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第550話 第二次防衛戦㉜

 コックピット部分こそ逸れたが動力部を完全に破壊された事により脱落は確定となった。


 「なぁ、アドルファス」


 カカラの声は穏やかだった。 


 「俺達がもう少しお互いの連携を高めていたのなら違った結果になったと思わんか?」

 「カカラさん。 あんた、それを言う為にここまで来たのか?」


 アドルファスの質問にカカラは小さく笑う。


 「少しだが『星座盤』と共闘してな。 他者と力を合わせる事の難しさと面白さを少し味わったのだよ。 それを仲間と共有したいと思っただけの話だ。 ――さて、俺はここまでだが、ただで落ちるのも癪だな」


 カカラは爆発寸前の機体に鞭打って推進装置を全開にして貫かれながらも敵機へと肉薄。 

 ガトリング砲を連射。 敵機は転移でとどめを刺すべくカカラの死角へ。

 完全に入るタイミングだが、カカラはその瞬間に敵機の想定を超える行動をとった。


 発射口を閉じた状態でミサイルを全弾発射したのだ。 

 それにより機体の内部で爆発。 無数の破片が敵機へと襲い掛かる。

 流石にこれは躱せなかったのか被弾。 機体に無数の傷が刻まれた。


 その隙をついてアドルファスは残りのドローンに援護させつつ突っ込む。

 ライフルを連射して相手に回避を促し、行動を誘発する。 

 傾向的に普通に躱して背後を取ろうとするが、ドローンの援護で回避コースは制限している以上、微妙に抵抗があるはずだ。 


 ――ならどうするか? 


 敵機の姿が消える。 転移、読み通り。

 転移後の攻撃の傾向も見た。 実力差がある相手にはからかうように正面。

 遊びなしで仕留めたいのなら――死角である背後!


 反応が出てからでは間に合わない。 転移と同時に喰らわせたのなら躱せないはずだ。

 エネルギーブレードで振り返りながら一閃。 

 アドルファスの斬撃は空を切り、代わりに胴体は不可視の刃に貫かれた。


 光学迷彩。 どうやら転移したと見せかけてその場から動かなかったようだ。


 「くっそ、焦り過ぎたか」


 単純に実力不足で負けたのは認めざるを得ないが、勝ちたいのであればもっとカカラと――いや、もっと多くの仲間を募るべきだったのかもしれない。 

 仲間、仲間か。 もう少し連携面での強化を意識するべきだったのかもしれない。


 そんな事を考えてアドルファスは小さく目を閉じた。 直後に機体が爆発。

 彼は脱落となった。



 ――中々だった。


 ジョゼはたった今仕留めたアドルファスとカカラに対してそんな感想を抱く。

 少なくとも単体戦力としての戦い方はどちらも確立できていたので、その長所をどこまで伸ばせるかで今後の成長速度が変わってくるだろう。


 やはりAランクの上位プレイヤーは歯応えがある。 

 さっきの二人に関しても連携を密に行えばもう少し違った結果になっていた可能性が高い。 

 あくまで個人技を掛け合わせただけでは格上に勝つのは難しいだろう。


 ――まぁ、そういうのは求めてないんだけどねぇ?


 運営とスポンサーの意向は最終的な目的こそ同じだが、方向性が大きく異なる。

 突き抜けた戦力であるオーバーSランクを欲しがっているのは運営。 

 そして安定した戦闘能力を発揮した個体を量産したいのがスポンサー。


 運営は気長に育てていこうとでも考えているようだが、スポンサーは以前の結果がお気に召さないのか成果を焦っている感じは否めない。

 結果、プレイヤー対ボランティアといった少し変わった構成のイベントに変わってしまった。


 ジョゼとしては面白ければ何でもいいので正直、上の思惑はどうでも良かった。

 ただ、序盤に侵入して来た連中に関してだけは少しだけ大丈夫かとは思ったが。

 目的はどうあれ既にフィールドから排除されている以上はこのイベントとは無関係なので、彼女が気にする事ではないだろう。


 参戦オペレーターには明確なルールがいくつか存在する。

 まずはゲームを壊してはならない。 何を以って壊すのかというと防衛戦の場合はプレイヤーの敗北条件である施設の完全破壊に関与しない事。 


 要は進入禁止だ。 彼女の役目はプレイヤーを試す事であって、潰す事ではない。

 次に参戦タイミング。 イベントの進捗が一定以上進めば参戦が可能となる。

 具体的にはエネミーの一定数以上の撃破、タスクの一定以上の消化等が該当する。


 本来であるなら大型のボスエネミーなどを順番に繰り出し、プレイヤーがその悉くを乗り越えた場合に最後の試練という形で参戦するのだが、今回はボランティアを使用する形になった事もあって予定がかなり前倒しになったのだ。 


 特にアヴェスターシリーズがあっさりやられた事が大きい。

 思い出してジョゼは笑う。 スポンサー連中が自信満々に繰り出しておいてプレイヤーに返り討ちに遭い、反応がロストした時の顔は最高だった。 


 ――え? 嘘だろ?

 ――こんなにあっさり??


 そんな言葉が聞こえてきそうなほどに呆然としており、非常に滑稽な有様だった。

 しかもベヒモスとセットで送り出しにもかかわらずだ。 

 あの連中は何か勘違いしているようだが、ベヒモスは確かに強力な装備ではある。


 だが、その性能を十全に扱うには高い操縦技能が要求されるのだ。

 その辺りはMODで補えるとでも思っていたようだが、明らかに足りていない。 


 ――それにしてもあいつ等のMODに対する信頼感は何処から来るのだろう?


 作成過程はともかく優れた代物である事はジョゼも認めていた。

 全くの素人でも使い方によってはBランク程度の戦闘能力は出せるので、スポンサーの求める安定した戦力供給の需要にはマッチしている。


 だが、低いレベルでしか安定しない上、MODには致命的な欠点があった。

 モーションのバリエーションがあまり多くないのだ。 

 いや、数自体は膨大ではあるのだが、限られたシチュエーションで最適な行動を取るといった縛り・・がある以上、特定の状況に誘導されれば全く同じ行動を取る。


 バカな連中は未だに理解していないが、総合力で上回っているはずのMODユーザーがあっさり撃破されている原因はこれだった。 最適な動きを追求した結果のワンパターン化。

 運営側は早い段階でその問題に気付いてはいたからこそオーバーSランクの獲得を優先していた。


 日本サーバーはまだ人道的はあるが、他の地域は手段を選ばなくなってきている事もあってもっと焦った方がいいのではないかと思ってしまう。


 ――まぁ、あたしの考える事じゃないかなー?


 そんな事よりも次の獲物の所へ行かないと。 

 動きからここに集まっているようなので待ってるだけでいいのは実に気楽だ。 

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