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第548話 第二次防衛戦㉚

 だからこそ『烏合衆』を作り、出場の機会を掴み取った。

 本音を言えばチームメイトなんて要らなかったが、単独で勝ち進めると思えるほど彼は傲慢ではない。 

 アドルファスはお互いに邪魔をしないチームメイトを求め、似た思考の仲間と呼ぶには微妙なメンバーを集めて戦った。


 本音を言えば誰でも良く、足さえ引っ張らなければいいかとすら思っていたのだ。

 リーダーの彼がそんな考えである事も手伝って他のメンバーの感情も非常に割り切った物になっていた。

 その為、イベントが始まれば勝手に集まり、終われば何の余韻もなくそのまま消えるという乾ききった関係がユニオン『烏合衆』の実態だ。


 だからアドルファスは単騎で行動し、単騎でこの要塞に突入しようと考えていたのだが、意外な事に途中でカカラが合流し同行を申し出た事には本当に驚いた。


 「なぁ、カカラさん」


 アドルファスはドローンで敵機を包囲しつつ、エネルギーライフルを連射して肉薄。


 「何だ?」


 カカラは上を取ってガトリング砲を連射。 転移を使わせた後、周囲にミサイルをばら撒く。

 この敵に線や点での攻撃は効果が薄く、当てたいのなら面で当たるべきだと判断したからだ。


 「何で付き合ってくれる気になったんですか?」


 敵機の転移の痕跡を見極め、転移先を狙ってエネルギーブレードを一閃。 

 躱さずに防がれる。 追撃はせずに回避運動。

 一瞬前までアドルファスが居た空間を何かが通り過ぎる。 


 エネルギーライフルをとドローンの一斉射撃。 敵機は機動と転移で躱す。


 「俺も正直意外だった! 元々、『烏合衆』は慣れ合いではなく己の戦い、己の利益のみに腐心する者の集まり。 だからこそ強く、余計な事を考えずに済む」

 「ですね。 ぶっちゃけ、俺も煩わしい関係はごめんだとは思ってたんで同意です」


 粘るアドルファスに業を煮やしたのか敵機はカカラを狙いに転移。

 出現と同時にエネルギーフィールドを展開するが、敵機の攻撃はフィールドでは防げない。

 剣を一閃。 それにより無数の斬撃がカカラを襲い、機体に無数の傷が刻まれる。


 だが、重装甲のサガルマータはその全てに耐えきった。 巨大な腕を一振り。

 鈍重な一撃を敵機は掻い潜り、至近距離で斬撃を繰り出す前にアドルファスのドローンが一斉射撃。

 敵機を追い払う。  


 「――と思っていたのだが、ついさっき少しだけ考えが変わってな」

 「さっきっすか」


 敵の転移に合わせてカカラがミサイルをばら撒く。 

 その間にアドルファスは敵機の出現位置を見極めてエネルギーライフルを撃ち込む。

 ちらりとカカラの様子を見る。 機体に無数の傷が刻まれており、一部は思った以上に深い。


 それでも戦闘行動に支障が出ない点は流石ではあるが、このままでは保たない。

 戦況を冷静に分析しつつカカラの話が興味深くてつい聞き返してしまった。


 「外でベリアル――正確にはヨシナリに組まないかと誘われてな」

 「ヨシナリ? あぁ、『星座盤』の?」


 前回のイベントでは直接の絡みがなかったのであまり印象に残らなかった相手だ。

 ただ、あのベリアルとユウヤを仲間にしたという事で気にはなっていた。

 あの二人は自分と同類だと思っていた事もあり、ユニオンに正式所属するとは思わなかったのだ。


 何があの二人を心変わりさせたのだろうか? 

 そもそもアドルファスの中ではユウヤとベリアルはあまり仲がいいといった印象もなかったので、猶更だった。 

 どうやってあの気性難なあの二人を従えたのか。 それ以前に共闘を成立させたこと自体が驚きだ。


 「それで受けたんですか? 俺としてはかなり意外なんですけど?」

 「普段なら無視したんだろうが、前の時に落とされた事もあって少し興味があったのだ」

 「あぁ、リプレイ見ましたけどカカラさん完全に袋にされてましたね」


 カカラは愉快と言わんばかりに声を上げて笑う。  


 「横槍を入れない為の戦い方だったのだが、それを突破して来ただけでも大したものだ。 実際、『星座盤』の連携は大したものだったぞ」


 誇張の類はなかった。 少なくともカカラは『星座盤』を高く評価している事が窺える。 


 「ここ最近はどうにも伸び悩んでいてな。 少なくともラーガストの小僧を仕留めるには新しい切り口が要るとも思っておったから少し見方を変える意味でも奴らの誘いに乗ったのだ」

 「で、どうでした? 何か収穫があったんですか?」

 「おう、あったとも。 ユウヤとベリアルがあそこに居る理由にも得心がいったわ!」


 ドローンが次々と破壊される。 本体を狙わずに削りに行く戦法に切り替えたか。


 「そりゃ興味深い。 カカラさんは『星座盤』の連中と組んで何を得たんですか?」


 死角からの転移をエネルギーウイングを用いた急加速で回避。

 これまでの攻防で剣を起点に攻撃範囲を拡張しているのは明らかだったので余裕を持って躱さないとやられる。


 「楽しさだ。 欲しい位置に欲しい援護が来る。 他者との一体感というべきか、そういった物を感じる事が出来た。 組んでみれば分かるが、奴らはとにかく視野が広い。 味方の欲しい行動を読み取って援護に入る動きがとにかく上手くてな。 儂に足りんかったのはこれかと学ばされたわ!」

 「なるほど。 だから、今回は俺の援護に徹してる感じなんですね」

 「状況に応じてアップグレードしていかんとな!」


 事実、カカラはアドルファスの動きを助けるような戦い方だった。

 彼の隙を潰し、死角を埋めるような立ち回りは今までの彼にはなかったものだ。

 助かってはいる。 かなりやり易い。


 ――だが、味方ありきの戦い方は依存を生むのではないか?


 一人の時にその感覚が抜けなくて、いざという時に味方を探してしまう精神的な隙になるのではないか? その考えにはそんな懸念を孕んでいるような気がしてならなかった。

 否定はしないが全面的な共感は少し難しい。 


 「確かに個人技の向上には向かんかもしれん。 だが、楽しいぞ」

 「楽しい?」

 「応、少し思ったのだが、儂らは強くなる事に固執しすぎて楽しむ事を疎かにし過ぎているのではないかとな」


 ――楽しい。 楽しい、か。


 アドルファスは自問する。 ICpwは楽しいかと。

 楽しいに決まっている。 一番好きなゲームといっても過言ではない。

 ならここ最近は楽しめているか? そう自らの内側に問いかけると――


 ――そうだと即答は出来なかった。

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