『なによこれ……』
カナタが思わずといった様子で呟くのを聞いたマルメルはなんだかヤバそうだとレーダーに表示されている彼女の反応を注視。 雲に入ったので目視ができないのだ。
「何があったんですか?」
『見れば分かります』
雲から巨大な光の刃が突き出る。 カナタの大剣だ。
どうやら雲を吹き払うようだ。 エネルギーブレードが分厚い雲を切り裂き文字通り天を割る。
それにより空が見渡せるようになったのだが――
そこに広がっていたのはマルメルの理解を越えた光景だった。
雲の先に広がっていたのは空ではなく、巨大な鉄の塊。
等間隔で巨大な照明機器のような物が光を放っている。 日光と思っていた光はどうやらアレのようだ。
距離の所為で見えないがカナタにははっきりと見えているようで驚いているのが分かる。
鉄の塊――恐らくはこの惑星自体を覆っているのだろうそれのあちこちが光ると何かが出てくる気配。
これは考えるまでもない。 エネミーだ。
「取り敢えず収穫はありました! 戻ってきてください!」
距離があり過ぎるので援護ができないからだ。
『分かりました。 一度、戻ります!』
カナタの機体が後退している間にも敵機は次々と出撃して来る。
どうも近づくと次々に出て来るようでまるで蜂の巣を突いたような有様だった。
エネミーが射程内に入ったと同時にアリスが高出力のレーザーでカナタを追いかけていたエネミーの一部を焼き払う。
減った所をまんまるとエーデが砲撃を繰り返し、カナタに近づく機体をマルメルが弾をばら撒いて追い払う。
敵の勢いが落ちた所でカナタが巨大なエネルギーブレードを展開し、一閃。
近寄ってきていた大半のエネミーを薙ぎ払う。
カナタが大部分を薙ぎ払った事もあってマルメル達はその撃ち漏らしを片付けるだけでいいのだから後は楽なものだった。
「取り敢えずですが、分かった事がいくつかあります」
敵を全滅させた後、カナタが開口一番そう切り出した。
間近で見たのは彼女だけなのだ。 空を覆っている何かについて一番詳しいのは彼女と言っていい。
「まずあれは見た限りですが空全体を覆っています」
「それは俺らも見てました。 日光の代わりに照明機器で地上を照らしているのも見えてたので、完全に天井って感じっすね」
少なくともマルメルの第一印象は天井だった。
「そんなに間違ってはいないと思いますけど、正確にはあれは蓋ですね」
「蓋?」
「はい、隙間なく空を覆っているように見えましたが近づくと隙間が見えるんですよ。 それで、その隙間から無数の惑星みたいなものがたくさん見えました」
――どういう事だ?
まさかとは思うがあの天井を抜けて宇宙まで行けって事か?
「あぁ、だから他のプレイヤーとそんなに出くわさないんだね」
納得したように呟いたのはエーデだ。
よく分からなかったので続きを促すように視線を向けるとエーデは小さく頷いて見せる。
「要するにこんな感じの惑星がたくさんあって、参加者はあちこちに散らばる形で配置されてるんだよ。 だから、数十万単位で参加しているはずのプレイヤーを見かけないって訳だよ」
戦闘の音が遠くで響いている以上、全くいないと言う訳ではないのだろうがそう多くはないのかもしれない。
「遺跡って話だったのに妙な事になってるなぁ。 どうします? 調べるんなら上なんでしょうけど、この面子だと厳しくないですか?」
カナタの言う「蓋」は雲の上だ。 マルメルの機体では行けるかかなり微妙な高度だった。
追加装甲や余計な荷物を下ろせば行けなくはないだろうが、敵の巣に入る前に武器を捨ててどうするんだと言う話だ。
マルメルの見立てではこの中で戦闘しながら上に上がれるのはカナタとまんまるぐらいなものだろう。
エーデ、アリスは明らかに地上戦闘に特化したタイプの機体なので何かしらの飛行手段を手に入れないと難しい。
「僕としては行かないに一票。 手掛かりが見つかって前のめりになるのは良いけど、強襲なのに後衛がほぼ参加できないのは論外だよ」
「わ、私も様子を見た方がいいと思いますぅ……」
あまり喋らないまんまるまで難色を示している事もあり、カナタは思案顔だ。
「分かりました。 上に仕掛けるのはなしにしますが、これからどうしましょうか?」
上に行かないのなら他を探さなければならない。
ならどうするのかという話になる。 全員が沈黙した所でアリスが小さく手を上げた。
「意見、いいかしら?」
「はい、アリスさんどうぞ」
「最初から少し気になってた事があったのだけれど。 皆、スコアについてどう思う?」
スコア? マルメルは一瞬、何のことだと思ったが、ややあってそういえばあったなと思い出す。
確かこのイベントのルールの一つで撃破した敵に応じて付与される数値だ。
マルメルの認識ではこのイベントの賞金の目安――要は引き際を見極める為の指針程度と思っていた。
このイベントは制限時間がない代わりにいつでも離脱する事ができる。
撃破された際に獲得したスコアの半分が没収される事もあって、適当に稼いだら早々に抜けてしまうのも選択肢としては有りという事でもあった。
「ウインドウを操作したら分かるんだけど、確認する事ができる」
マルメルも試しにとやって見ると確かに自分のスコアが確認できたのだがそこでおや?となる。
何故なら自分の獲得スコアだけでなく、チームの獲得スコアも表示されていたからだ。
「これがどうかしたんですか?」
「ICpwの運営ってあんまり無駄な事はしない。 だからこれにも意味があると思う」
それを聞いてカナタは思案顔になり、ややあって何かを思いついた殻のように顔を上げる
「もしかしてチームの総獲得スコアが何か意味があると?」
「試してみる価値はあると思わない? 仮に意味がなかったとしてもスコア獲得は報酬額を増やす事にも繋がるから無意味にはならない」
なるほどとマルメルは感心してしまう。
確かにわざわざスコアを可視化している時点で何か意味があると言う事か。
「そういう事でしたらこれからスコア稼ぎをしてみましょう!」
マルメルも賛成しつつルールの説明を思い返して少しだけ嫌な予感がした。
何故なら記憶が正しければ撃破したプレイヤーもスコアになるはずだからだ。
しかもスコアを溜め込んでいる奴ほど高いとわざわざ明記されていた。
――これはまさかとは思うが潰し合いを推奨してるのか?