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第575話 イベント制限戦Ⅱ⑪

 スコア稼ぎはそこまで難しくなかった。

 上空に上がって敵を誘き寄せ、釣れた連中を狩ればいい。

 カナタが敵を引っ張り、残りのメンバーで仕留める。 その繰り返しだ。


 「……作業感が半端ないな」


 マルメルはそう呟いてスコアを確認する。 

 あのカミキリムシのような見た目のエネミーは一機撃墜するとスコアが100手に入るようだ。

 検証したが、致命打を与えたプレイヤーに付与される。


 ちらりと見るとチームの累計スコアが10000になったので切りのいい数字となった。

 周囲を見ると撃破した敵機の残骸だらけだ。 まさに死屍累々といった有様となっている。


 「ふぅ、切りもいいので少し休憩しましょうか! 損傷などがあれば早めに申告をお願いします」


 カナタも似たような事を考えていたのか休憩を提案したので、誰も異論を挟まずに休憩となった。

 マルメルはその間に機体のチェック。 機体そのものには問題はない。

 ただ、実体弾の残りが心許なくなってきた。 


 アノマリーも突撃銃もエネルギー弾との撃ち分けができるので使い物にならなくなるという訳ではないが、弾がなくなると少し不安になる。

 まんまるは基本的に実弾兵器はほとんどないので、ダメージさえなければ問題はない。


 エーデも内部にミサイルの生産工場を抱えているので、こちらも問題なし。

 アリスも光学兵器しか積んでいないので必要なのは精々、銃身の冷却程度だろう。

 被弾もほぼないので戦闘継続には何の問題もない。


 これだけ戦ったのだ。 

 カミキリムシに関してはほぼ情報は出揃い、脅威度はそこまで高くないと思いがちだが迎撃エリアに侵入した機体に応じての出撃という事もあってカナタとまんまるだけで入ると二機しか出てこない。


 後はそれを全員で袋叩きにすればいいのだが、安全である反面、効率が非常に悪かった。

 一度に二機、つまり一回の戦闘で獲得できるスコアはたったの200。

 どの程度稼げば状況に変化が起こるのかは不明だが、もっと効率良く稼げる手段を考えるべきだ。


 ――こんな時、ヨシナリの奴ならどうするんだろうか?


 この場に居ない親友の事を考える。 

 あいつはこういうコツコツやるタイプの作業は苦にならないっぽいしずっとやってるかもしれないな。

 いや、組んでる奴がそれについていけなければやり方を変えるか。


 何かないだろうかと考えていたのだが、不意にカナタとエーデが周囲を警戒し始めていた。


 「やっぱり来ましたか?」

 「うん。 派手にやってたからね。 多分だけど、一緒にやろうって感じじゃない」


 カナタは小さく溜息を吐き、エーデはやや呆れが混ざったような様子だ。

 アリスは何かを察したのか戦闘態勢。 そこまで見てようやくマルメルにも察しが付いた。

 どうやら他のプレイヤーが近くに来ているのだ。 エーデだけがキャッチしたという事は身を隠しながら忍び寄っていると見ていい。


 「エーデさん。 説明を」

 「うん。 皆、聞いてくれないか? 他のチームが北から接近中だ。 数は三機だから、支援機がこっちの探知範囲外にいる。 狙撃か砲撃を警戒。 一応、その三機は捉えているから先制攻撃は出来るけどどうする?」

 「隠れながら近寄ってきている時点で敵と判断します。 先に仕掛けましょう。 エーデさん、まんまるさんは他の敵に対しての警戒を。 アリスさん、マルメルさんは二人が狙い易いように散って敵の釣り出しをお願いします。 私はあの三機を撃破――難しいなら抑えに徹します」


 カナタは素早く指示を出すと自分は単騎で突出。

 アリスも移動を始めており、マルメルも慌てて動き出しながら考える。

 残りの敵はどこにいるのだろうかと。 最初に思いついたのは壁の向こうだ。


 どうもあの壁はレーダーやセンサー系の探知を阻む機能があるのか、アレを挟んだ先はかなり近寄らないと見え辛い。 狙撃機よりも砲戦機体を壁の向こうに配置してミサイルなら砲弾なりを叩きこむ方が安全に攻撃できそうだった。 ただ、こちらから見えない以上、向こうからは見えないはずだ。


 ならそれを成立させる為にはどうすればいいか? 観測役、または観測用のドローンが必要になる。


 ――観測用ドローン?


 そこまで考えてそういえばグロウモスが使っていたなと思い出したからだ。

 まさかなと思ったが、嫌な予感がしてセンサー系の感度を最大にして空を探知。

 居ませんように祈りながら見ていると――居た。


 見た事のないタイプのドローンだ。 

 周囲の風景に溶け込んでいるように見えるのは鏡のような装甲に覆われているからだろう。

 なんだありゃと思った時間も僅か。 こちらも似たような代物に覚えがあった。


 サーバー対抗戦でフランスが使っていた反射兵器だ。 


 ――これ、こっちを狙えるんじゃね?


 「狙撃! ドローンで反射させるつもりだ!」


 気が付けばマルメルは叫びながら機体を加速させていた。 

 僅かに遅れて壁の向こうからレーザーが飛び、ドローンを反射してエーデに向けて飛ぶ。

 咄嗟にマルメルは射線に割り込んでエネルギーフィールドを最大展開。


 レーザーはフィールドに阻まれて拡散。 


 「く、フランスサーバーが使ってた奴か!?」


 エーデは即座に後退しながら発射地点に当たりを付けてミサイルをばら撒く。

 咄嗟に敵機の狙いを看破したのは半分以上は勘だったが、それにより相手が誰なのかが分かった。

 何故なら動いた理由は彼女ならどこを狙うかで考えたからだ。 


 「グロウモスか。 また厄介なのと出くわしたな。 カナタさん! 相手は――」

 「聞こえてた! グロウモスさんなら相手のリーダーはツェツィーリエだと思う」


 それを聞いてなるほどと納得した。 

 恐らくカナタとツェツィーリエはマルメルとグロウモスを勧誘しており、マルメルが来なかった残りが彼女を誘う形になっていたのだろう。 


 だとしたらこちらにまんまるが居るように向こうにも「栄光」のメンバーが居るはずだ。


 「他の面子に心当たりは!?」

 「もう一人はセンドウさん」


 マルメルの質問にカナタは即答。

 最悪だった。 この状況であのステルス装備のセンドウが居るのは不味い。

 シックスセンス持ちが居ない以上、捉えるのは非常に困難だ。 


 ――これ、ヤバいんじゃねぇか?


 そんな感想が思わず零れた。

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