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第541話 第二次防衛戦㉓

 ――やると思った。


 読めていた展開だったのでヨシナリにとっては目の前に広がる光景は驚くに値しない。

 これ見よがしなプラズマキャノンによる迎撃。

 エネルギーフィールドを展開できる戦艦には効果が薄いにも関わらずに使うのはフィールドを剥がす為だ。 


 「……敵が有人機なんだ。 要塞の制御も人力で行っていると考えるならこれぐらいはやって来るか」


 タヂカラオの言う通りだった。 

 有人である以上、ルーチンではなく状況判断で仕掛けてくる可能性が高い。


 実際、プラズマでシールドを剥がして防げなくした所でレーザーで一掃。 

 それも耐えた場合は追撃のミサイル攻撃だ。 要塞の規模を考えると躱せるわけがない。


 「フカヤさん! 艦は!?」

 「だ、大丈夫。 レーザーが少しフィールドを貫通したけどまだ飛べる!」


 躱せない以上は防ぐしかない。 ならどうやって?

 プラズマキャノンでフィールドを剥がした上でのレーザー攻撃。 

 つまり剥がされなければ防げるのだ。 


 その為に他を先行させてプラズマキャノンを引き受けて貰った。


 「グロウモスさん!」

 「了解。 もう撃てる」


 甲板にいたグロウモスが追加パーツで大型化したスコーピオン・アンタレスを構える。

 傍にはヴルトムの仲間達。 パーツの交換を協力して貰っていたのだ。

 冷却とバレルの交換は完了しており、いつでも撃てる。


 発射。 高出力のレーザーで飛んで来たミサイルを薙ぎ払う。 

 全ては無理だがこちらに飛んでくる分を迎撃する程度なら充分だった。

 少しでも落とせるなら誘爆を狙えるので見た目ほど防ぐためのハードルは高くない。


 撃ち漏らしは残りの全員で撃ち落とす。 

 特にタヂカラオのエネルギーリングは通り抜けた対象の動きを止めるのでミサイル相手には非常に相性が良かった。  

 最初のプラズマキャノンさえやり過ごせば後はどうにでもなると判断したのだが、正解だったようだ。


 「流石に結構、落とされたなぁ」


 それでもかなりの数が生き残っているのは素晴らしい。 

 レーダー表示を見ると味方の反応は多く、早い艦はもう取りついて内部に侵入している。

 そして敵の反応はごっそりと減っていた。 


 味方ごと焼き払うのは最初から一貫していたが、有人操作でここまでやるのは少し違和感がある。

 バイトを雇ってるにしてもこんな事されたら士気が落ちない訳がない。

 もっとやりようはあるはずなのにどういうつもりなのだろうか?


 「――にしても結構、昇ったなぁ」


 先行している戦艦が次々と内部に侵入しているのを見て呟く。

 下を見ると基地が豆粒のようになっていた。 サイズ感の所為で見た目以上に距離がある。 

 正直、一番乗りも狙いたかったが、ただでさえ敵要塞という危険な場所に踏み込むのだ。

 リスクは減らせるなら減らすべきだと判断して諦めた。


 ――本音を言えば前のように他を出し抜いて勝鬨を上げたいが、流石に欲張り過ぎだろう。


 可能であれば狙いつつ、勝利を目指すべきだなと思いながら進む。

 敵機は要塞の攻撃で勝手に減ってはいるが、次々と追加が湧くので何とか進めている。

 プラズマキャノン、レーザー、ミサイルの波状攻撃は未だに止まないのでどうにか凌ぎながら要塞へと迫っていたのだが、ここで追い風が吹く。 


 突入に成功したプレイヤー達が一部の砲台などを破壊していったので要塞の攻撃に穴が開いた。 

 それにより後続への道が拓けたのだ。 中でも目立つのはカカラの機体で背にアドルファスを乗せて表面を薙ぎ払うようにミサイルや銃弾をばら撒いて迎撃装置の一部を派手に破壊していた。

 通信からは歓喜の声が上がるが、ヨシナリは素直に喜べなかった。


 ――怪しい。


 「臭いナ」

 「確かに。 随分とすんなり通してくれるじゃないか」


 似たような事を考えていたポンポンとタヂカラオが小さく呟く。 

 まったくもってその通りだった。 根拠はある。

 ここまでの敵要塞の攻撃を思い出す。 プラズマキャノン、レーザー、ミサイルの三種類の攻撃手段をこちらをギリギリまで引き付ける事で効果的に使用した。


 だからこそヨシナリは有人操作と判断したのだが、その後が問題だ。

 何故なら初手で減らした後は散発的にばら撒くだけ。 碌に狙いを付けない飽和攻撃。

 明らかに自動で垂れ流している。 いきなりの落差には必ず理由があるはずだ。


 例えば操作している人間が別の事で忙しくなった。 または迎撃がどうでもよくなったか。

 ヨシナリは後者だと判断していた。 根拠は薄いが、大きく外していないと思っている。

 二人はヨシナリを振り返った。 暗に意見を言えと言っているのが分かったので考えを口にする。


 「先に俺の結論から言いますと多分、最初の三段構えの攻撃で迎撃はどうでもよくなったんでしょうね」

 「だろうナ」

 「明らかにやる気がないからね。 その心は?」

 「中で待ち構えてますね。 今回のエネミーは有人操作という事もありますが、それ以外の面で妙に人間臭い」


 NPC特有の硬さ――いや、遊びのなさが感じられない。

 プレイヤーを相手にしているような手触りがする。 それがどうにも気持ちが悪い。

 未知というものは期待に胸が躍る物なのだが、偶にこういった事がある。


 共通する点は興味よりも得体の知れなさが勝る時だ。 

 違和感がある時は早めに原因を把握しておかないと碌な事にならない。

 これは予感ではなく経験則だった。 


 ――とは言っても現状、判断材料が足りないんだよなぁ……。


 「そ、そろそろ着くよ」


 フカヤの声で意識を目の前の要塞に移すともう目の前だった。


 「何処から入る?」

 「ばら撒きに移行したとは言え、外は危険です。 入れるところから入りましょう」

 「分かった。 近くの穴から中に入るよ」


 フカヤの操船によって口を開けている敵艦を吐き出していた穴へと向かう。

 ツガルが先行して安全を確認し、ゆっくりと内部へ。

 ヨシナリ達もそれに続く。 


 薄暗い通路だったが、床に点灯しているガイドビーコンのお陰で視界は問題ない。


 「ツガルさん。 敵は?」

 「いや、居ない。 出くわすんじゃねぇかって思ってたんだがマジで出てこないぞ」

 「通路は抜けましたか?」

 「もうそろそろ――抜けた。 開けた所に出たけど、こりゃ穏やかじゃねぇな」


 ツガルの声には微かな焦りがあった。 

 言外に早く来てほしいといった様子で、付き合いの長いフカヤもそれを察して加速。

 通路を抜けると広い空間――戦艦用のドックらしきものが並んでいたが、それ以上に目を引く物があった。 


 あちこちに散らばっている味方機の残骸だ。 

 先行した機体なのだろうがもうやられてしまったらしい。

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