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第540話 第二次防衛戦㉒

 ――と、いう話をオープンな通信を用いて行った。


 「フカヤさん。 お願いします。 あ、全速力ではなくていいです、気持ちゆっくり目で」

 「え? うん、分かった」


 戦艦の艦首が上を向き、敵の要塞へと向かっていく。 

 当然ながら敵も黙って通してくれる訳がない――が、ついさっきヨシナリが全プレイヤーに聞こえるように突入するといった言葉を拾った者達が呼応して次々と敵の要塞へと向かい始めたのだ。


 「ヨシナリ君……」

 「お前、いい性格してるナ」


 意図に気付いたタヂカラオはやや呆れ気味に、ポンポンはやや引いていた。


 「弾避けは必要でしょう?」


 単艦で行った所で落とされるのが目に見えているのだ。 

 なら他を巻き込んで被弾リスクを避けるのは当然だった。 

 唆しはしたが行くと判断したのは彼らなのだ。 非難される謂れはないはずだった。


 通信の効果は覿面だ。 特に前回のイベントで決定打を浴びせたヨシナリの言葉なのだ。

 悔しいと感じたものは自分こそが今回のイベントクリアの栄誉を手に入れてやろうと我勝ちにと要塞に殺到する。 


 そして要塞から出撃する艦隊とぶつかり、空中では凄まじい戦闘が繰り広げられてた。

 変化はそれだけで終わらない。 

 どうやら要塞攻略というのは中々に魅力的に聞こえたようだ。

 英雄志願のプレイヤー達の一部が基地の防衛を放り捨てて飛び出してきたのは少し意外だったが。


 ――どう動く。


 ヨシナリはフカヤの操る戦艦を狙う敵機を落としながら要塞をフォーカス。

 距離もあるが何よりも内部のエネルギー反応が多すぎてどうなっているのかが把握できない。

 ただ、目を凝らせばあちこちに砲台らしきものがあるので下手に近寄ると碌な事にならないのは明らかだ。 


 侵入経路に関しては考える必要はないだろう。

 何故なら敵の戦艦を吐き出している穴があちこちにあるのだ。 

 そこから入ればいい。 ただ、どこから入れば中枢に近いのかは見極める必要がある。


 フォーメーションとしては戦艦を中心に甲板にマルメル、グロウモスとヴルトム達。

 左にツガルとポンポン、右にヨシナリとタヂカラオ。

 まんまるはやや後ろで砲撃、ベリアル、ニャーコは遊撃として飛び回る。


 「ヨシナリ君。 君はどう見る?」


 数が居るのでタヂカラオのエネルギーリングがかなり有効だ。

 リングを潜った敵機が次々と行動不能になるのでそこを仕留めながらヨシナリが振り返る。


 「あの要塞の防備ですよね」

 「あぁ、まだ距離があるから撃って来ないと思いたいが、上を取っているのに撃たない理由が分からない。 本来なら誤射を嫌ってと思う所だが……」

 「はい、今回に関してはそれは当てはまらない」


 イソギンチャクの砲撃についさっきの隕石落としと明らかに味方を巻き込む事を許容している。

 そんな相手が今更、誤射を気にする訳がなかった。 


 「僕としてはあまりいい予感はしないね」

 「えぇ、撃たないのは単純に届かないからでしょう。 射程に制限がある時点で実弾兵器ではありませんね」

 「同じ理由でレーザーも考え難い。 だが、光学兵器であるとは思うよ」

 「これだけ判断材料が揃ってるんです。 もう察してるんでしょう」


 そう、タヂカラオは質問ではなく確認作業を行っていたのだ。

 この条件に合致する武装に心当たりがあった。 それは――


 『――プラズマキャノン』



 ――よし、先行できている。


 コンシャスは遥か下方に居るヨシナリ達の位置を確認して拳を握る。 

 彼と彼の率いるユニオン『カヴァリエーレ』は戦艦を三隻手に入れており、内部にあった敵の量産機の強奪にも成功していた。 


 他と協力してどうにかウツボを撃破した所で敵要塞が出現し、驚いている間にヨシナリがオープンチャンネルで仕掛けに行くと宣言したのを聞いてやる事は決まった。

 あの連中を出し抜いてやるのだ。 


 コンシャスにとって『星座盤』は敵だが、足を引っ張るような真似――要は直接的な妨害を行う気はない。

 なら連中に一泡吹かせる為に必要な事は何か? そう、獲物を横取りする事だ。

 これから先行して敵の要塞に突入し、居るであろう敵のボスを叩く。


 居ないのなら要塞の動力を破壊して無力化を狙うのだ。 

 その為には誰よりも先に突入し、誰よりも早く中枢を目指す必要があった。

 現在、コンシャス達は先頭で敵の防衛線を切り裂くように掘り進んでいる。


 それが出来たのには理由があった。 戦艦の力だ。

 戦艦にはエネルギーフィールドが展開可能なのだが、三隻を密集させてフィールドを前面に集中する事で密度を大幅に引き上げたのだ。 


 戦艦を盾にする形になっているのでかなり無理をさせてしまうが、内部に入ってしまえば使えなくなる可能性が高いのだ。 最悪、使い潰しても問題はない。


 「要塞の各所から高エネルギー反応。 追加じゃない! 攻撃が来る!」


 索敵担当からの警告が飛ぶ。 センサーシステムをリンクさせて観測結果を確認。

 数が多い点からも大砲はない。 つまりこのままゴリ押しで行ける。


 「フィールドへのエネルギー割り振りを増やせ! 中にさえ入ってしまえばどうにでもなる!」


 何を飛ばしてくるのかは読めていた。 

 そして彼の予想は正しく、要塞から弾速の遅い無数の球体が飛んでくる。


 プラズマキャノン。 類似武装であるプラズマグレネードというものも存在する。

 榴弾に近い運用のされる武装でレーザーやエネルギー弾と比較して射程が短いが、炸裂する事で広い範囲を焼き払える事と発射前に爆発のタイミングをある程度決める事ができる事もあって慣れれば使い勝手は良い。 


 ただ、エネルギーフィールドとの相性が余り良くないので防御を固めた戦艦なら突破は可能と睨んでいた。 

 無数の光球が炸裂し、高熱が範囲内に撒き散らされる。 当然のように味方が居てもお構いなしだ。

 プレイヤーが使用しているそれとは威力が段違いではあったがそれだけだった。


 戦艦のエネルギーフィールドはプラズマを完全に防ぎきった――が、次の瞬間に飛んで来たレーザーに細切れになった後に爆発。

 コンシャスは咄嗟に躱して無事だったが、今のでユニオンメンバーの半数以上が脱落した。


 戦艦を中心に鋒矢の陣に近いフォーメーションで進んでいたのが仇になり、レーザーだけでなく戦艦の爆発に巻き込まれた機体が多かったのだ。


 「く、やってくれる」


 何故、最初から使わなかったという疑問は畳みかけるように仕掛けられた次の攻撃の前に霧散した。

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