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第544話 第二次防衛戦㉖

 ご丁寧にブリッジ部分を狙わせたのでそこに攻撃が集中して大破。

 これでもう戦艦が使えなくなった。 


 「野郎!」


 体よく利用されて頭に血が上ったヴルトムが前に出て撃ちまくるが、敵機は機体を左右に振って躱しながら肉薄。 

 同時に通信からグロウモスの苛立ちの混じった声が聞こえる。 

 恐らく彼女の射線にヴルトムを被せられたのだろう。 撃てないのだ。


 ヴルトムの機体は鹵獲した重装甲の機体なので簡単にはやられないと思いたかったが、肉薄と同時に姿が消失。 短距離転移だ。 


 「ヴルトム! 後ろだ!」

 「舐めるなぁ!」


 上半身を回転させて対応しようとしたが、霞むような刺突で動力部を射抜かれて機能が停止。

 巨大な機体は動力がダウンした事で力なく崩れ落ちる。 信じられない。

 あの機体はエネミーの専用機で堅牢さが火力と堅牢さが強みのはずなのに一撃で無力化した。


 いや、それ以前にどうやってこちらの探知を掻い潜ってるのかが分からない。


 「構うな! 俺ごとやれ!」


 機体は死んだが、アバターが生きているヴルトムの叫びが耳に入る。 

 彼の仲間は戸惑ったように動きを止めるが、あの機体はシェルターに近い。

 撃っても問題ないはずだった。 ヨシナリはアトルムとクルックスを連射。


 敵機は上昇して躱すが連動して仕掛けに行ったツガルが銃撃しながら機動で攪乱を狙う。

 重力操作を用いた敵機を中心に据えての回転しながらの銃撃だ。

 同期してタヂカラオが拘束目的のエネルギーリングを撃ち込み、ポンポンは回避コースを制限する為の牽制射撃。 


 その間にグロウモスとフカヤが狙い易い位置に移動する為に動き出す。 

 この連携は簡単に崩れないと思っていたが、敵機はツガルの動きに軸を合わせて飛ぶ事で射撃を回避。 要はぴったりと張り付くように同じ速度で飛んで射線を取らせなかったのだ。


 「うっそだろ!?」


 しかもポンポンの射撃を躱しながらそれをやってのけたのだ。 

 凄まじい技量だった。 そして転移でタヂカラオのリングを躱して一瞬、ツガルが標的を見失った隙をついて肉薄。 厄介な所は移動せずに一瞬消えてその場に現れたのだ。


 敵機はツガルの機体を掴むと手を滑らせ、一点に爪を立てる。


 「こいつ、推進装置を!」


 ピンポイントでツガルの推進装置を破壊すると機体をタヂカラオ目掛けて投げつける。


 「くっ!?」


 タヂカラオはエネルギーリングで飛んで来たツガルの機体を減速させて受け止めようとしたが、その頃には敵機は既に彼の背後。 

 タヂカラオは咄嗟に蹴りで迎撃を試みるが、敵の動きの方が早い。

 剣の一閃で足が切断される。


 追撃が彼を襲う前に収束したエーテルの砲が敵機の居た位置を撃ち抜く。 

 回復したベリアルだ。 その隙にタヂカラオはツガルの機体を受け止めて近くに下ろす。


 「す、すまねぇ……」 

 「下がっていたまえ!」


 タヂカラオも余裕がないのか言葉が少ない。 

 その間に敵機に肉薄したベリアルが転移を絡めたラッシュを繰り出して接近戦に持ち込む。

 敵機はベリアルのラッシュを剣と手足の動きだけで捌く。 エーテルの爪を手の甲で打ち落とし、転移を使えばカウンターで転移を使って逆に死角へと移動する。


 「ベリアル!」


 ヨシナリが叫ぶと同時にベリアルが敵の攻撃に合わせて腕を交差させて防御態勢。

 蹴りをわざと喰らって吹き飛んで距離を取る。 同時にまんまる、グロウモス、マルメルが一斉射撃。 大きな動きで回避、そこを狙ってフカヤのボルトが飛ぶが掴んで止められた。


 敵機は人差し指を左右に振った後にボルトを投げ返す。

 止められた同様で硬直したフカヤは回避できずにコックピット部分を貫かれて即死。

 機体はその場で縫い留められ、力なく崩れ落ちた。


 ――この野郎。 


 このメンバーを相手にしているのに明らかに余裕があった。

 余裕たっぷりの態度に屈辱を感じるがそれ以上に状況は悪い。 

 敵の機体はジェネシスフレーム相当、技量はSランクと同等以上だ。


 ラーガスト程に理不尽ではないが、明らかにグリゼルダより強い。

 装備と攻撃手段、スペックに関してはいくらかは割れたが、まだまだ不明な点が多いので仕留める為の材料が足りなかった。 


 できれば情報を集め終わるまでの時間が欲しいがこの調子なら全滅する方が早そうだ。

 あの敵機の動きにまともに付いていけるのがベリアルしかいない状況も不味い。

 彼の脱落は敗北に直結するからだ。 


 「タヂカラオさん。 機体は?」

 「足は落ちたけどリングが無事だからまだ戦えるよ。 ――にしても参ったね」


 タヂカラオは切断された足に付いていたリングを遠隔操作で周囲に浮遊させる。

 ドローンのように扱うつもりのようだ。 リングをばら撒きながら敵機を引き付けるように動く。


 「喋ってる余裕すらない!」

 「ですね!」


 目の前の対処に精一杯でその先まで思考が割けないのだ。

 戦闘であまり役に立てないと判断したのかヴルトムの仲間達は散発的な援護をしつつ、ツガルの機体を担いで破壊された船へと運び込んでいた。 


 内部のメンテナンス施設が生きていたのなら修理ができるかもしれないと考えたからだろう。

 正直、ありがたかった。 即興の連携が必要な場面ではノイズでしかなかったからだ。

 戦い方の組み立てとしてはベリアルをメインにタヂカラオが拘束を狙い、ポンポン、ヨシナリで牽制しつつ行動を制限してまんまる、マルメル、グロウモスでとどめを狙いたいが、そこまで持って行くのが難しい。 


 明らかに手札が足りていないからだ。 

 最低でもベリアルと同水準の近接能力を持った味方が欲しかった。

 ふわわかユウヤが居ればかなり楽だったのだが、居ないものは仕方がない。


 今ある手札で勝負するしかないのだ。 

 逃げる事も視野に入るが、ツガルを始め、既に何人か行動不能にされているので見捨てる形になってしまうのでそれは出来ない。 

 あの敵機は間違いなく、それを見越して行動不能にした可能性が高かった。


 これまでに見た事のないタイプの敵だ。 不快ではあるがそれ以上に厄介で強い。

 現状、突破口を見いだせないが、どうにか抉じ開けるしかなかった。

 その為には敵の情報を集めなければならない。 


 ――いざとなったらリミッター解除も使わなければならないか。


 勝機が見い出せたなら即座に使うが後の事を考えると闇雲切っていいカードではなかった。

 どうするべきか。 ヨシナリは銃撃しながら敵機をじっと観察した。

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