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第560話 第二次防衛戦㊷

 割り振りも上手い。 明らかにこの形態を使用する為に訓練を積んだ動きだった。

 機体が巨大化しているのは合体による嵩増しもあるが、それ以上にエーテルの鎧を大きくする事で内部に循環させるエーテルを増やしているのだ。


 戦い方も上手い。 

 基本的にヨシナリが機動、ベリアルが攻撃を担当し、互いのリソースを全て注ぎ込む事でパフォーマンスを大幅に向上させている。 


 特にベリアルが攻撃に専念できる事は大きい。 

 彼はエーテルを制御しながらあのレベルの接近戦をこなせるほどにエーテルリアクターを使いこなしているのだ。 


 つまり余計な事をしなくてよくなれば接近戦のクオリティが大幅に上がるのは分かり切っている。

 事実としてベリアルの攻撃の回転速度はSランク相手に通用するレベルだ。 

 それを可能としているのはヨシナリの機動にある。 


 キマイラでジェネシスフレームに合わせるなんて無茶な真似をしているが、その動きは凄まじくジョゼの攻撃の特性を早い段階で見切り、器用に致命傷を避けていた。

 動きに関しても全てではないが読まれている感じがする点から、こちらを観察した上で戦い方を組み立てている。 


 挙動に関しても秀逸と言えるが、センスではなく積み重ねて技量を向上させる秀才タイプだろう。

 それでこの戦いに付いて来ているのだから大したものと言える。

 武器の使い方も上手い。 ブレードの形成とヨシナリの持っている傾向武装で削りつつ、隙が出来たら二機分のエーテルを使っての大火力での砲撃。


 阿吽の呼吸と言っていいほどの息の合った戦い方で、技量、性能差を埋めた二人にはただただ素晴らしいと拍手を送りたい。 

 圧倒的な戦力差を努力と友情で埋める。 まるで少年漫画のようだ。

 素晴らしい。 そして眩しかった。 


 ――だけど――


 「それで勝てるほど世の中は甘くないんだよね?」


 ゲームといえど現実は無情で力が足りなければ負ける。 それはもうあっさりと。

 ジョゼは目の前の敵の事を気に入っており、美しい友情だとも思う。

 だからこそ現実を教えてやるべきなのだ。 


 愛や勇気、友情はリアルではあまり仕事をしてくれないのだと。

 武装の一部を解放した今のジョゼを倒すにはあの二人のスペックでは難しい。

 代償に運営は彼女をこれ以上ゲームに関わらせないだろう。


 後の事を考えると頭が痛いが、その時になってから考えればいいのだ。

 相手の眼が慣れた所で勝負――いや、ギアを上げて圧倒する。

 ジョゼは機体の出力を上げ、攻撃の回転ではなく威力を上げた。


 元々、パワーで上回っているからこそ成立した勝負なのだ。

 それが引っ繰り返されれば傾くのは当然。 射出した独鈷に割り振るエネルギー量を増やす。

 するとどうなるのか? ベリアルのエーテルブレードが捌き切れずに砕けるのだ。


 何度も見せると対策されかねないので見せるのは一度限り。 

 そしてこれで終わらせる。 ブレードを砕かれたベリアルが動揺に僅かに揺れた。

 斬撃に混ぜる形で独鈷を更に打ち込んで畳みかける。 


 ブレードを砕かれて処理速度が落ちた以上、ヨシナリがフォローに入らざるを得ない。 

 再構成の時間を稼ぐつもりのようだ。 そして攻撃を敢えてベリアルに集中し、意識を散らす。

 ヨシナリは必死に大剣で防ぐが、自身の防御が疎かになる。 


 ――さよなら。


 剣による刺突。 ベリアルはヨシナリに背負われる形になっている以上、胴体を狙えば纏めて貫ける。

 ジョゼの刺突は間違いなくヨシナリのコックピット部分を捉え、貫いた。

 もう少し粘るかとも思ったが、あっさりと刺させてくれたので若干、拍子抜けしたと思いながら剣を捻ろうとして腕を掴まれた。


 『あんまり使いたくなかったんだけどなぁ。 そっちが性能の暴力で殴りに来るならこっちにも考えがあるぞ』


 ヨシナリが何か言っていたが、この状況で何を考えていると機体にフォーカスすると内部でのエネルギーが急速に上昇している。 

 意図を察して離れようとするが腕を掴まれているので動けない。 

 離せと蹴りを入れる前にヨシナリの機体は内部のエネルギーに耐え切れずに大爆発を起こした。


 ――ちょ、噓でしょ!?


 流石にこんな所でやられてやる訳にはいかない。

 ジョゼは咄嗟に腕を自切して転移。 

 爆発の範囲からどうにか逃れるが完全に躱しきる事は出来ずに機体が高熱で焼かれる。


 凄まじい破壊力でヨシナリの機体を中心に数十メートル範囲の物が綺麗に消し飛んでいた。

 ステータスをチェックすると各所にダメージ。 防御性能も大きく落ちている。

 これを使ってこの結果はあまり褒められたものではないが、勝ちは勝ちだ。


 「ふぅ。 まぁ、こんなもの――」

 『ようやく隙を晒したな』


 ズンと機体に衝撃。 何だと視線を落とすと胸からエーテルのブレードが突き出ている。

 ベリアルだ。 エーテルの鎧は大半が剥がれ落ちており、消耗しているようだがそれには理由があった。 

 ジョゼを貫いているエーテルブレードに全てを注いだからだ。 


 万が一にも仕留め損なわないように全てを込めたブレードを精製して彼女を貫いた。

 転移直後、爆発によるダメージと様々な要因で防御性能が下がった所を狙われたのだ。


 『覚えておけ。 我が背を押し、貴様に突き立てた刃は戦友の放った物であるとな』


 内部でブレードが形状変化。 無数のニードルがジョゼの機体を内部から貫く。

 動力どころが内部の重要か所を全て破壊された。 どうにもならない。

 負けた事に苛立ちもあったが、ヨシナリが消し飛んだ跡を見て小さく息を吐く。


 ――やられたわ。


 そう呟いてジョゼの機体は爆散。 彼女は退場となった。



 残骸となった敵機を見下ろし、ベリアルは小さく息を吐く。

 何が欠けても辿り着けない結末だった。 

 魔弾の射手ヨシナリの機体は限界で、これ以上の戦闘継続は困難。 


 敵機の攻勢は凄まじく、受けに回っていては時間を浪費するだけ。 

 だから彼は後をベリアルに託し、最後の勝負に出たのだ。

 敵の挙動からまだ全開ではない事は明らかだった。 


 ジェネレーター出力が本体と同等である以上、倍近い出力が出せるのだ。

 それで拮抗しているのは相手が出力をまだ絞っている事に他ならない。

 舐めているのではなく、使いどころを見極めていると魔弾の射手ヨシナリは判断した。


 つまりはどこかのタイミングで全開にするはずだ。 

 そしてその時こそが決着の時。

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