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第565話 イベント制限戦Ⅱ①

 「ふぃー。 おつかれ、おつかれー」


 マルメルはそう言ってチームメイトを労う。 

 ついさっきユニオン戦で配信中のよく分からない連中を仕留めた所だった。


 ――配信中の場合、分かるようになってるって事もあってなんか嫌なんだよなぁ……。


 そんな事を考えていると他のメンバーは各々散って行った。

 ヨシナリはここ最近、ランク戦に力を入れており、それと並行して個人技の向上に努めているようだ。

 最近どうよ?と尋ねたらそんな事を言っていた。 明らかにAランクを視野に入れた動きだ。


 このまま行くと元々、Aランクのメンバー以外では最初にジェネシスフレームを手に入れそうだった。

 ふわわ、シニフィエは未だにログインしていない。 

 流石に少し間が空いているので心配していたのだが、ヨシナリはそうでもないようで気にならないのかと尋ねたら「修行中らしいから気の済むまでやらせておけばいい」との事。


 ――戻ってきたら更に強くなってるんだろうなぁ。


 ただでさえ強いのにこれ以上強くなって帰ってくるのかと考えると気が重くなる。

 仲間が強くなる分には良い事なのだろうが、おいていかれかねないと思っている事もあってマルメルとしては内心複雑だ。 


 ホーコートもここ最近は思う所があるのか、自主練とランク戦に力を入れているらしくあまりホームに寄り付かなくなっていた。 

 ユウヤも前に負けた事が気になっているのかあまり顔を見せない。 

 話によると前の対抗戦で負けた事が相当堪えたのか、こちらも個人技の向上に力を入れているようだ。


 ベリアルは何をしているのか不明だが、強くなる為に色々とやっているらしい。


 ――俺もなんかやらねぇとなぁ……。


 ランク戦の勝率は良い感じに上がってきている事もあって少し自信は付いてきたのだが、ユニオンメンバーのストイックさを見てしまうと自分はまだまだだと思ってしまう。

 うーんと悩むと不意に鳴き声が聞こえる。 


 ちらりと視線を向けるとアルフレッドが尻尾を振りながら寄って来た。


 「うりうりー、お前は人懐っこい奴だなぁ」


 引っ繰り返した後、腹をわしゃわしゃとくすぐるように撫でる。

 最近、アバター状態にできるようになったらしく、すっかりホームのマスコットだ。

 手触りも本物の犬とそこまで変わらないので柔らかい腹を撫でていると気持ちも落ち着いてくる。


 アニマルセラピーって効果があるんだなぁと思いながら、気が済んだマルメルはありがとうと頭を軽く撫でてアルフレッドをクッションの上に戻す。 

 次のイベントは恐らくサーバー対抗戦。 


 前回のフランス戦はあまりいい所を見せられなかった事もあって少し活躍したいなと思ってしまう。


 ――ただ、恐らくなんだよなぁ……。


 ヨシナリ曰く、スケジュール調整の為に小さなイベントを挟むかもしれないとの事もあるので、予想外の事が起こるかもしれないと気が抜けない。 マルメルはどうした物かと考える。 


 現状、今の自分をどう強化していくのかがあまり見えていないのだ。

 マルメルの得意距離は中距離だが、それ以外になると脆さが出る。

 その為、立ち回りとしては自分の得意距離を維持する事にある。 


 だからこそ徹底してそこを鍛えてきたつもりだ。 

 手数の多さで圧をかけつつ自分のペースを維持して敵の頭を抑え、隙が出来た所でハンドレールキャノンで一発。 それがマルメルの基本的な戦い方の組み立てだ。


 悪くはない。 事実としてランク戦ではしっかりと通用している。

 機体も武装もヨシナリがくれた物を中心で細かく弄って自分なりの強化を繰り返しているつもりだ。

 それでも他の進化スピードに置いていかれるのではないかといった不安があった。


 「はぁ、ランク戦でもやるか」


 悩んだ時は実戦で足りないものを見つけていくしかない。

 マルメルはそう考えてランク戦に潜ろうとしたのだが、メッセージの通知音が響く。

 何だと手を止めて確認すると運営から新しいイベントの告知だ。


 早いなと思いながら開くとイベントの詳細が記されていた。

 制限戦。 タイトルを見てマルメルはまたかよとアバターの中で表情を歪める。

 前の時はランダムでチームメンバーを決められる変則的な内容だったのだが、マルメルとしては初見の相手とうまく連携を取る自信がなかったのでセンドウと組めたのは比較的幸運だったと言えた。


 ――まぁ、負けたけどな。


 当然ながら参加一択なので読み進めると――おやと視線が止まる。

 メンバーは選べるようだ。 

 それを見てラッキーと思いながら、ヨシナリと優勝を目指そうと考えているとその先に付け加えられた条件を見て思わず声が漏れる。 


 チームの定員は合計で五名。 足りない場合はランダムで補充される。

 要は参加すると絶対に五人になるように調整されるようになっているようだ。

 ただ、チームメイトにできる条件が問題だった。 


 同ユニオン所属のプレイヤーは不可とされている。 

 加えて一時的に抜けて組むというズルも許されないようで、抜けて他所に移った場合――具体的には半年以内に移動があったプレイヤーは移動前後両方のユニオンメンバーと組む事が出来ない訳だ。


 最悪だった。 ヨシナリを仲間にできない事が決定したからだ。


 「これ難しいぞ」


 実際、かなり難しいイベントだった。 最初のメンバー集めの時点でハードルが高い。

 誰でもいいならそのまま参加ボタンだけ押せばいいが、そうでないなら強いメンバーに声をかけなければならなかった。 


 ――それか声がかかるのを待つかだが……。


 ヨシナリやふわわならともかく自分に声がかかるという場面があまり想像できなかったので何処かに売り込みに行かなければならない。


 「ってか急いだ方がいいな」


 早くしないといい物件は取られてしまう。 他のユニオンで強いプレイヤー。

 何人か浮かぶが、連絡を取り合うほどの仲の相手が居ない。

 ぱっと思い浮かんだのはセンドウだ。 前にも組んだし、そこまで嫌われていないと思う――はず。


 「よし、ダメ元で誘ってみよう」


 そう考えてメッセージを送ると――


 「え? 早!? もう返事来たんだけど」


 レスポンス早いなと思いながらメッセージを確認すると『栄光』のユニオンホームまで来いと書かれていた。

 詳細も返事もなし、ただ来いの一言のみ。 しかも今すぐ。


 「あ、圧がやべぇな。 ――行った方がいいよなぁ……」


 何か怖かったが自分から声をかけた手前、行かない訳にはいかなかったので選択肢はなかった。

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