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第573話 イベント制限戦Ⅱ⑨

 「――エネミーの出現条件は壁より上に機体が上がった時、出現エネミーは基本的にあのカミキリムシ、数は上がった数と同数って所ですかね」


 破壊されつくした街に無数のエネミーとトルーパーの残骸。 

 ヨシナリは小さく溜息を吐いた。 


 「街はもうちょっと調べたかったから壊すのは少し待って欲しかったんですけどね?」


 振り返ると巨大な機体が更地になった場所に着陸していた。


 「がっはっは、すまんすまん!」


 カカラのサガルマータだ。 火力が欲しかったので誘ったのだが、二つ返事で了解してくれた。

 単体戦力としては非常に強力なのだが、連携面での不安がある。

 ついでに我の強さも懸念の一つだったが、連携訓練にも積極的に参加してくれたのはヨシナリとしては嬉しい誤算だった。


 ただ、調べ物にはあまり向いていないなと内心で苦笑。 

 最初に出て来たカミキリムシの群れを撃退する為に派手にミサイルをばら撒いた結果、街が廃墟から瓦礫の山になってしまったのだ。 そしてその後に襲ってきたプレイヤーを撃退して跡形もなくなった。


 「おーい! こっちも終わったぞ。 しっかしなんもねぇな」


 偵察を終えて戻って来たツガルが小さく嘆息する。 


 「後の二人は?」

 「もうちょっと見て来るってんで俺だけ戻って来た」

 「血の気多いなぁ」


 明らかに他の敵機との遭遇を期待しての偵察続行だろう。


 「そこは勘弁してやれよ。 乗り換えてご機嫌なんだろ」


 ポンポンは少し前にジェネシスフレームに乗り換えたばかりなので、色々と試したいのだろう。

 新しい機体に興奮する気持ちは分からなくもないのでヨシナリとしても強く言うつもりはなかった。


 「――で? 何か分かったか?」

 「いいえさっぱり。 間に挟むイベント戦にしてはボリュームあり過ぎでしょって感想ぐらいですかね」


 派手に壊れた事もあって開き直って地下を探すべくあちこち攫ったのだがこれといった収穫はなかった。

 やった事といえば戦闘ばかりだ。 エネミーやスコア狙いのプレイヤー達が数グループ。

 一人残らず返り討ちにしたが、肝心の宝については現状、よく分かっていない。


 「そもそも、その宝とやらがどんな物かも分かってないのでもうちょっと情報が欲しい所ではありますね」

 「だなぁ、いくつかの区画を見て回ったが、大体こことそんなに変わらない構造に見えたぞ」

 「特別な用途に使ってそうな施設もなかったですか? 工場とか、建物の様式的に神殿的な物とか」

 「いや、さっぱりだな。 俺が見落とした可能性はあると思うが、どれも似たような建物ばっかりだったぞ」


 ヨシナリはふむと考える。 まずはこの独特な地形。

 壁に囲まれた街が連なっており、形状は綺麗な六角形でそれが敷き詰められたようになっているようだ。 形状に関しては非常に気にはなるが、今のところは何とも言えない。


 時間無制限というだけあって簡単には発見できないようにはなっているのは理解できるが、もう少し手加減をしてほしいものだと思いながらヨシナリは小さく息を吐く。


 「こうなると上から見た方が早いかもしれませんね」

 「あー、俯瞰するって事か?」

 「明らかに意図がある区切り方なので上から見れば何か分かるかもしれません」


 早い段階で思いついてはいたのだが――ヨシナリは空を仰ぐ。

 分厚い雲で覆われた空とその隙間から差し込む光。 

 そしてエネミーが湧いてきたのはその雲の向こうだ。 


 何か得られる可能性は高いが、露骨すぎて非常に怪しい。

 これまでの傾向から安易なクリアを運営は望まないだろう。 


 「少なくとも簡単に見せてはくれないって事は分かってますよ」

 「どうする? 偵察なら俺が行って来るぞ。 それともポンポン達が戻るまで待つか?」


 ツガルの機体ならラーガストレベルの相手でもない限り逃げるだけならどうにでもなるだろう。

 ただ、それにより釣り出された敵を処理できるのかは――考えてカカラを見る。


 ――何とかなるか。


 「ん? 戦闘か? いつでも行けるぞ!」


 カカラは頼もしい事にやる気満々だ。 


 「一応、報告だけはしておきます」


 後で何か言われても困るのでこういった事はしっかりしておくべきだ。


 「あー、ポンポンさん? 聞こえますかー」

 『聞こえるゾ! どうした? 何かトラブルか?』


 通信回線を開くと応答は即座だ。  


 「いえ、大した事じゃないんですけど、そっちは何か収穫ありました?」

 『いや、なーんもないナ。 マジでただの廃墟って感じだ』

 「こっちも収穫なしでして、流石に暇になって来たのでちょっと蜂の巣を突いてみようと思いまして」

 『ははーん。 読めたゾ。 上を調べるんだナ?』


 彼女は非常に察しがいいのでこういった場合は本当に話が早い。


 「はい、ツガルさんが先行して雲の向こうを確認します。 何か釣れたらそのまま引っ張って俺とカカラさんを含めた三人で仕留めようかと思ってます。 どうします? 戻ってる途中とかだったら待ちますけど――」

 『あー、こっちは二区画先だ。 ちょっとかかる。 下手に高度を取ると雑魚が湧くからここは面倒だナ』


 ヨシナリは少し悩む。 待つのも有りだが、時間をあまり無駄にしたくない。


 「ならこうしましょう。 ポンポンさん達はそのまま戻ってきてください。 俺達は先に仕掛けているので手に追えなさそうだったらそっちに逃げて全員で対処するってのでどうですか?」

 『分かった。 油断するんじゃねーゾ!』

 「それは勿論」


 ヨシナリは通信を切った後、ツガルに頷いて見せる。


 「っしゃぁ! ちょっと行って来るぜ!」


 ツガルの機体が天を貫くように雲へと飛んでいく。 

 ヨシナリはその様子を眺めながら高度を上げ、カカラが轟音を立てながら離陸。

 何かあれば即座に助けに入れるように徐々に高度を上げつつ武器を構える。


 ツガルの機体が雲を突き破って中へ。 あのスピードなら敵機の迎撃は間に合わない。

 問題なく突っ切れるだろう。 


 「ツガルさん。 どうです?」

 『今の所は何も見えねえ。 そろそろ雲を抜けるから何か見えるとしたら――』


 不意にツガルの言葉が途切れる。 


 「ツガルさん? どうしました?」

 『あ、あぁ、大丈夫ではあるが、とんでもない事になってるぞ』

 「とんでもない事?」


 ヨシナリが詳しくと先を促すが、ツガルは言葉に詰まったように何も言わない。


 『悪い、俺の語彙力じゃこれは説明できねぇわ』


 ヨシナリはカカラと顔を見合わせる。


 「……俺達も行きますか」

 「うむ。 まずは雲を抜けるとしよう」


 ヨシナリはポンポン達にも上がるように連絡を入れた後、雲に向けて加速した。

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