それを見透かしたのかカナタは苦笑。
「あなたの戦いを何度か見させて貰いました。 得意距離は中距離戦で、ここ最近は終始安定した立ち回り。 特に間合いの取り方が素晴らしいと感じました」
嘘ではなかった。 カナタは自分からユウヤを奪ったヨシナリを嫌っているが、だからと言って正当な強化ができないほどでもなかったのだ。
事実として彼女は『星座盤』のメンバーを非常に高く評価していた。
当初はそうでもなかったが、気が付けば中距離戦のエキスパートと言えるほどのプレイヤーとなったマルメル。 彼に関してはセンドウも高く評価しているのは得意距離が違うからだろう。
カナタの評価高いのもそこに起因しており、後ろをしっかりと守ってくれる中衛はチーム戦を戦う上で高いレベルが求められる。
少なくともカナタの見立てではマルメルはその水準を充分に満たしていると感じていたのだ。
そもそも『星座盤』のメンバー全員の総合力が異様に高い。
明らかに同ランクの水準で収まるレベルではないからだ。
「だから、そういった戦力以外の面であなたを勧誘したのではないという事だけは知っていてほしいんです。 ――まぁ、気にならないと言ったら嘘になりますが」
そう言ってカナタは小さく笑って見せた。
アバターの造形が整っている事もあって絶妙に感情を揺さぶって来る。
それを見てマルメルはなるほどと納得した。 アバターとはいえ美人に微笑みかけられて嬉しくない男はそういないだろうが、ユウヤが絡んで正気を失っている彼女を何度か見た事もあってそちらは余り響かなかった。
――まぁ、いいか。
ただ、戦力として当てにしているという点に偽りがなさそうだったのでそこは納得できたのだ。
「分かりました。 何処までやれるか分かりませんが、頑張らせて貰います」
「はい、よろしくお願いします」
――うーん、それにしてもユウヤが絡まないと本当にまともだなぁ。
少なくとも今のカナタからは嫌な感じは一切しない。
強いのは知っているので組む分には何の問題もないのでラッキーとさえ思えるが、残りはどうするのだろうか?
マルメルは自分はどう動けばいいかを脳裏でシミュレート。
カナタは接近戦がメインのプレイヤーではあるが、攻撃範囲が広い事もあって下手に近寄ると巻き込まれかねない。 『栄光』のメンバーがカナタとそれ以外で綺麗に分かれて戦っていたのはその所為だ。
つまり他のメンバーは足止めを意識しつつ可能であれば撃破を狙う形で立ち回ればカナタが敵機を次々と片付けてくれるので戦い方としては確立されていた。
ただ、この戦い方の問題はカナタが勝つという前提があって初めて成り立つものだ。
つまり、カナタより強い相手と遭遇した場合、高い確率で破綻する。
だからこそ、ヨシナリはカナタを潰したいのなら囲むのが最適解だと言っていた。
当人も自覚はしているが矯正する事にあまり積極的ではない印象を受ける。
理由としては選択した相手がマルメルにまんまるだったからだ。
恐らくは中、遠距離が得意なプレイヤーで固めそうだなと何となく予感していた。
マルメルの視線の先でカナタがウインドウを操作。
「返事が来ました。 残りのメンバーが決まりそうです。 顔合わせをしたいので移動しましょう」
「うっす」
そう返事し、早足になったカナタの背中を追った。
――いやぁ、俺ってもしかして予知能力か何かに目覚めたのかもしれないなぁ。
カナタが集めたメンバーが集まったのだが、見事にマルメルの予想通りの面子だった。
リーダーにカナタ。 マルメルにまんまる、そして追加で勧誘したのが――
「ど、どうもエーデっていいます。 よろしく」
Aランクのプレイヤー『エーデ』砲戦仕様の高火力機だ。
少年のような姿のアバターだが、声が高いので性別が分からない。
そしてもう一人なのだが――凄いのが来たとマルメルは軽く引いた。
装飾過多と言えるレベルにリボンやらが付いたドレスに人形のような顔立ち。
ゴスロリというのだろうか? 白と黒の極端なカラーリングが目を引く。
黙って会釈するだけで一切喋らない。 フォーカスするとプレイヤーネームとランクが表示される。
アリス、Aランクプレイヤーだ。 何か名前に見覚えあるなと記憶を掘り返すとすぐに思い当たった。
『烏合衆』のメンバーでユニオン対抗戦の際にグロウモスを消し飛ばした奴だ。
光学兵器主体の中~長距離戦が得意なプレイヤーだったとマルメルは記憶していた。
「皆さん。 今回は集まってくれてありがとうございます。 このメンバーで優勝を目指していこうと思うので頑張りましょう!」
こうして顔合わせが終わったのだが――
「いや、滅茶苦茶不安だ」
「そりゃ大変だったな」
場所は変わって『星座盤』のユニオンホーム。
どっと疲れた体を引きずって戻って見るとヨシナリが居たのでイベントの話を振ったのだ。
マルメルとしては余り親しい相手の居ないメンバーに混ざっての戦闘なので何ともやり辛い。
「まぁ、やれる事をやるだけなんだけどな。 悪いけど俺はしばらくあっちに顔出すからイベント終わるまではユニオン戦とかはあんまり付き合えないかもしれん」
イベントは一週間後なのでその間に五人で連携訓練を行うといった形になる。
「ってかお前、俺にメンバー漏らしていいのかよ」
「カナタが別にいいってさ。 目立つ面子が揃ってるから隠すだけ無駄だって。 そんな事より、そっちはどうなんだよ。 ポンポンと組むんだろ?」
「あぁ、ツェツィーリエさん経由か」
察したヨシナリはそう言ってまぁなと頷く。
「後はツガルさんとで三人だ。 本当はタヂカラオさんも誘いたかったんだけど、微妙に移籍の制限に引っかかって入れられなかったんだよ。 だから残りの二人は探し中だ」
「なんだ、揃ってないのか?」
ヨシナリの事だから早々に揃えている物かとも思ったがそうでもなかったようだ。
「バランス的に遠距離と近距離に強い前衛と後衛が一枚ずつ欲しいんだけどなぁ。 声はかけてるけど返事待ちって感じだな」
確かにとマルメルはヨシナリ達のスタイルを考えると前後を任せられる相手が欲しいだろう。
「タヂカラオさんが来れたんなら開き直って足の速い面子で固めるって感じもできたんだけど二枠余ってるからちょっと色々と考えてしまうんだよ」
「なるほど。 そっちはそっちで大変だな。 そういやウチのメンバーは誰がイベントに参加するんだ?」