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第549話 第二次防衛戦㉛

 勝つ事、強くなる事に比重を置きすぎていないかと思ってしまうのだ。

 カカラの言う事はもっともで、これまでを振り返ると自分を追い込む形でプレイしていたのだが始めた当初に感じていた純粋に楽しむという事が疎かになっているのかもしれない。


 ――まぁ、仕方ない部分もあるよなぁ……。


 特にBランクに上がった辺りから勝利数と戦闘回数のノルマが厳しくなる事もあり、嫌でも勝敗を意識せざるを得ないからだ。 

 結果としてAランク上位を維持できているので間違ってはいないと思う。

 このゲームは勝ちを重ねると二重の満足と栄光を得ることができる。


 それが何かというとまずはゲーム内での評価。 アドルファスは修行僧のようなストイックさはない。

 承認欲求は人並み以上にある。 だから、名声が広まるのは悪い気はしない。

 他人から一目置かれるのは気分が良かった。 もう一つはリアルに付いてだ。


 このゲームは非常に拘束時間が長いが、代わりに特殊通貨を高額で換金できるというメリットがあった。

 アドルファスも定期的に利用しているが、初めての時は口座に振り込まれたクレジットの額を見て震えたものだ。 


 Aランクであるならフルに戦えば最大で100P近くが手に入る。

 1Pは約一万クレジット。 正直、誰が買ってるんだよといった気持ちが強いが、ゲームを通して売却が可能なので運営が一枚嚙んでいると勝手に思っていた。


 凄まじい金額が動いているにも関わらず、何の規制もされていないので恐らくは遠くない未来に正式な換金所ができるのではないかと疑っている。

 今の地位を維持する為、生活の質を高める為、理由こそ様々だが、中々に苦労が多い。


 特に個人ランクの維持は個々人の技量を高める事が特に重要なので、アドルファスとしては連携等は不要とまでは言わないが二の次程度の認識だったのだ。

 個人戦も大規模イベントでも最終的に物を言うのは個人の力量。 


 圧倒的な個はあらゆる状況を打開する。 

 このゲームを始める前まではやや懐疑的な考えではあったが、アレを見てしまえばそんな考えは何処かへ吹き飛んでしまう。 


 最初のサーバー対抗戦。 アメリカ第三サーバーとの戦い。

 アドルファス最前線で戦っていたのだが、早い段階で敗北を意識していた。

 こちらと向こうではプレイヤーの層の厚さに大きな開きがあったからだ。


 同等の力量を持ったプレイヤーが両陣営に居たとしよう。 

 その勝敗を決定付ける分かりやすい要因は何か? 簡単な問いだ。

 答えは数、物量だ。 事実として日本サーバーはその物量に屈しようとしていたのだから。


 だが、それをたった一人で覆した者がいた。 ラーガスト。

 最強のSランクプレイヤー。 特にアメリカ第三サーバーのSランクを容易く撃破した事とフランスサーバーのSランクとの戦いと呼べるのかも怪しい常軌を逸したアレを見てしまえば認めざるを得ない。


 突き抜けた個人の力は戦況をも左右すると。 

 事実としてラーガストは大規模戦闘で戦えば文字通りの一騎当千。

 日本サーバーのAランクが束になっても敵わないだろう。 


 それを見ていたアドルファスは思ってしまうのだ。 群れよりも個が重要だと。

 だから『烏合衆』は集団ではなく、個の集まりとした。

 その考えに賛同した者達を集めたつもりだったのだが、カカラはそうでもなかったようだ。


 「お前の言う事は分からなくはない――というよりは分かるからこそお前のユニオンに入った。 だがな、こうも思うのだ。 他と同じ事をしても同じ結果にはならんとな」


 敵機の斬撃がカカラに襲い掛かるが斬られる直前に腕を差し込んで防御。

 巨体からは想像もできないほどの軽快な動きだ。 だが、いくら重装甲のサガルマータとはいえ、敵機の攻撃を完全に防ぐ事は難しく無数の傷が刻まれ、ついに耐え切れずに斬り落とされた。


 「ぬ、関節を狙ってきよったか!」


 カカラは残った腕を叩きつけるように振り回し、ガトリング砲とミサイルで追い払う。

 敵機は転移で回避。 転移先を狙ってアドルファスはドローンと共に一斉射撃。

 エネルギー弾やレーザー攻撃が襲い掛かるが、敵機はすり抜けるように躱す。


 ――クソ、こいつかなり手強いな。


 転移を多用するのでベリアルに近い戦い方かと思ったが、攻撃範囲の広い剣の所為で次のアクションが読み辛い。 

 加えて技量自体も高く、挙動はAランクの域を越えている。 

 運営がボスとして設定したエネミーなのだろうが、かなりきつい相手だ。


 それでもラーガストよりはかなり弱いと感じてしまう辺り、あのSランクの化け物ぶりが窺える。

 戦い方の組み立ても少しではあるが見えて来た。 

 見えている範囲では武器は剣一本――というよりはあれだけで充分なのだろう。


 不可視の広範囲攻撃。 視覚で捉えられないのは厄介だが、観測手段が存在するのは幸いだ。

 剣を起点に広がる巨大な枝葉のような攻撃力場。 

 本質的には自由度の高いエネルギーブレードといった所だろう。


 起点から伸びる形で展開する以上、軌道は見切れなくはない。

 対するアドルファス達はドローンは残り二機。 カカラは満身創痍。

 アドルファス自身の機体も細かなダメージが蓄積しており、パフォーマンスが低下している。


 ――これは無理か。


 勝てない。 総合力もそうだが、この敵を仕留めたいのならとにかく手数が要る。

 消耗しきった自分にはその手数を確保する事は難しい。


 「話が途中だったな」


 カカラがミサイルをばら撒きながら後退し、アドルファスの隣に付く。


 「こうして自分の力ではどうにもならない場面に遭遇すればそこで終わってしまうのが個人の限界なのだろう。 だが、他が居れば別の可能性、別の勝機も見えてくる」


 敵機はカカラの挙動を学習したのか緩急を付けた転移で即座に懐に入る。 

 それを読んだカカラはガトリング砲で迎え撃とうとしたが、敵機は剣を一振り。

 カカラの放った無数の銃弾は不可視の壁に阻まれて止まる。


 力場を盾のような形にして防いだ。 

 これまで枝葉のような形状でしか使ってこなかったので、この変調には少し反応が遅れてしまう。

 転移で躱しに来ると思っていたカカラは完全に無防備。 アドルファスは咄嗟にフォローに入ろうとするが敵機の動きはそれよりも早く、弾幕が途切れたと同時に刺突を放つ。


 それは頑強なサガルマータの胸部装甲を貫通して彼に致命的な損傷を負わせた

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