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第553話 第二次防衛戦㉟

 ――いい、実にいい。


 ジョゼは少しだけ嬉しくなっていた。 

 明らかに自分の動きを研究したであろう無駄のない連携。 

 少し戦っただけでここまで仕上げてくるのだから大したものだった。


 少なくともこのイベント中に彼女が屠ったプレイヤー達の中ではトップクラスだ。

 内容も悪くない。 ベリアルが近接戦で抑えつつ、隙や不足を他がカバーし、高火力、または拘束系の武装を持った者が狙って来ている。


 面白い! 本当に面白い!

 このままでは負けてしまうかもしれない。 そう考えるとゾクゾクする。

 だからと言って負けてやる訳には行かない。 機能に制限がかかっているので武装の大半が使えないが、問題ない範囲でギアを上げる。


 ――さぁ、これはどう凌ぐ?



 敵機の動きが変わった。 正確には大振りでベリアルを追い払う動きに切り替えたのだ。


 ――隙を作ろうとしている?


 変調に嫌な予感を感じたのでヨシナリはアシンメトリーではなくアトルムとクルックスの連射で行動の妨害を意識して弾をばら撒く。 敵機は転移で躱し、距離を取った。

 持っていた剣が消失し、代わりに短剣が二本両手に収まっている。


 「あ、これヤバいかも」


 思わず呟く。

 さっきまで使っていた剣に形状が似ている点から同系統の武器である事は明らかだ。

 加えてエネルギー流動にも変化、出力が上がっている。 本気になって来たという訳だ。


 一応は想定内だが、本気になった敵機の動きは果たして想定に収まってくれるだろうか?

 正直、自信がなかった。 


 「ベリアル! 攻撃のテンポが上がる! 気を付けろ!」


 警告を飛ばすと同時に敵機とベリアルの両者が転移によって消失。

 次の瞬間に両者とも近い位置に出現して凄まじい攻撃の応酬を繰り広げたのだが――

 ベリアルの爪が敵機の攻撃を一撃弾き、二撃目で砕け散る。


 明らかに回転が上がっており、ベリアルの反応速度を大きく上回っていた。 

 腕を再構成しながらもどうにか粘るが、三、四撃と繰り出される敵機の攻撃速度に受けに回らされる。 

 それでも無傷で凌いでるのは流石だったが、明らかに手数が足りていない。


 両腕が破壊される。 

 再構成している余裕がないので足も使って凌ぐが、これは無理だと転移で距離を取ろうとしたが、敵機も全く同じタイミングで転移。 それにより、間合いと距離が一切変わらない。


 ――転移のタイミングを合わせた? そんな真似ができるのか!?


 「ぐ、まだ――」


 両足が砕かれベリアルが完全に部防備になる。 

 とどめと言わんばかりの一撃が放たれたが、再構成が間に合った腕を差し込んで防御。

 致命傷は避けたが、衝撃までは殺しきれずに吹き飛ばされる。


 追撃を阻止する為にツガルとポンポンがカバーに入るが、敵機は待ってましたと言わんばかりに加速。 狙いはポンポンだ。


 「チッ、狙いはあたしかよ!」


 接近戦は無理だと判断して近づけない為に弾幕を張るが機動性が違いすぎる。

 瞬く間にポンポンの正面、至近距離。 攻撃前に僅かに上体を傾けるとグロウモスの狙撃が通過。 


 「……っこの!」


 苛立った声が通信から聞こえる。 明らかにタイミングが掴まれていた。


 「舐めるナ!」


 ポンポンは諦めずに拳銃を抜くが構えた瞬間には機体が切り刻まれていた。

 クソと悔し気な声がして彼女の機体が爆発。 

 ツガルが攻撃後の隙を突く形で機銃を連射しながら突撃するが、敵機は転移で回避。 


 「逃がすかよ!」


 ツガルは機体を振り回すように回転させ、死角を潰す――前にすぐそばに現れた敵機が機体の中心に下から膝、上から肘で挟む。 ツガルは咄嗟に斥力フィールドを展開して防ごうとしていたが、どうやったのかそれを貫通して機体が真っ二つに圧し折れる。


 爆発すると同時にエネルギーリングが敵機に襲い掛かるが、短剣が霞むような速度で振るわれリングが欠けた。 

 それにより拘束力が発揮できずに通り過ぎる。 


 ――飛んで来たリングを斬ったのか!?


 反応はふわわと同等か。 

 あんな真似ができる奴が他に居た事も驚きだったが、今はそんな事を考えている場合じゃない。


 「ヨシナリ君! ちょっと我々には早い相手だったかもしれないね」


 タヂカラオはやや悔し気にそういいながらエネルギーリングを連射。 

 敵機は飛んで来たリングを切り払いながらタヂカラオを間合いに捉える。

 やらせるかよとヨシナリはアシンメトリーを連射するが敵機は見もせずに躱す。


 腹を括ったタヂカラオは腕からエネルギースピアを展開して刺突。

 イチかバチかのカウンター狙い。 当然ながら反応速度に大きな差がある以上はどうにもならない。

 あっさりと躱されタヂカラオは切り刻まれて空中でバラバラになった。


 敵機はヨシナリを見て肩を竦めて見せる。 

 言外に「もう終わりか?」と尋ねているようだった。 


 ――煽るじゃねぇか。


 怒りで思考が濁りそうになるのを抑え込む。 

 ベリアルはまだ健在だが、かなりのダメージを負ったようでパフォーマンスの低下は避けられない。

 その為、抑える役割はヨシナリがやらなければならなかった。


 やってやると変形させて加速。 アシンメトリーを連射しつつ敵機から距離を取る動き。

 正確には間合いを維持する事を念頭に置いた動きだ。 

 それにやっとだが何となく見えて来た事がある。 相手の転移の前兆だ。


 ほんの僅かな瞬間で見逃しそうなレベルの変化だが、動きが止まる。

 一秒にも満たないが確かに止まるのだ。 次の瞬間に転移する。

 後は何処を狙って来るのかを見極めれば躱せなくはない。


 転移。 来るぞ――ここだ!

 バレルロール。 敵機が出現と同時に斬撃。 羽の一部が斬り落とされたが躱せた。

 また転移。 死角か正面か。 明らかに躱された事が意外といった様子だった。


 あの敵は好奇心を優先させるタイプだ。 ならそこから思考を逆算しろ。

 躱したのがまぐれかを確かめたいと思うなら正面。 もう一度躱してみろと仕掛けてくる。

 インメルマンターン。 上昇と同時に一瞬前までヨシナリの居た空間を敵機が横薙ぎの一撃が切り裂く。


 ギリギリだった。 アバターにも関わらず緊張で胃の辺りがきゅっと締まる感覚。

 ベリアルはこんな攻撃を正面から受けてたのかよと改めて戦友に尊敬の念を抱きつつ、もう何度も躱せないという事も悟っていた。


 まんまるとマルメルが援護射撃。 気を引く為だったのだが、不味い状況だ。

 狙うならどっちだ? マルメルはまだハンドレールキャノンを見せていない。

 なら、邪魔なのは――


 「まんまるさん! 回避!」


 ヨシナリは警告を飛ばす。

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