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第554話 第二次防衛戦㊱

 まんまるは咄嗟に砲や装備等、捨てられる物は全て捨てて回避しようとしていたが、敵機の速度は彼女の反応を遥かに凌駕しており、対処は不可能だった。

 交差するような斬撃を喰らって機体がバラバラになり、僅かに間をおいて爆発。


 ――これはどうしようもないな。


 ヨシナリはもうどうにもならないと判断せざるを得なかった。

 無傷なのはマルメルとグロウモスのみ。 

 ホロスコープも無理をして躱した所為か、推進装置に少しだけダメージがあった。


 「マルメル。 ヴルトム達は間に合いそうもない。 ――後は頼む」


 こうなってしまえば仕方がない。 あまり使いたくなかった切り札を使う。


 「マジでアレをやるのか?」

 「あぁ、失敗したら瞬殺されるからあんまり期待はするなよ」


 来る前に簡単な作戦会議はしておいた。 

 当然ながら返り討ちに遭う事も視野に入れてはいたので、そうなった時にどうするのかも決めていたのだ。 


 チームが半壊し、勝ち目が完全に消えた時に使う文字通り最後の手段。


 ――ベリアルが残っていてくれたのは不幸中の幸いか。


 彼がやられていたら完全に終わっていたのでまだ運は尽きていないようだ。

 マルメルは少し迷う素振りを見せたが、小さく頷く。


 「見てみたい気もするけど頑張れよ!」


 マルメルは敵機に銃弾をばら撒きながら後退。 グロウモスもマルメルに続く形で移動を開始。

 敵機が後退した二人に反応した隙にヨシナリは機体を変形させて加速する。

 別々の方向へ動き出した三機。 どれに対処するのかを迷ったのは一瞬だ。


 一番足の遅いマルメルを狙いに行った。 

 転移で距離を詰めるが、マルメルは近づけない為に弾幕を張る。

 アノマリー、突撃銃、短機関銃、両肩の散弾砲をとにかく撃ちまくった。


 敵機は側面に出現。 

 横からマルメルに襲い掛かるが、来るのは何となく分かっていたマルメルは自身の直感に従ってハンドレールキャノンを展開して発射。 


 奇跡とも呼べるタイミングで彼の放った弾体は見事に転移した直後の敵機へと飛ぶ。


 ――が、敵機は驚くべき事に短剣で弾体を受け止めたのだ。


 食い破らんと弾体が牙を剥くが敵機は空いた手にあった短剣をその側面に叩きつけて強引に逸らす。


 「正面から止めるとか勘弁してくれよ!」


 マルメルが悲鳴を上げるが、できた隙を最大限に活用してかなりの距離を取っていた。

 移動先は上。 要塞の中枢だ。 

 狙いに気付いた敵機は追いかけようとしたが背後から闇を凝縮したような何かが飛んで来た。



 ジョゼは今しがた飛んで来たエーテルの砲を躱し、飛んで来た方へと振り返る。

 どうやらベリアルが復帰したようだ。 中々に楽しませてくれると思っていたが――


 ――え?


 彼女はこのゲームの運営に関わっている人間であり、同時にオペレーターという特殊な役職を与えられている事もあってトルーパーに関してはかなりの知識を持っていると自負している。

 ジェネシスフレームも全てではないが、大部分のデータは頭に入っていた。


 だが、そんな彼女の知識をもってしても目の前の機体に見覚えがなかった。

 漆黒の装甲はエーテルで形成しているからなのは分かる。 

 形状もプセウドテイに酷似しているが、プレイヤーIDのタグはヨシナリである事を示していた。


 二回りほど大きくなっている事は疑問だったが、そんな事は問題ではない。

 問題は出力だ。 明らかにジェネシスフレームの域を超えた数値を叩き出している。


 『見せてやるぜ! 俺達の切り札をなぁ!』


 ヨシナリが吼えるように叫んだ後、機体が転移。 

 死角――ではなく正面から来た。 ジョゼは受けて立つと短剣で切りかかる。

 ベリアルですら凌げなかったラッシュをヨシナリの反応速度で躱せるはずがない。


 それは分かっているはずなのに何故、正面から来たのだろうか?

 不明ではあるが、考えがある事は明白。 なら、何を仕込んで来たのかを見せて欲しい。

 そんな考えで受けて立ったのだが――次の瞬間には目を見開く事になった。


 機体の背から四本の腕が生え、ジョゼの攻撃の全てを捌いたのだ。


 『悔しいが貴様の全ては俺達を上回っている。 単独では勝ち目がないだろう。 だが、独りで届かぬのならば重ねるのみだ!』


 ベリアルの声。 そこでようやく何が起こったのかに理解が追い付いた。

 エーテルを使ってプセウドテイとホロスコープを強引に接合したのだ。

 それにより二機分の出力を発揮している。 そしてそれだけではなかった。


 腕の本数の差もあるが、反応速度も大きく上がっており正面から押し負けている。

 特にパワーでは完全に負けていた。 


 『さっきまでと同じと思うな! パワーならこっちが上だ!』


 流石に捌き切れずに後退するが読んでいたかのように同じタイミングで前に出て来る。 

 速い。 完全にこちらの挙動を読んでいる。


 ――なら、これはどう?


 ジョゼは短剣の機能を解放。 

 さっきまで使っていた剣もそうだが、ある種の力場を形成する事で斬撃範囲の延長などを行っていたが、それを最大にする。 枝葉のように広がった斬撃の嵐が敵機に襲い掛かるが――


 ――四本の腕が枝分かれした無数の鞭のような形状になってその全てを弾く。


 ヨシナリは待ってましたと言わんばかりに元々あった二本の腕で拳銃を構える。

 流石に至近距離で喰らうと不味いので旋回で躱し、転移で死角へと移動するがヨシナリは既にジョゼの背後だ。


 咄嗟に短剣を交差させて防御。 蹴りが入り、命中したと同時に爆発。

 内部にクレイモアを仕込んでいたようで無数の弾丸がジョゼの機体に突き刺さる。

 それにより蹴りの威力を殺しきれずに吹き飛ばされた。 体勢を立て直して制動。


 視線をヨシナリに向けると四本の腕が砲のような形状に変化し、胸部からも高エネルギー反応。


 『沈め!』

 『光なき世界へ!』


 二人の声が重なり。 五つの砲口から収束されたエーテルの砲が放たれた。



 収束されたエーテルの砲撃が敵機と放たれる。 

 タイミング的に無傷とは行かないはずだと思ってはいたが、仕留められたのかは非常に怪しい。

 ヨシナリは今の自分達の機体の状態を確認し、まだ行けると判断。


 ホロスコープ=プセウドテイ。 ヨシナリとベリアルの機体が合体した姿だ。

 正確にはホロスコープがプセウドテイを背負ってエーテルの鎧で覆っているだけなので二人羽織に近いが、この形態の大きな利点は二つ。


 二機分の出力を扱える点と、二人で操作を分担できる事にある。

 ベリアルの内包する闇はヨシナリの戦いに大きな可能性を示したのだ。

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