――俺は何故、こんな所にいるのだろうか?
場所は「栄光」のユニオンホームの一室。
マルメルは促されるまま席に着くと視線を前へ向ける。
そこに居たのはここに呼び出したセンドウとカナタ。
そして何故か「豹変」のツェツィーリエが隣にいる。
意味が分からない。 俺は何か失礼な事でもしたんだろうか?
学校で教師に呼び出されたような謎の緊張感で胃が痛くなりそうだ。
「急な呼び出しに応えてくれてありがとうございます! 早速だけど本題に入りたいんだけど大丈夫ですか?」
カナタは威圧しないように意識しているのか軽い口調でそんな事を言って小さく笑って見せる。
アバターの造詣が整っているだけあって少し照れてしまう。
「ど、どもっす。 えっと、俺で良かったんですかね? ヨシナリじゃなくて……」
ヨシナリという名前を出した瞬間、カナタから表情が消えた。
――ひぇ!?
それだけでヨシナリという名前が地雷ワードという事が分かり、マルメルは取り繕うように何でもありませんと首を振る。
ユウヤだけじゃなかったのかよと思いながら話をどうぞと先を促す。
「マルメルさん。 連絡して来たって事は次のイベントに参加するって事でいいんですよね?」
「はい、まぁ、そんな感じです」
「縛りについては知ってる?」
「はい、同じユニオンのメンバー不可って奴ですよね」
お陰でメンバーを集める事のハードルがかなり上がっている。
マルメルとしてはヨシナリと組んで勝ち上がりたいと思っていたので、不快な縛りだった。
「こっちとしても身内と組めないから困ってた所なのよ。 私達『栄光』としては『星座盤』のメンバーをスカウトしたいと思ってるの。 正直、こっちから声をかけるつもりだったから連絡してきたのはありがたかったわ」
「私が居るのもそういう事。 『栄光』『豹変』で人を出し合って残りの枠を他で埋める方針で行こうと思っているのよ」
カナタの隣にいたツェツィーリエがそう言って小さく肩を竦める。
マルメルはようやく彼女達の意図が分かった。 『栄光』『豹変』で埋められる枠は二つ。
残りの三枠を他所のユニオンからの引き抜きで埋めようとしているのだ。
「私とツェツィーリエでそれぞれ一つのチームを率いるつもりでいるわ。 それでマルメルさんにはどちらかに来てほしいと思ってるんだけどどうですか?」
「俺にどっちかのチームに入れって事ですかね」
カナタは頷いて見せる。
「ちなみに決まってるメンバーはどんな感じですかね?」
「私のチームは私と『豹変』からまんまるさんを借りるわ」
前衛のカナタと砲戦のまんまる。 これでマルメルが加われば中衛が加わるのでバランスは良い。
「こっちは私とセンドウの二人」
こちらも遠近を抑えている。 要は二人は安定感のある中衛が欲しいのがよく分かった。
「私としてはあのポンポンって子が欲しかったんだけど?」
「しょうがないじゃない。 あの子、早々に相手を見つけてそっちと組むって言ってどっか行っちゃったんだし」
話の内容からポンポンが誰を誘ったのか察していたが、マルメルとしては地雷を踏む気はないのでスルーした。
「あー、これはどっちに入るか俺が選べって感じですかね」
「嫌なら断ってもらってもいいけど、私達には優秀な中衛が必要なんです。 お願いできませんか?」
断り辛い言い方だ。 マルメルは迷う。
どちらのチームに入るべきか。 全員の実力をある程度知っている身としてはかなり判断が難しい。
総合力的には似たような感じになるからだ。
判断基準はカナタとツェツィーリエの二人と自分のスタイルがどの程度相性が良いか。
自分という歯車はどちらとより良く噛み合うのかだ。
まずはカナタ。 近接機だが、自己完結型のアタッカーというのはヨシナリの評価だ。
攻撃範囲の広い実体剣にエネルギーブレードを出し入れする事で間合いを自在に操る。
その為、味方の援護はややノイズになりかねない。 連携を取る分には少し難しい相手だ。
彼女の強みを活かす為には射程の長い相手を抑えて、数を減らすまで時間を稼ぐ立ち回りが求められるだろう。
ツェツィーリエは回転の早い近接機。
機動で攪乱しつつ手数で圧倒するタイプなので、動きの傾向としてはベリアルに近い。
経験を活かすという意味ではツェツィーリエと組む方が仕事ができるような気がする。
加えてセンドウが居るのでバランスもいい。 得意距離が綺麗に分かれている点も好印象だ。
残りのメンバー次第だが、こちらの方がやり易そうだった。
選ぶならこちらかとも思ったが、悩んでいる事には理由がある。
ここ最近、少し伸び悩んでいる事もあったので、成長する為には同じ事ばかりしていては駄目ではないのかといった考えが頭にあったからだ。
違う事をしないと新しい伸びしろを見つけられない。
――なら決まりだな。
「ならカナタさんの方でお世話になってもいいっすか」
「ありがとう。 歓迎します」
それを見てツェツィーリエは小さく肩を竦める。
「ちなみに決め手は何だったのかしら?」
「ぶっちゃけ、ツェツィーリエさんと組んだ方が楽そうだったんですけど、楽な相手とばかり組んでも俺自身の成長に繋がらないかなって思って。 すんません」
「なるほど。 あなたの成長に期待しているわ?」
ツェツィーリエは小さく笑うと「他を当たるわ」とその場から消失した。
エリアを移動したようだ。
「さて、私達も行きましょうか」
カナタが歩き出したのでマルメルはその後に続く。
「えーっと、残りのメンバーはどうする感じですか?」
「心当たりがあれば検討しますけど?」
「当てはないんでそっちはお任せしますけど、何で俺だったんですか?」
質問に質問で返すのはあまり良くないがわざわざ自分を選んだ事が気になった。
カナタはかなり顔が広い印象があるので、自分以上の中衛なんていくらでも揃えられるだろう。
質問こそしたが、理由に関しては少し心当たりがあった。
マルメルを通してユウヤの様子を探ろうと考えているのかもしれない。
仮にそうであったなら腑には落ちるが、かなり萎える事になるだろう。 カナタは苦笑。
「考えている事は分かりますよ。 気になるのは確かですが、純粋にあなたの戦績と技量から欲しいと思ったからです」
――本当かよ。
我ながら卑屈な考えだとは思ってしまうが、どうもカナタは住んでいる世界が違う印象を受けるのでそんな考えに至ってしまうのだ。