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第561話 第二次防衛戦㊸

 敵機は仕留める瞬間に切り札として切って来る。

 そこを狙うのだ。 魔弾の射手ヨシナリは言った。

 後を頼むと。 それだけでベリアルは全てを察したのだ。


 だからあぁと頷き、完璧に役割をこなす必要があった。

 狙う時は敵機が勝負に出た瞬間。 そのタイミングでベリアルは転移を用いて離脱した。

 同時に魔弾の射手ヨシナリが敵機の刃に貫かれる。 


 彼は自らに残された最後の力を使い敵機を道連れに自爆。

 それで仕留められれば問題はないが、そうはならないとベリアルも思っていた。

 当然のように敵機は転移を用いて生き残っていたが、直後にできた隙を見逃す程ベリアルは甘くない。


 戦友が全てを賭して作ったチャンス。 

 それを最大限に活かす為にエーテルをブレードと推進装置に全振りして敵機を貫いたのだ。

 手応えもあり、刺した瞬間に撃破を確信した。 撃破が成ったがベリアルの心には少しだけ寂しい風が吹く。


 「戦友よ。 この瞬間に勝利を分かち合えないのが無念だ」


 寂しげにそう呟く。

 悲しみに耽りたい所ではあるが、そうも言っていられない。

 まだ他の仲間が上で戦っているのだ。 行かねばならなかった。



 ――オペレーターの撃墜を確認。

 それによりロックされていた要塞の機能を解放します。 

 ボランティア職員の内部侵入及び、ログインの許可。 防衛システム機動。


 プレイヤーの排除開始。



 マルメルが脱落し、残されたグロウモスだったが自分のやるべき事は頭に入っている。

 敵機が出てきた穴をスコーピオン・アンタレスで狙う。 エネルギーを充填。

 味方のステータスをチェックするとベリアル以外は全滅していた。 


 ヨシナリが居ない事が悲しかったが、きっとホームで自分の活躍を見ているだろうし、活躍して見せればきっと褒めてくれるだろう。 だから胸を張れるプレイをしようと気持ちを引き締める。

 発射。 高出力のレーザーが動力炉らしき物に命中するが中々貫通しない。


 大抵のオブジェクトは楽に貫通する威力なのだが内部に相当硬いものがあるようだ。

 だが、強度が無限という事はないだろう。 このまま照射し続けれれば――

 不意にレーダー表示に警告。 即座に反応してその場から飛びのくと銃弾が薙ぐように地面に着弾する。


 振り返るとさっき撃破した敵機と同型機が複数。 

 何処から出て来たと周囲を見回すと壁の一部が開いており、形状から棺桶のように機体を格納できるスペースらしきものが見えた。 


 それだけには留まらずに壁や天井が次々と開き、敵機が顔を覗かせる。

 不味い。 流石にこの数は一人で処理できない。 こうなったらあけた穴から中に入って――


 「待たせたなぁ!」


 不意に声が響き、敵機に向けて銃弾やエネルギー弾が飛来。 

 敵機は散開する事で躱し、その間に味方機が雪崩込むようにこの広場に入って来た。

 ヴルトム達だ。 


 「遅くなってすまねぇ。 その代わり要塞内に居たプレイヤーの大半を引っ張って来たぜ!」


 彼の言う通り、ヴルトムとその仲間だけでなく明らかに他のユニオンの物と思われる機体が居た。

 エンジェルタイプだけでなく、ジェネシスフレームも複数と時間をかけただけあってかなりの戦力だ。

 敵機の意識が雪崩込んだ敵機に向いたと判断したグロウモスはスコーピオン・アンタレスを捨てて動力炉らしきものの内部へと飛び込む。 


 この乱戦では長物は使い物にならない。 

 限られた空間である以上、狙撃手の強みは完全に活かせないなら直接叩きに行くしかなかった。

 以前に見た物よりも巨大であった事もあって気にはなっていたが、どうやら外見は外殻で中には同じものがまるで心臓のように脈打つようにエネルギーを放出し続けている。


 腰裏にマウントした拳銃を抜いて構え、撃とうとしてふととある事を思い出した。

 ヨシナリが破壊した時の話だ。 反応炉が爆発してフィールド全域が蒸発した事を。

 このまま腐食弾を喰らわせれば恐らくは破壊は出来る。 だが、そうなった場合、また爆発するのではないか? そんな疑問を抱いたのだ。 


 爆発させる事自体は割とどうでも良かった。 この要塞が消し飛ぶのは戦略的にかなり大きい。

 だが、それをやった場合、ここにいるプレイヤーは確実に全滅する。 

 加えて地上にどれだけの被害が出るのかが分からない。 


 仮に地下の施設を根こそぎ吹き飛ばしてしまえば不味い状況どころかイベントが終わってしまう。

 この要塞の位置は地上からはかなり離れた遥か上空だ。 

 戦艦に引っ張って貰って上がった事もあって、思った以上に速く辿り着いたが地上からは数百キロはある。


 ――行ける? 本当に大丈夫?


 考えれば考えるほどにどうすればいいか分からなくなる。

 グロウモスは必死に考えたが、抵抗なく引き金を引ける着地点を見いだせなかったので考え方を変えた。


 ――こんな時、ヨシナリならどうしたか?


 脳裏にイマジナリーヨシナリを作り出して問いかける。 

 自分は引き金を引くべきか否かを。 


 ――ハハッ、何の問題もないよハニー。 仮にあったとしても俺が君を守るサ!


 行けるかもしれない。 だが、待てと指が止まる。

 ちょっと自分に都合のいい回答だったような気がしたからだ。

 何故ならヨシナリはイエスマンではない。 


 もうちょっとこう、丸い感じで肯定してくれるような、角が立たないようにアドバイスをくれるような……。

 もう一度イマジナリーヨシナリを脳裏に精製。 同じ質問をする。

 撃っても大丈夫なのだろうか、と。


 ――分からなければ仲間に相談しましょう。 個人戦ではなく俺達はチームなんです。 分からない事は一人で抱えずに皆で悩みましょう。


 「うん。 そうだよね」


 グロウモスは通信を広域――要は範囲内に居る全てのプレイヤーに聞こえるように切り替える。


 「は、反応炉らしき物を見つけた! これから破壊するけどた、多分、凄い爆発が起こる! ま、巻き込む事になると思う! ご、ごめん!」


 つっかえながらではあるが、いうべき事は言えたのではないだろうか?

 やる事は変わらないので後は引き金を引くだけなのだが、可能であれば肯定的な返事が聞きたかった。

 引き金を引く指を軽くしてくれる何かが欲しかったのだ。


 『こっちは気にすんな! やっちまえ! 巻き込まれたくない奴は逃げろ逃げろ逃げろ!』


 真っ先に反応したのはヴルトムだ。 

 それに追従するように撃て、やってしまえ、気にするなと声が響く。

 一部は横取りしようと接近する機体、巻き込まれたくないと離脱する機体、通信からは止めろ待てと言う声もあったが、わざわざここまで突入する者達だ。 覚悟ができている者が大半だった。

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