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第551話 第二次防衛戦㉝

 要塞内部は基本的にトルーパーでの移動を前提とした造りなのか非常に広く、充分に動き回っての戦闘が可能だった。 

 ヨシナリは道中で半ば確信していた事がほぼ固まったのを感じる。


 ――マジでこの要塞の中に居るのあいつだけっぽいな。


 何故なら他の敵が一切出てこないからだ。 

 構造的に防衛システムやエネミーを配置しておくと効果的な場所はいくつかあったが何も出てこない。

 フォーメーションはツガルを先頭にその後ろにベリアル少し下がってタヂカラオ、ポンポン、ヨシナリが横並び。 その後ろにマルメル、まんまるが地上を進む。 一番後ろにグロウモスだ。


 転移を使って来るので中心の三人――特に探知に優れるヨシナリとポンポンが転移の兆候をどれだけ早く感じ取れるかが肝だ。 


 「なぁ、ヨシナリ」

 「はい、なんでしょう?」


 しばらくの間、全員が周囲を警戒している所為か静かだったが、ポンポンが不意に口を開く。


 「あのエネミーなんだがどう防ぐ?」

 「……さっきから考えてたんですけど、現状ではかなり厳しいですね」


 あの敵の厄介な所は挙動の兆候が見えない事だ。 

 エネルギー流動自体は見えているのだが、転移や攻撃の際の出力増加が見えない。

 その為、攻撃に対する反応が微妙に遅れるのだ。 あの敵に対してその僅かな遅れは致命的だった。


 基本的にシックスセンスの探知を掻い潜りたいのならウイルス系の電子兵装で認識自体を狂わせるか、EMPに類する機体の機能をマヒさせる類の攻撃のどちらかだ。

 ウイルスチェックに引っかからなかった点からさっきの話し合いで触れた通り、EMPでほぼ間違いないだろう。


 根拠としては攻撃後の痕跡はしっかりと残っているからだ。 

 見えないのはあくまで起点のみ。 

 そう考えるなら絶対に正しいとまでは言い切れないが、的は外していないと思っていた。


 「一秒にも満たない短時間なので不調に気付くのも難しいでしょう。 目を凝らせば可能かもしれませんが、アレ相手にそんな事をやってれば死ぬのでシックスセンスで動きの起点を捉えるのは諦めた方がいいと思います」

 「なるほどナ。 仕留めたいなら正攻法って事か」

 「ですね。 まぁ、肝心の地力が足りてない所が悲しいですが」


 敵が居ない事もあって移動は怖いぐらいにスムーズに進み、外縁がから入ったのにもう中枢が近い。

 手の内はある程度ではあるが見た以上、さっきのように翻弄されるだけでは終わらないとは思うが、仕留めるとなれば少し自信がなかった。 


 転移からの範囲の広い攻撃。 回転も速く、味方のフォローがなければ長時間保たせる事は難しい。


 ――問題は相手の攻撃と反応をどう上回るかだ。


 あの敵は単純に速く、強いので圧倒するには回転速度で上回る必要がある。

 だからこそこうして呼びかけながら味方を募っていた。 

 足りない面を手数で補うのが最も分かりやすい勝ち筋だ。 


 ――目立ってきたな。


 中枢に近づくほどに戦闘による施設の損傷やトルーパーの残骸が目立つ。 

 突っ込んで返り討ちに遭ったプレイヤーなのだろうが、そこまで時間が経過していないにも関わらずにこれだ。 明らかに百や二百では利かない数が潰されていた。


 恐らくだが、早い時は数秒で終わった戦闘もあったかもしれない。

 来る途中にもまばらではあるが、残骸や戦闘跡はあったのだ。

 加えてマッピングしているこの要塞の状態を合わせれば敵機は中枢に近い位置にいるグループを順番に襲って徐々に外縁へと移動したと見ていい。


 コンシャス達が嬲り殺しにされたのはあの時点で侵入した機体の大半を平らげたので次が来るまでの時間潰しも兼ねていたのだろう。 

 ヨシナリ達が来た時に居なかったのは他が入って来たからか、飽きて仕留めた結果なのかは不明だが鉢合わせなかったのは運が良かった。


 「なぁ、ヨシナリ。 触れまわって他の助けに期待するのはいいけどよぉ。 割とギャンブルじゃねぇか? 来なかったらどうするんだ?」


 マルメルは少し不安そうだった。 

 この面子では撃破はあまり現実的ではないので気持ちは分からなくもない。


 「まぁ、その時はその時だな。 仕留めるのは無理でも勝つのは割と何とかなると思う」

 「どういう事だ?」


 ヨシナリは現在地を軽く確認し、そろそろいいかなと判断。


 「よし、伏兵もイレギュラーもなさそうだし、そろそろ簡単な作戦会議をしましょうか」


 質問には答えずにそういった。



 この要塞の構造は中央部分が巨大な球状の空洞になっており、その中心に更に巨大な球状の建造物が存在している。 

 侵攻戦で見た反応炉のような代物なので一目で分かった。 

 ただ、以前に見た物よりもかなり大きい事から恐らくは中に入る必要がある。


 ヨシナリ達は下から入ったので、目標を見上げる形にはなっていたがそれよりも周囲に目が行く。

 散らばったトルーパーの残骸。 

 ソルジャー、エンジェル、キマイラだけでなくジェネシスフレームの物と思われる物も多い。


 中でも目を引くのは一際巨大な残骸だ。 

 フレームが原型を留めていた事もあって誰だったのかは一目でわかる。


 「……カカラさん」


 他にも見覚えのある機体が散見され、もう少し早く来れればよかったと悔やまれる。

 球体に腰掛けるように待っていたであろう例のエネミーがゆっくりと立ち上がり、持っていた剣をだらりと構えた。


 100以上は離れているが転移を使ってくる相手に距離はあまり意味がない。

 センサーシステムを当てにせず、目視でタイミングを取れ。 

 ヨシナリはじっと目を凝らす。 相手はエネミーではなく運営側が用意した人員だ。


 思考を逆算すれば狙いは見えてくる。 最も危険な初撃を凌げば――


 「マルメル!」

 「俺かよ!」


 敵機の姿が消えたと同時にヨシナリが叫び、マルメルが直線加速。

 一瞬、後れて敵機が真後ろに現れて剣を振るう。 

 脇目も振らずに加速した事もあってマルメルは無傷で回避。


 ――ベリアルが間に合う。


 追撃しようとした敵機にエーテルの爪を振るう。 

 攻撃の回転を上げるためにブレードではなく爪で行く事にしたようだ。

 横薙ぎの一撃を短距離転移で躱し、死角へ回り込む。 


 敵機が背後に斬りつける前に反転したマルメルが銃撃。 上昇して回避。

 射線が取れた事でまんまるが砲撃し、紛れる形でグロウモスが狙う。

 砲は大きな動きで、狙撃は上体を僅かに傾けるだけで躱す。 

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