはもう防ぐとか防がないという話ではない。 特に基地の中央付近は確実に巻き込まれる。


 ――あぁ、畜生め。 どっちにしても地上部分は残す気がなかったんだな。


 イソギンチャクの奇襲は知っていればという但し書きが付くが防げない事はなかった。

 だから、地上部分の壊滅はプレイヤー側の落ち度とも言えるが、これは防ぎようがない。

 恐らくは地上を更地にするのはイベントの予定に組み込まれていた可能性が高い。


 攻撃範囲からある程度離れた所で次々と落石というよりはもう隕石と称した方が適切な岩石群が地表に直撃。 地面が縦に揺れ、衝撃が戦場に伝播する。


 「当然のように味方ごとやりやがった」


 更地になった基地に防ぐ能力は残っておらず直撃した岩石群は地上を破壊しただけでは飽き足らず、地上に居た敵味方を一掃。 それだけでは飽き足らず、巨大な地下への穴を穿ったのだ。

 ヨシナリは通信を切り替えて情報収集。 思金神がオープンで流している通信をキャッチ。


 今の攻撃は第一層だけでなく、二層まで貫通したらしい。 

 大穴が開いた事でそこから後続のエネミーや敵性トルーパーが侵入を開始。 

 内部は防衛ラインの組み換えなどで大混乱だ。 当然ながら敵の攻撃はそれだけでは終わらない。


 要塞から次々と戦艦が飛び出す。 

 恐らくは設定上、無限湧きの敵戦艦はあそこから来ていた事になっていたのだろう。

 それが近くまで来たのだ。 それが何を意味しているのか?


 要塞の各所に存在するハッチが開いて次々と戦艦が出撃する。


 ――そう、敵の出現頻度が激増するのだ。


 離れていた時はそうでもなかったが近くまで来られると視界一杯に要塞が広がるので、ヨシナリも僅か時間だが口を半開きにして眺めてしまった。

 まるでSF映画のようだが、このゲームの圧倒的なリアルが思考を停止させる。


 「おいおい、これがボスか? 流石に倒せる気がしないんだが……」

 「このゲームの仕様上、倒せるはずだゾ。 まぁ、その勝ち筋を見つける所からだがナ」


 ツガルはやや引き気味に、ポンポンもパッと打開策が見つからないのか声は弱々しい。


 「いや、来るかなとは思っていたが、目の当たりにすると凄まじいね」

 「ヨシナリ、どうするよ?」


 タヂカラオも驚いているのかやや声が引き攣っており、マルメルは考える事を止めてヨシナリに判断を投げた。

 グロウモスは無言でスコーピオン・アンタレスを向ける。 

 狙ったのではなく、スコープを通じて敵の要塞を拡大して観察しているのだろう。


 流石に驚きはしたがヨシナリの脳にも思考力が戻り、冷静にこの状況を俯瞰してどうするかを模索。

 いくつかの案が浮かんだがもうこのクラスの相手になると有効な手段は一つしか思いつかなかった。


 「突入しましょう」


 極々自然と結論が口から零れ落ちた。


 「ふ、ふは、ふははははは! そうだ! それでいい我が戦友よ! 貴様は魔弾の射手、放たれたその一撃は世界をも穿つ一矢となる!」


 それを聞いて真っ先に声を上げたのはベリアルだ。 心底から嬉しそうに彼に意見を支持する。


 「だな! 敵の要塞に突入とか激アツじゃねぇか!」


 マルメルも楽し気に笑い、グロウモスも頷いて見せる。


 「へ、やっぱ下に行かなくて正解だったな。 狙ってやろうぜMVP」

 「今回は出し抜かれる事はなさそうだナ。 わくわくして来たゾ」

 「いやぁ、ヨシナリ君と居るとこのゲームが楽しくて仕方がないなぁ」


 ツガル、ポンポン、タヂカラオも行く気満々だ。

 ヨシナリとしてもあんな面白そうな物を見せられて突っ込まないなんてありえないだろうと思っていた。


 「よし、反対意見はないみたいなので行きましょう。 これより敵の要塞に突っ込みます!」

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