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第546話 第二次防衛戦㉘

 「いやぁ、ヤバかったですね」


 そう言ってヨシナリは力を抜いた。 

 何故ならさっきまで目の前で猛威を振るっていた敵機がいきなり消えたからだ。

 転移で消えただけかと警戒していたが、現れる気配がなかったのでどこかへ行ったのは間違いない。


 見逃されたというよりは優先度の高いタスクが出来たのでそちらを優先したといった印象を受けたのでそう遠くない内に戻ってくるだろう。

 ぐるりと周囲を見回す。 二十機いた味方機も半分以下まで減っていた。


 ヨシナリ、マルメル、グロウモス、ベリアルと『星座盤』のメンバーは全員無事だが、ニャーコ、フカヤはやられてしまった。 ツガルも機体が中破。 

 ヴルトムは大破だが、鹵獲機だった事もあって本来の機体に乗り換えた事で問題はない。


 彼の仲間も半数以上がやられてしまったので戦力的にはかなり厳しい事になっている。

 不幸中の幸いで艦のブリッジが破壊された事で航行不能にはなったが、内部のメンテナンス施設は無事なので機体の修理と補給は可能だった。


 この戦力では戻って来られた時点で終わりなので開き直って機体の修理を行い、ヨシナリ達はアバター状態で作戦会議だ。


 「……ってか、センサーシステムのリンクがあったのに何をされてるのかいまいちよく分からなかったんだけど、分かった奴いる?」


 開口一番ツガルがそんな事を言い出した。 その場の全員が無言でヨシナリに視線を向ける。

 暗に説明しろと言っているのだ。 ヨシナリは苦笑。


 「時間も余裕もなかったんである程度しか分かりませんでした。 そんな訳で参考程度に留めておいてくださいよ」


 そう前置きしてヨシナリは記憶を掘り返しつつさっきの敵に関して集めた情報を語る。


 「まず、あの機体。 スペックはジェネシスフレームと同等以上、相当強化されてますね。 ジェネレーター出力とかだとここの面子じゃ誰も勝負になりませんね。 中身の技量もSランク相当です。 ――まぁ、ラーガストさんほどじゃないでしょうけど」

 「だろうナ。 あいつと同等ならあたしら今頃、皆殺しだ」


 そう言ってポンポンは小さく「1500点ぐらいか」と呟く。


 「で、攻撃手段ですが、武装は例の剣一本なんですけど、どう見てもただの剣じゃありませんね。 何をされたか分かった人居ますか?」

 「不可視の刃。 それを瞬きによって繰り出す事により千変万化の斬撃へと変わる」

 「慧眼だな闇の王よ。 貴公の言う通りだが、それだけでは不足だ。 あの悪魔の真髄はその速さと時すらも歪める欺瞞にある」


 ベリアルの言葉にヨシナリは力強く頷く。 それを聞いてベリアルは少し考え込むように沈黙。


 「い、いきなりどうした?」

 「よ、ヨシナリ??」


 ツガルとポンポンは唐突に口調の変化したヨシナリに困惑を浮かべ、ヴルトムは絶句。

 他はいつもの事なので特に反応しない。 


 「ベリアルには分かっても俺達には分からんからもう少し噛み砕いてくれ」

 「あぁ、悪い。 あの剣――剣に見えるんだけど、あれって多分柄なんだよ」

 「柄?」


 マルメルが分からないと首を捻る。 


 「攻撃の瞬間に空間情報に変動があった。 恐らくは見えない刃を瞬時に出し入れして攻撃範囲を大きく広げている。 厄介なのが射程内であるなら自由に弄れる点だろうな」


 特にベリアルと打ち合った時が顕著で一振りで攻撃と防御を同時に行っている。

 明らかに手数で上回っているように見えたベリアルのラッシュを捌けた理由がこれだ。

 極端な話、あの剣は正面に振って背後から攻撃もできる。 


 ただ、転移ではなくあくまで柄から伸びた力場による斬撃なので柄と繋がっているという制限がある。 


 「要は剣というよりは巨大な手と認識した方がいい。 後ろから斬られるのではなく掴まれると考えればイメージはし易いんじゃないか?」

 「なるほど。 手という事は分かったが、ヨシナリ君達のセンサーに引っかからないのは何故だい?」

 「それを高速で行ってるんですよ。 要は素早く出し入れして痕跡を掴み辛くされています」

 「一応は攻撃直後には痕跡は残るんだよナぁ……。 でも、それだけじゃ説明が付かない所が多すぎるゾ」


 ポンポンの言う通りだった。 攻撃の出もそうだが、転移による奇襲の前兆が全く見えないのだ。

 辛うじて攻撃が終わった後に痕跡が観測される程度。 

 その為、センサーシステムではなく感覚と自らの反応に頼らなければならない。 


 「そっちに関しては種は割れてるんですけど、防ぐ方法がないんですよ」

 「本当か!? あいつは何をやったんだ?」


 流石に驚いていたが、ヨシナリとしてはこれまでの経験からシックスセンスを騙す方法に関してはそう多くないと知っているので可能性を潰していけば消去法で正解らしきものを導き出せる。


 「恐らくは電子戦用の兵装ですね。 ウイルスかは何とも言えませんが、俺の勘だとEMPに近い代物ですね。 多分ですけど転移前に先行して電磁パルスのような物を発生させる事でセンサー系がコンマ数秒だけ無効化されています」


 だから攻撃の起点だけが探知できず、痕跡だけ残るのだ。

 しかも無効化時間が一秒にも満たないので何をされたかも気付き難い。

 それを聞いてポンポンとタヂカラオは理解したらしく、なるほどと漏らす。


 「わからねー訳だ。 それにしてもよくそんな結論が出せたナ?」

 「センサー系を掻い潜って来る相手が出たら真っ先にウイルスとEMPを疑うようにしてるので」


 何度も酷い目に遭ったので流石に学習はする。 

 それも厄介だが、それ以上に厄介な問題があった。


 「見えないのもヤバいんですけど、俺としては転移がもっとヤバいです」

 「そうなのか?」


 よく分かっていないのかマルメルがそう尋ねてくるのでヨシナリはそうなんだと返す。


 「ベリアルの短距離転移と見分けがつかないから分かり辛いかもしれないけど、あいつの転移は距離の制限がかなり緩い。 流石に無限って訳じゃないと思うけどかなりの距離を一度に移動できるはずだ。 居なくなった理由の一つでもあるな。 恐らくだけど何かしらの問題が起こって俺達に構ってられなくなったからそっちの処理を優先したんだと思う」

 「というと?」

 「俺達プレイヤーの目的はこの要塞の破壊か無力化だ。 敵としてもここを落とされると不味いと思っているなら可能性は一つ。 他のプレイヤーが中枢に近づいたから守りに行ったんだと思う」


 仮にそれが正しかった場合は付け入る隙にもなるので決して悪い話ではないと思っていた。

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