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第555話 第二次防衛戦㊲

 切っ掛けはベリアルと訓練をしている時だった。

 表には出していなかったがイベント戦の敗北をかなり引き摺っていたので気晴らしを兼ねて、パンドラの習熟訓練に付き合って欲しい。 そんな理由で連れだしたのだ。


 最初は模擬戦に始まり、パンドラの具体的な扱い方についての意見交換、近、中距離での立ち回り。

 そんな感じではあったのだが、ヨシナリはふとある事を思いついたのだ。

 ヨシナリとベリアルの機体にはエーテルの精製と操作を可能とするジェネレーターが搭載されている。


 精製ではなく気になったのは操作だ。 

 物質化と形状操作により武器にも防具にもなる非常に柔軟性の高い機能ではあるのだが、ここで疑問が生まれたのだ。 他の機体が放出したエーテルはどうなのかと。


 ものは試しにと実験してみたのだが、ヨシナリの考えは正しくベリアルの機体から放出されたエーテルはヨシナリに操作が可能で逆も同様だった。 

 つまり二機を強引に接続してしまえば二機分の出力と操作能力を使用する事ができる。


 特にベリアルの機体はエーテルの鎧がなければ頭部と胴体、後は少し突き出た手足しかないのでホロスコープに背負わせる形にしてからエーテルの鎧で固めれば行けるのではないかと閃いたのだ。

 ここ最近、複座型のエネミーを何機も見ているお陰でこんな発想に至れたと思うのだが、実際に動かしてみると随分と可能性に満ち溢れた機体となった。


 ヨシナリが機動、ベリアルが攻撃と転移を担当する事で互いが互いの操作に専念できる。

 それにより、クオリティの高い挙動が可能となった。 特にベリアルが攻撃に専念できるのはかなり大きく、手数が通常のほぼ倍になるという凄まじい回転を誇る。


 本来なら次のユニオン対抗戦の為に温めておくつもりだったのだがここまで煽られた以上、未完成でも使うしかなかった。 

 そしてあのクソ舐めた態度の運営機を叩き潰し、ざまあみろと中指を立ててやるのだ。


 二機分の最大出力で放った収束させたエーテルの砲は敵機を捉えたのだが――


 「手応えはあったが浅いか」


 ベリアルの言う通りだった。 直上から転移で現れた敵機が短剣で斬りかかって来る。

 ヨシナリは後退して回避。 合わせる形でベリアルがエーテルの弾丸で弾幕を張る。

 敵機は左右に振って掻い潜ろうとするが、短剣の間合いに入る前にベリアルが精製した四本のブレードで斬撃を繰り出す。


 敵機が受けに回った所に合わせてアトルムとクルックスをバースト射撃。

 転移で躱されるが、こちらも空間転移。 死角を狙って来る相手の死角へと移動。

 目の前の風景が切り替わり、敵機の背中が見える。 


 ――美味しい位置だ。


 転移によるポジショニングをやらせればベリアルは天才だった。

 相手の裏を読んだ転移。 少なくともこれを即興で真似する事は今のヨシナリには無理だ。

 頼もしいと思いつつがら空きの背中に持ち替えたアシンメトリーを撃ち込む。


 敵機も凄まじい反応でエネルギー弾を短剣で切り払うが、ベリアルがブレードで追撃。

 四連続の刺突を四本の腕で行う十六連撃。 

 ヨシナリにはこれを躱せる相手はラーガスト以外に心当たりはなかった。


 敵機はそれでも十二撃までは短剣と蹴りでいなしたが残りの四撃が敵機を射抜く。

 仕留めたと思いたかったが、命中の直前で上体を捻って致命傷を避ける。


 ――しぶとい。


 敵機は下がるがヨシナリはアシンメトリーを実弾のフルオート射撃、ベリアルのエーテルの弾幕で追撃。 被弾しながらも大きく距離を取った。

 行ける。 転移で躱さなかったのは座標を設定する余裕がなかったからだ。


 追いつめられていると思いたかったが、敵機はゆらりとした動きで短剣を手放す。

 落下した短剣は地面に触れる前に消滅。 悪魔のような頭部が何故か笑っているように見えた。

 いや、実際に笑っているのかもしれない。 肩が喜んでいるように小刻みに揺れる。


 「戦友よ。 奴から放たれる圧が変わった。 来るぞ!」


 ベリアルの言葉は正しく、相手もギアを上げるつもりのようだ。

 敵機の手には新しい武器が現れる。 肉厚のロングソード。

 表面に何らかの仕掛けがあるのか無数のスリットが存在し、そこからバチバチと紫電を放っている。


 「明らかに機能を麻痺させてきそうな武器だな。 鍔迫り合いは避けた方が無難か……」


 小さく呟くと同時に敵機が地面を蹴って突っ込んで来る。 

 エネルギー流動から出力が大きく上がっており、全体的なパフォーマンスが向上していると見ていい。 剣は片手で持っている。


 ――両手で握らない?


 長物は基本的に片手よりも両手で振り回す印象が強いので片手を空けているとどうしても気になってしまう。 

 ヨシナリはアシンメトリーを背にマウントし、アトルムとクルックスを抜く。

 数十メートルは離れていたが、一歩で間合いの三分の一を踏破し、二歩目でこちらの攻撃圏内に入る。


 明らかに速くなっていた。 ベリアルがブレードで斬撃を繰り出す。

 それに合わせて空いた手が何かを投げるように振るわれる。


 ――だろうと思った!


 独鈷。 以前の侵攻戦でエネミーが使ってきた武器だ。

 それが三本、手首のスナップだけで投げたとは思えない速度で飛んでくる。

 読んでいたのでアトルムとクルックスのバースト射撃で撃ち落とす。


 敵機の斬撃をベリアルのブレードが受けるが、剣の放つ紫電がエーテルを焼き尽くし、形状を崩壊させる。 


 「そんなのありかよ!」


 推進装置を全開にして全力で後退。 


 「我が刃を焼くか!」

 「打ち合いは無理だ! 距離を取るぞ!」


 推力を全開にした状態で旋回。 

 上に逃げないのはマルメル達が中枢を破壊する為に上に行ったからだ。

 この機体は全てにおいて優れてはいるが、肝心のヨシナリ達が完全に扱えていない。


 その為、操作に集中しすぎて周囲に気を配るといった真似ができないのだ。 

 要は味方を巻き込みかねないので単独でないと機能しない。 

 以上の理由から上には逃げられなかった。 


 敵機はそれを読んでいたのか先回りするような挙動で前に現れる。 

 大きな挙動で剣を縦に一閃。 ベリアルが転移が後退。

 明らかに躱させる動きだったので、ベリアルの判断は正しい。


 転移完了と同時にアトルムとクルックスをバースト射撃。

 無数の銃弾が飛ぶが、敵機の長剣が紫電を放つと銃弾が逸れてあらぬ方向へと飛んでいった。

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