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第557話 第二次防衛戦㊴

 ハンドレールキャノンの弾体とグロウモスの放った高出力のレーザーは中枢の表面装甲を破壊し内部を露出させる。 


 「よし、ぶっ壊せそうだな。 このまま――」


 攻撃を継続しようとしたが中からエネルギー弾が飛んでくる。

 グロウモスを狙っていたが、マルメルが咄嗟に前に出てエネルギーフィールドを展開して防御。

 中から何かがゆっくりと現れた。 


 デザインは下にいる敵機に似通っているが、腰部、背面にエネルギーウイング。

 腰にはエネルギーブレードと手には突撃銃。 明らかに汎用性を重視した機体構成だ。


 「は、流石に壊されちゃ不味いんだろうな」

 「……でも、それだけここが大事って事」

 「違いない」


 わざわざ防衛用の戦力を配置している以上は潰しておくと困った事になるのは明らかだ。

 ならばやる事は一つだ。 この敵機を相手しながら中枢をぶっ潰す。

 マルメルはそう考えていると施設が大きく揺れる。 


 何だと周囲を見回すと隔壁のような物が閉じていく。

 この広い空間を二分割するように閉じているのでヨシナリ達の姿が徐々に見えなくなる。


 ――分断されるな。


 下に降りてヨシナリ達と分断される事を避けるという選択肢もあるが、相棒が下で必死に戦っているのだ。 自分達だけそんな甘えた事は出来ない。

 ここは目の前のこいつを叩き潰してちょっといい所を見せる所だろう。


 幸いにもこっちにはグロウモスが居る。 相手の強さ次第だが、何とかなると思いたい。

 悪魔のような顔をした敵機は四基のエネルギーウイングを噴かして加速。 

 急上昇してからの右旋回。 狙いは光学迷彩で姿を隠しているはずのグロウモスだ。


 「俺は無視かよ」


 連射して気を引こうとするが敵機は腕を翳してシールドを展開。

 マルメルの銃撃を弾きながらグロウモスへと肉薄する。 流石にマルメルを無視して狙いに来るとは思っていなかったのか、僅かに動揺したがそれも僅か。


 グロウモスはスコーピオン・アンタレスを二発、三発と撃ち込むが敵機はひらひらと機体を左右に振って回避。 無駄がない躱し方にグロウモスは僅かに不快気に鼻を鳴らす。


 「だったら無視できない奴をくれてやる!」


 ハンドレールキャノンを展開。 グロウモスに仕掛ける為に僅かに減速したタイミングを狙う。

 充分に接近し攻撃行動に入る為に僅かに減速。 ここだ。

 発射――と同時に敵機が右旋回で弾体を回避し、マルメルに腕を向ける。


 アームガンが展開し銃口が顔を覗かせて発射。 エネルギー弾が真っすぐに飛んでくる。

 マルメルは咄嗟にフィールドを展開しながら回避行動に入ったが、発射直後なのでエネルギーが足りない。 半端に張られたフィールドを貫通して左腕が完全に破壊される。


 「くっそ、マジか」


 明らかに狙っていた動きだ。 恐らく敵機の本命はマルメルだったのだろう。

 無視すればこちらに注意を向けさせる為にハンドレールキャノンを使うと読んだ上でのカウンター。

 読みが深い。 いや、違うのか?


 マルメルの脳裏に一瞬だけ、こいつは俺達の連携を知っているのかといった疑問が過ぎるがあり得ない上、他に考える事が山ほどあるので思考のリソースを割けない。

 片腕が使い物にならなくなったのは非常に不味かった。 


 ――どうにか打開の糸口を探さないと。


 グロウモスはマルメルが前衛として機能していないと判断したのか光学迷彩を落として姿を晒す。

 スコーピオン・アンタレスの銃身を排除して突撃銃として利用するようで、敵機へ向けて連射。

 中距離戦はあまり慣れていないので距離を取りながらだが、狙い自体は正確だ。


 敵機は推進装置を全開にして狙いを振り切る。 

 先回りする形で狙いを付けるが、敵機は待ってましたと言わんばかりにグロウモスに応射する振りをしてマルメルを狙う。 


 「この野郎。 徹底して俺を狙う気だな」


 両肩の散弾砲を撃ち続けて弾幕を張り、弾が切れたと同時に排除。

 敵機の狙いがマルメルである上、防御の難しいタイミングで仕掛けてきていたので少しでも機体を軽くしておきたかったのだ。


 ヨシナリに何度も言われた事だが、きついと思った相手はまず観察する所から。

 どんな相手にも隙や綻びはある。 そこから突破口を抉じ開ける事ができるならそのまま勝機に繋がると。 


 マルメルはその教えを心から信じていたので、敵機をしっかりと観察していた。

 最初に結論から言うと下にいる奴に比べれば大した事はない。 

 技量もそうだが、スペック面でも驚くほどではなかった。 


 これまでに戦ってきた相手で言うならコンシャスのようなバランス型のジェネシスフレームと同等のスペックといった所だろう。 

 装備構成も近、中、遠とどの距離でも対応できるように汎用性を持たせており、分かりやすい穴はない。 


 技量面ではランカー並みかと聞かれれば少し首を傾げたくなる。

 挙動に固さを感じるのだ。 恐らくはホーコートと似たような――そこまで考えて思い至る。

 そう、敵の挙動が例のチートを使ったホーコートにそっくりなのだ。


 本人ではないだろうが、その上位互換のチートを使ったプレイヤーといった所だろう。

 完成度という面では比べ物にならないが、動作をパターン化しているのなら勝ち目があるかもしれない。 


 「グロウモス! 気付いてるか?」

 「……動きの事?」

 「あぁ、多分ホーコートのアレと同じだろうよ」


 それだけで伝わったのかグロウモスはあぁと納得したかのような声を漏らす。


 「やっぱりなんだ。 なら、狙う所も同じでいいか」

 「試してみる価値はあるな」


 ただ、一度見せると対策される可能性が高く、マルメルの機体はダメージが割と深刻だ。

 長期戦はやってられない。 次か次の次辺りで決めるべきだろう。


 「狙ってるみたいだし囮よろしく」

 「最悪、俺が道連れにする。 タイミング、ミスんなよ!」

 「了解」


 グロウモスは再度、光学迷彩を使用して姿を消す。

 マルメルはアノマリーを連射してとにかく敵機の気を引くべく撃ちまくる。

 敵機は明らかにマルメルとグロウモスの動きを読んでいた。 


 加えて動きにテンプレートがあるのなら、決して勝てない相手ではない。


 ――さぁ、どう動く?


 グロウモスは姿を消して見えているのはマルメルだけ。 

 迷彩を看破するセンサーシステムを積んでいるのかもしれないが、現状で一番目立つのはマルメルだ。 無視するか? いや、できる訳がない。


 それを肯定するように敵機がマルメルの方へと銃口を向けた。

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