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第552話 第二次防衛戦㉞

 この敵は非常に厄介で単独では勝つのは不可能なレベルの強敵だ。

 だが、無敵ではなくこちらは人数が居る。 その利点を最大限に活かせば細いが勝ち筋はあった。

 広い攻撃範囲、高い技量と転移。 


 恐らくは何らかの防御機構も持っているだろうが、こちらを舐めているのか使ってこない。

 ヤバい相手だとヨシナリは断言するが、こうも考えていた。


 ――ラーガストを相手にするよりは遥かにマシだと。


 厄介な相手ではあるが、一つ一つミスなく対処すれば凌ぐぐらいはどうにでもなる。

 まずは剣。 どちらかといえば剣に見えるだけの柄、ヨシナリは手首と認識していた。

 斬撃に合わせて不可視の力場が巨大な手のように広がって相手を握り潰すように広がる。


 本来なら不可視だが、シックスセンスによるセンサーシステムのリンクを行っているので前に出ているベリアルにははっきりと見えていた。 

 横、または縦に振る斬撃の場合は手を広げて握り潰すような挙動をするので、剣を受けても力場によって後ろから斬られたような有様になると言う訳だ。


 だが、起点が剣なので躱せない事はないのだ。 

 横なら上下、縦なら左右が死角となるので、そこから抜け出せば攻撃範囲から逃れられる。

 これは良いが厄介なのは刺突だ。 


 切っ先を起点に大きく広がるので繰り出す前に回避に入らないと無傷で躱すのが難しい。

 出が速いので剣を引いたタイミングで躱す事を意識する必要がある。

 不幸中の幸いなのが、敵機の剣術スキルは大した事がない点だろう。


 少なくともふわわやモタシラレベルの剣技を扱えるのであればそもそも何をされたかすら理解できずに沈んでいた可能性が高い。 これが剣に対する対処法。

 次に転移。 これは今のヨシナリ達には無理だった。


 何らかの手段でセンサーシステムによる探知を無効化して来るので転移の兆候が見えない。

 エネルギー流動から前兆を掴めないか観察したが、ヨシナリには認識できなかった。

 その為、先読みする事で転移を攻略する事を諦めた。 だから、見るべきは機体ではなくその中身。


 要はプレイヤー――恐らくはラーガストが過去に語っていた『オペレーター』とやらなのだろう――の癖から次の挙動を読み取らなければならない。 


 ――が、今の段階では本気になっていないので、そのレベルの予測にはもう少し追いつめる必要がある。


 ベリアルには可能な限り有効な立ち回りは伝えた。 

 後は彼が何処まで食い下がれるかにかかっている。 

 この戦い方はベリアルありきで成り立っているので、彼の脱落は即座に敗北に繋がるのだ。


 普通なら中々にプレッシャーのかかる場面だが――


 「如何に我が闇を上回る歪みを操ろうとも、貴様に星を落とせるか!?」


 横薙ぎの一撃を急降下から、敵機の股を抜ける形で背後を取り足を狙って爪を振るう。

 敵機は急上昇で躱し、振り下ろすように一撃。 ベリアルは右に躱す。

 僅かに距離が拓く。 その瞬間、まんまるとマルメルが十字砲火。


 とにかく手数が欲しい上、下手に溜めの大きな攻撃は転移で狩られかねないので深追いは絶対にしないように徹底。 

 特にマルメルのハンドレールキャノンは威力は絶大だが隙が大きいので絶対に当てられるタイミング以外には使うなと釘を刺しておいた。


 機動性は既存機の比ではないので点や線では捉えきれないのでとにかく面制圧。

 そうするとフィールドの類を使わないのであるなら大きな動きで躱しに行く。

 ヨシナリはアシンメトリーを抜いて回避先を狙って狙撃。 敵機は剣を盾にして防ぐ。


 ――ここだ。


 動きが止まった隙を逃さずにグロウモスが狙撃。 スコーピオン・アンタレスは簡単には防げない。

 防ぎたくないなら躱すしかないが、通常の機動では間に合わない。 

 そうなると転移しかない。 敵機の転移は非常に便利だ。


 兆候が掴めず、ベリアルよりも圧倒的に移動範囲が広い。

 つまりこの場にいる全員を好きに狙えるという事だ。 

 さて、敵オペレーターはこの状況で何を優先するか? 


 ヨシナリの所感ではあのオペレーターは感情で動くタイプに見える。

 煽ってきている点、舐めている点、格下相手に嬲るような戦い方。

 合理ではなく感情を――自身の楽しみを優先する傾向にあるのは見れば分かる。


 合理で考えるのであれば真っ先にベリアルを狙うのだが、合理でないが故にベリアルは除外されるのだ。

 なら感情であるなら? 使う直前に印象に残った相手、要はパッと目に入った標的だ。


 ――そう考えるなら答えは自ずと導き出される。


 「グロウモスさん!」


 ヨシナリが叫ぶ前に変形して駆け出していたグロウモスの背後から敵機が滲み出るように現れる。

 大正解だ。 動き出しが早かった事もあってグロウモスは敵機の攻撃範囲から逃れ、追撃はツガルとポンポンが弾幕を張る事で牽制し、逃げ切る時間を稼ぐ。


 ヨシナリ、ツガル、ポンポン、タヂカラオの四人は基本的に他がやられないようにフォローする事が役割だ。

 一見、隙のない布陣に見えなくもないが致命的な弱点があった。

 このフォーメーションの軸はベリアルである以上、彼がやられた時点で破綻する。


 非常に負担のかかる役割だが、ベリアルは望む所だと不敵に笑う。

 ヨシナリ達が勝つにはマルメル達が一発当てるか、タヂカラオが動きを封じるかのどちらかだ。

 見た所、防御はそこまでではないので高火力の一撃で貫くか、動きを封じて一斉射撃で充分に仕留められる。


 ――問題は当てる所まで行けるかなんだよなぁ……。


 Aランクでも非常に高い近接スキルを持っているベリアルですらどうにか拮抗できている状態なのだ。

 加えて相手にはまだまだ余裕がある。 

 つまりは勝つには相手の本気を引き出した上で僅かでもそれを上回らなければならない。


 グロウモスへの追撃に入る前にベリアルが短距離転移で肉薄。

 ラッシュをかけるが敵機はその全てを器用にいなして弾く。 

 厄介な事に徐々に動きに無駄がなくなって来た。 


 恐らくはベリアルの攻撃パターンを把握し始めたのだ。

 ベリアルのラッシュは転移、機動を絡める事で成立しているので、単純な近接攻撃のバリエーションはふわわやシニフィエのように専門的な技術を学んだ者には大きく劣る。


 だからと言ってあのスピードで繰り出される攻撃は簡単に対応できる物ではない。

 どんな反射神経してるんだよと思いつつも、敵機の動きを見逃すまいと見つめ続ける。

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