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第545話 第二次防衛戦㉗

 楽しい! とても楽しい! 

 ジョゼは獲物を狩る快感に酔いしれていた。 彼女の仕事はプレイヤーを試す事。

 事前に提出された評価シートを参考にそれが適切であったかの確認作業も含まれている


 やり方は一任されている以上、好きにしていいという事だ。

 この要塞内部は彼女の機体とリンクしているのでどこにいようが即座に分かる。

 もはや胎内といっても過言ではない。 


 中に入って来た獲物のステータスを確認し、面白そうなプレイヤーの下へと空間転移で向かう。

 要塞の管理者権限で内部に限っては転移に距離の制限がないので好きな時に好きな所へ行ける。


 誰も逃がさない。 そして誰にも渡さない。 

 侵入は比較的、容易にしてあるが出る際には防衛システムが全力で妨害するように設定している。

 この要塞内部で行動しているのはジョゼの機体のみ。 防衛戦力は全て外に吐き出している。


 精製している機体も全て外部の防衛と基地の攻略に費やしているので、要塞内はほぼ空っぽだ。

 中枢を落とされれば困った事にはなるがルートを制限しているので何の問題もない。

 真っすぐに向かう者が居れば彼女が直接対処すればいいのだから。


 Aランクを中心に入って来たプレイヤーを順番に相手したのだが、やはり歯応えがない。

 地域的に日本は後進のサーバーなので全体のレベルが総じて低い。 

 一部、突出した強さのプレイヤーもいるにはいるが数はあまり多くない。


 ジョゼとしてはオーバーSランクと戦えない事が不満で仕方がなかった。

 上の意向としてはもう評価が覆りようがない上、Ωまで与えているので試す必要がないのだ。

 その為、今回――いや、これ以降のほとんどのイベントに対して彼は出場禁止を言い渡された。


 ボビーが負けたという話を聞いていたので是非ともその実力を試したいと思っていたのだが、その機会はしばらくは訪れそうにないだろう。 


 ――あぁ、残念。


 ラーガスト以外にSランクが居ない以上はAランクプレイヤーで我慢するしかないのだが、どいつもこいつも弱すぎる。 

 最初に入って来た集団は特にそれが顕著で弱すぎてかなり遊んでしまった。

 イベントはまだまだ時間があるのでじっくりやればいいと思うが次が来るまでに待たなければならないのは少し苦痛だ。 入って来た順番に遊んでいたのだが、弱い、まぁまぁ、そこそこ。


 そんな評価を降しながらも次々とプレイヤーを駆逐していく。

 目の前のプレイヤー達も変わらない相手だったが、ジョゼからすれば全体的にまぁまぁの動きだった。


 一応は仕事なのでやる事はやろうと思考入力用のメモ帳を開いて評価を開始。 

 気になったプレイヤーにフォーカス。 特にベリアルというプレイヤーは良い。 


 反応、攻撃、防御、回避とどれをとっても平均水準を大きく超えていた。

 短距離転移を使いこなしているのも悪くない。 転移後の攻撃行動に入るのもスムーズだ。

 優れた空間認識能力がなければこうは行かない。 常に死角へと転移をしつつ、慣れたタイミングでリズムを変えるなど、機体の特性を理解し、しっかりと使いこなしている事が窺える。


 充分Sランクに至れる逸材だ。


 次、ツガル。 新造の機体という事で武装面は未完成ではあるが、戦い方自体は確立していた。

 ただ、既存の空戦機動の延長でしかないので現状ではあまり興味を惹かれない。

 伸びしろはあると思うが、育つかは現状では何とも言えなかった。


 今の段階ではAの下位で特筆するべき点はない。


 タヂカラオ。 こちらも新造の機体ではあるが、立ち回りによって評価が少しだけ上向く。

 視野が広く、味方との連携を意識している点から、部隊の総合力を引き上げるのに一役買っている点は素直に評価するべきだろう。 


 個人戦闘能力が高いプレイヤーは多いが、集団戦闘で一定以上のクオリティを出すプレイヤーは比較的少ないので上としては期待したいタイプといった所だろうか?

 ジョゼの個人的な所感としてはツガルより少し高いといったぐらいだった。


 ポンポン。 Aランクに昇格したばかりで機体は製造中なので最終評価は保留。

 立ち回りに関してはタヂカラオと同様にバランスのとれた個人技に高い指揮官適性。

 以前のトライアルでも好成績を残していたので、将来性は高い。


 他はB以下なのであまり評価に値するプレイヤーはいないのだが、一機だけ面白いのがいた。

 プレイヤーネーム『ヨシナリ』。 ランクはCだが機体が特にユニークだった。

 動力と武装の一部にジェネシスフレームの物を使用しているので、機体の総合力が部分的に既存機を越えているのだ。 


 非常に珍しいケースだった。 

 少なくとも既存機をここまで魔改造するプレイヤーをジョゼは見た事がない。

 エーテルリアクターを兼ねたジェネレーターにアダマンタイト・・・・・・・の剣。


 加えてセンサー系はシックスセンスを扱っている。 

 ポンポンも扱っていたが、ノイズを嫌ってかフィルタリングがされていた。

 対してヨシナリはフィルタリングを完全に無効にしている。 これは少し驚くべき事だった。


 シックスセンスはジェネシスフレームのオーダーメイド品を含めても屈指の探知項目、探知精度を誇る最上級のセンサーシステムだ。 

 いくつか弱点は存在するが、使いこなせれば大抵の攻撃に対処できる優れ物である。


 反面、その情報量の多さによって活かしきれずにノイズになってしまうという欠点もあった。

 要は使いこなせなければ無用の長物でしかない代物なのだ。

 本来なら性能的にあんな安値で売りに出していい代物ではないのだが、使いこなせる奴を見たいといった製造メーカーの意図もあってあの値段で落ち着いたという話を聞いた事があった。


 プレイヤースキルだけを切り取るのなら充分にB上位からA下位で通用するレベルだ。

 加えてシックスセンスを用いてこちらを観察するような挙動も面白い。

 徐々にだがこちらの動きに対応してきている点からも明らかで、非常に興味深いプレイヤーだ。


 視野が広いという事もあるが、意識のフォーカスが上手い。

 意図してやっている訳ではないのだろうが、思考のリソースを上手に振り分ける事でパフォーマンスを上げている。 


 ――面白い子だ。 覚えておこう。


 片鱗は充分に感じられる。 期待は出来そうだが、今の段階ではそこまでではない。

 少し勿体ない気もするがそろそろ終わりに――しようとしてジョゼは溜息を吐いた。

 中枢に侵入者が接近。 隔壁を次々と突破している。


 どうやら水入りのようだ。

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