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第556話 第二次防衛戦㊳

 ――何だよあの武器は。


 実弾兵器が逸らされる。 間違いなく剣が纏っている紫電の効果だろう。

 ただ、飛ばしてくる独鈷には有効なので役に立たない訳ではない。

 弾種を実弾からエネルギーに切り替えて連射。 合わせる形でベリアルがエーテルの弾幕を張る。


 あの長剣の所為で接近戦が出来なくなった。 


 ――一体どういう仕組みだ?


 理解はできる。 射程内――剣から少し離れた位置の対象に電撃を喰らわせて焼いてダメージを与え、EMPに近い効果を発揮する代物なのか近寄られるとシックスセンスもエラーを吐く。

 威力もそうだが、徹底して近寄られると不利になる能力をこれでもかと詰め込まれていた。


 とてもではないが近距離での殴り合いは無理だ。

 唯一の救いはあの電撃は自身でも制御できていない点だろうか?

 数度の攻防だが、明らかに射程内に入った物を自動的に焼いている印象を受ける。


 なら使い手である敵機はどうなのか? 

 当然ながら電撃を浴びているが、ふざけた事に電撃を吸収していた。

 それをエネルギーに変換して長剣の動力にすると中々に無駄がない。 


 敵機は長剣を一振りすると紫電が迸り、ヨシナリ達が放った弾が焼き尽くされる。


 ――ただ、完全ではないというのがせめてもの救いか。


 「戦友よ。 気付いているか?」

 「あぁ、奴の紫電の防壁。 無尽蔵という訳ではない」


 ベリアルも気付いているようだ。 範囲内の侵入者に自動的に襲い掛かる紫電。

 雷速で飛んでくる攻撃を躱すのは至難ではあるが、これまでの攻防でヨシナリ達は目立ったダメージを受けていないのは処理できる数に限界があるからだ。


 「恐らくは侵入した順番に焼いて、対象が燃え尽きたら次って感じか。 だからブレードを焼いている間、本体は無事だった」


 恐らくは一度に焼ける対象は四つか五つ。 

 内、一枠を本体が使っている状態なので、思ったほど無敵ではないのかもしれない。

 それを補う為に斬撃に乗せて紫電を伸ばす事で攻撃範囲を広げているのだろう。 


 どちらにせよあの超人的な技量の敵を仕留めるにはかなりの綱渡りが必要だ。


 ――考える時間もくれなさそうだなぁ。


 敵機は転移で間合いを詰める。 現れたのは正面から見て斜め上。

 大上段に構えて斬りかかる。 明らかに誘っている動きだ。

 ベリアルが短距離転移で後退。 下がり過ぎずに少しだけ距離を取る。


 敵機の攻撃範囲から少し離れた位置だ。 それでいい。

 離れすぎるとマルメル達の方へ行きかねないからだ。 いや、恐らくは行かないだろうが、狙う素振りを見せられるだけでこちらは対応せざるを得なくなるのでそんな状況は可能な限り避けたい。


 だから、このギリギリの位置がいい。

 アトルムとクルックスで実体弾をばら撒く。 

 当然のように逸らされるが、注目するべきはそこではない。 全て逸らされた否かだ。


 弾丸は次々と軌道を逸らされて本体に当たらない。 そう、次々と逸らされている。

 シックスセンスで観測すれば看破できる内容で、最初の数発は範囲――長剣から二、三メートルの位置で逸れるが、後続はもっと近い位置で逸れた。


 つまりは範囲に入った順番に対象を処理している事に他ならない。


 ――これで殴り合う事へのハードルは下がったか。


 この場合に最適な武器はこれしかないと判断したヨシナリはアトルムとクルックスをホルスターに戻し、背のイラを抜く。 


 「持久戦は不利だ。 次で決めに行く」


 ベリアルはただ一言「任せろ」と口にした。 

 ヨシナリも出し惜しみをして勝てる相手ではないとパンドラのリミッターを解放。

 機体の出力とエーテルの生産量が爆発的に増加する。 


 「――行くぞ」


 決着を付けるべく二人は敵機へと向かっていった。




 ――おいおい、何だよあれ。


 マルメルは下で繰り広げられている戦いに思わずそんな感想を抱く。

 ホロスコープとプセウドテイが合体しただけでも驚きだが、あの化け物のような敵機と対等以上に渡り合っている事も驚きだった。 


 元々、作戦としては例の敵機を撃破して安全を確保した上での要塞の中枢を破壊、または制圧するといった内容だった。 

 ヨシナリは他のプレイヤーの援護を期待していると口では言っていたが、作戦の内容は自分達だけで勝ちに行くつもりなのは明らかだ。


 ただ、敵の強さも理解しているので負ける可能性からは目を逸らす事は出来ない。

 そうなった場合どうするか? 足止めをしつつ中枢の破壊を狙う。

 制圧でもよさそうだが、あの敵相手に手段を選ぶなんて悠長な真似は難しいので他の選択肢を絞るべきというのはヨシナリの言だ。


 作戦は決まったが具体的にはどう動くのか? 何を以って判断するのか?

 失敗――要は勝ち目がなくなった場合、要塞の破壊に移行する。 


 想定される敗北条件はベリアルの撃破。

 彼は戦闘の要である以上、脱落は戦線の崩壊を意味する。


 その場合はヨシナリ、ポンポン、ツガル、タヂカラオの四人でひたすらに足止めに徹し、残ったメンバーで中枢を狙う事になる。

 次にメンバーの半壊。 数が半数以下になった場合、ベリアルが残っていたとしても充分な援護ができないと判断し、時間稼ぎしつつ中枢を狙う事となる。


 その時にヨシナリ、ベリアルの二人が残っていた場合は例の合体で足止めをする手筈になっていた。

 ただ、合体した機体を二人は完全に使いこなしていないのであっさりやられる可能性も高く、不確定な要素を多分に含む博打なので、本当の意味での最終手段となる。


 見ている限りでは上手くやれている感じではあるが、ヨシナリ曰く周りを見ている余裕がないので集団戦には不向きな機体との事。

 高火力、高機動と単体戦力としての完成度は大きく上がるが、それに比例して操作難度も大きく上がるようだ。 


 通信からは二人の声はほとんど聞こえない。 

 普段は独特のトークを繰り出すが、それすらほとんど出ていないのでどれだけ集中しているかが窺える。


 そうこうしている間に中枢らしき球体の近くまで来た。 

 グロウモスが即座に張り付き、中に入れないかを調べている。

 継ぎ目のような物はあちこちに見えるが、中に入れるような扉は見当たらない。


 「ハッキングは出来そうか?」


 マルメルの質問にグロウモスは無言で首を振る。

 それだけ分かれば充分だった。 


 「ぶち破るぞ!」


 判断は即座だ。 両腕のハンドレールキャノンを展開。 

 どうせぶっ壊すんだから力技で行けばいいと割り切ったからだ。

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