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第572話 イベント制限戦Ⅱ⑧

 『ならベリアルはどう?』


 突然、通信に割り込んだハスキーな声にマルメルは思わず沈黙。

 え? 誰? と思ったが、ややあってアリスの声だと察した。


 『悪いけど話、聞いてた。 あんたのお友達が仲間を大事にする奴で一緒に成長しようって考えてるのは分かる。 置いていかずに歩き出すまで待ってくれるから安心できるんでしょ?』


 それを聞いてマルメルは何かが腑に落ちたような気がした。


 「確かに。 そうかもしれないっすね」

 『なら、ベリアルやユウヤはどうなの? あいつらは手を引かれなくても待たなくても自分の足で立ち上がれるし歩けるでしょ? 何があの二人を「星座盤」に執着させるの?』


 そう尋ねられてマルメルは沈黙。 答え難いと言うよりはどう説明すればいいのかが難しいのだ。


 「あの二人とはあんまり話さないから正確な所はよく分かないっすけど、ベリアルははっきりしてますよ。 ――ほら、あいつってあんな感じじゃないですか」


 具体性のない表現ではあるが『あんな感じ』でその場にいた全員が察した。

 あの濃すぎるキャラクターに関しては彼との戦闘経験がある者は忘れようがないだろう。


 「ヨシナリはそれにマジで付き合ってるんですよ」

 『……それはあのバカみたいな喋りに真面目に受け答えしてるって事?』

 「それ以上ですよ。 完全に合わせています」


 ひゅっと息を呑む気配。 アリスの口から洩れたようだ。


 『冗談でしょ? アレをやってるの?』

 「冗談じゃありません。 マジであのレベルの会話を本気でやってます」

 『理解したくないけど、よく分かったわ。 あんたの友達、本当に凄いね』

 「俺もそう思います。 ところどころ意味は分かるんで何を言ってんのか会話の流れぐらいは理解できるんですけど、時々マジで何言ってんのか分かんないので俺には真似できませんね」


 タヂカラオも少し言っていたが、あのレベルの会話を照れも笑いも混ぜずに真剣にこなすのは非常に難しい。 少なくともマルメルには真似できない。


 『そうやって飼いならしたのね』

 「うーん。 飼いならすっていうのはちょっと違う気はするけど、そんな感じっすね」


 凄まじい会話だが、ヨシナリはあまり苦にしている様子はなかったので飼いならす為にやっているという風には見えなかったのだ。

 特にここ最近は良くも悪くも染まり切っていたのでマルメルとしては付いていけないと言うのが本音だった。


 『ならユウヤは?』


 マルメルは反射的に答えそうになって僅かに沈黙。 

 カナタが居る前でユウヤの話をするのはあまり気が進まなかったからだ。

 下手な事を言ってユウヤと『星座盤』の関係が拗れるような事になるのは不味い。


 マルメルが余計な事を言った所為で面倒な事になればヨシナリにも迷惑がかかるので、詳しく言うのは憚られたのだ。

 だからと言って答えないのは感じが悪い。 


 「――あー、詳しい事はちょっと分かんないっすね。 最初のユニオン対抗戦で組んでから付き合いはあったみたいなんで、なんか波長的な物が合ったんじゃないですか?」

 『そう、ありがとう。 参考になった』

 「そりゃよかった」


 結果、当たり障りのない内容となってしまった。 アリスは特に追求しなかった。

 深追いは危険と判断されたのかは不明だが、食い下がって来なくて良かったと内心でほっと胸をなでおろす。


 話をしながらあれこれと調べていたのだが、これと言って新しい発見はなかった。

 ただ、変化はあって、あちこちから断続的に戦闘の物と思われる衝撃が大地を微かに震わせ、爆発音らしきものも聞こえてくる。


 明らかに両者が高威力の武装を使用しているので血の気が多い連中が早速始めたようだ。


 『ど、どうしようか? 一応、この区画には敵はいないみたいだけど、調べても何も出てこないのならエネミーかプレイヤーが居る所に行った方がいいんじゃないかな?』


 エーデの言う通り、このまま手探りでこの区画を調べるかスコア目当てに他を潰しに行くか。

 方針は決めるべきだろう。 この集まりのリーダーはカナタだ。

 音頭を取るのは彼女の役目だとこの場の全員が判断したのか、待つように沈黙。


 『……まずは私の意見から。 まだ状況に不透明な部分が多いのでなるべく慎重に動きたいと思います』

 「えーっと戦闘を避けるって感じですかね?」

 『はい、押し付ける気はないので皆さんの意見を聞かせて貰ってもいいですか?』


 カナタ個人の意見としては戦闘には消極的だが、他の意見次第で変えると言っているに等しい。


 「俺も様子見でいいと思います。 現状、補給もままならない状態ですし、最低でも補給と整備ができるらしい拠点とやらを発見するまでは調査に徹するべきかと」

 『わ、私も同じ意見ですぅ。 ダメージの回復手段がないのは怖いので拠点を見つけるべきだと思いますぅ』

 『あ、僕の番? 後衛担当としても戦闘を避けるのには賛成だね。 弾は精製機能があるとはいえ、いくらでも撃ちまくれる訳じゃないし、損傷次第では使い物にならなくなるリスクも大きい』


 まんまる、エーデはマルメルの意見に同調するかのように戦闘は避けるべきだと主張。

 最後のアリスに意識が集まるが、彼女は小さく肩を竦めて見せる。


 『全体の方針には従う。 ただ、さっきのエネミーの追加が湧かない事が気になるからあの壁は調べた方がいいかもしれない』


 それだけ言って沈黙。 


 『分かりました。 では、もう少しだけこの近辺を調べたら、壁に向かいましょう』



 結局、区画の中心から建物を片端から調べたが、これと言って収穫はなし。

 その間にも戦闘は継続されてはいたが、こちらには何も現れず、エネミーもまた同様だった。


 「小一時間はここにいるのに一切出てこないって事はあの壁に近づくか登るかで湧いてくる可能性が高そうですね」 


 タイミング的にもその可能性は高い。 


 『それか一定以上の高度を取るっていうのも可能性としてはあると思います』


 カナタは上に視線を向けた後、エネルギーウイングを噴かして急上昇。


 『一先ず一人で上がります。 何かあったら援護を!』


 さっさと動くカナタにマルメルは思わず隣のアリスの方へ視線を向けると彼女はやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 どちらにせよ、相手からの反応を引き出すには思い切った方法が必要だ。

 これで出て来るのなら任意でエネミーを呼び出す事が可能になるが――

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