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第571話 イベント制限戦Ⅱ⑦

 マルメルは何と言っていいか分からずに曖昧に頷く事しかできなかった。

 エーデのチームとは『星座盤』は過去二回ぶつかっている。

 一度目はマルメルは居らず、ラーガストとユウヤが片付けたという話だ。


 これに関しては相手が悪いとしか言いようがない。 

 二回目はまだ記憶に新しい、ユニオン対抗戦の予選だ。

 他のユニオンと徒党を組んで襲ってきたのだが、ベリアルの奇襲によって全滅。


 こちらに関してもマルメルは前線にこそいたがエーデ達ははるか後方だった事もあって戦闘に関与しておらずコメントがし辛かった。  


 「あー、もうちょっと具体的にお願いしてもいいっすか? 立ち回りの話なのか、それとも連携とかの話とかですかね?」


 そう言いながら慎重に屈んで建物の中を覗き込む。

 建物を崩さずに中を見るの面倒くさいな。 いっそぶっ壊して地下道か何かがないか調べるか?


 「うん、どっちもかな。 負けた理由は分かってるけどどうやれば勝てたのかが上手く言えないんだ。 負けて落ち込む皆にどう声をかけたらいいのかも分からなくて、さ」

 「なるほど。 何か大変そうっすね。 っつてもウチのリーダーはヨシナリだからあいつが何をしてるかって話になりますけどそれでもいいっすか?」

 「あぁ! それを聞いて君がどう感じたのかも教えてくれると嬉しいな!」



 『そっすね。 まずはどこから話しましょうか……』


 通信はユニオンメンバー間で共有されるので他のメンバーの耳にも入っていた。

 カナタはマルメルとエーデの声にそっと耳を澄ませる。

 マルメルにそんなつもりはないといった手前、自分から尋ねるような真似はできず、こうして聞く事しかできなかった。


 ユウヤの事は勿論、気にはなる。 

 あの頑なな幼馴染が素直にヨシナリの言う事を聞いている事実が理解できない上、認めたくないといった気持ちもあったが、拒んだ所で現実は変わらない。


 だから、情報を集めなければならない。 


 ――それに――


 ユニオン対抗戦で負けた事もある。 

 『星座盤』に勝つ為の秘訣のような物があるのなら大いに参考になるはずだ。

 ユウヤとベリアルが居た事を差し引いても総合力では『栄光』が上だった。


 ――にも関わらず敗北。 


 あの後、一人で映像を見返したのだが、細かい要因は分かる。

 だからと言って引っ繰り返される程の差があったのだろうか? 

 いっそラーガストのような圧倒的な戦力が居たのなら納得もできたのだが、彼等は二回戦では三軍とはいえ『思金神』すらも打ち破ったのだ。


 ユウヤを取り込んだ手段とは別にあそこまで勝ち上がった力の秘密には大いに興味があった。


 『ヨシナリってトレーニング狂いなんですよ』

 『それは特訓ばっかりしてるって事?』

 『まぁ、そんな感じっすかね。 あいつの持論なんですけど「できる事を増やしていけば自然と強くなる」ってのがありまして。 それを実践する為なのか、覚えたい動きがあったらトレーニングルームでずっとやってるんですよ。 二挺拳銃での立ち回りとか変形からのアタックモーションとか最初の方は何回も墜落したりミスりまくってましたけど、気が付いたらほぼ必中ですよ』


 マルメル曰く、ヨシナリの強さの秘訣は出来るまでやる事。 

 簡単そうに聞こえるが難しい事ではあるだろう。 少なくともカナタには今一つ理解できなかった。

 何故なら効率が悪いからだ。 


 できないのならそれは不向きなだけなので、向いている物に注力した方が無駄も少ない。

 少なくともカナタの操縦技能、戦闘技術はそうやって培われてきた。

 自分に合った動きを探し、それを組み合わせる事で自らの才覚を最大限に活かすバトルスタイルを確立する。 それこそが彼女をAランクまで押し上げた要因といえた。


 長所を伸ばし、短所は補う程度にとどめる。 伸び代が少ないから短所なのだ。

 そんな割に合わない物を育てるよりは簡単に伸ばせる長所をどこまでも伸ばせばいい。

 自信に繋がるし、自分にはこれがあるとメンタルを補強する事もできるのだ。


 それは他人にも同じ事が言える。 

 やる気のある者は自然と残るし、そうでない者は自然と離れていく。

 だから彼女は真剣に打ち込む者を真剣に応援するが、そうでない者には一切の期待はしない。


 彼女の基準に照らし合わせればユウヤは文句なしに後者だ。

 本来なら早々に自分の人生に不要と切り捨てるだけの存在。 

 だが、カナタも人間だ。 これまでの付き合いでの情もあり、ユウヤの両親からも頼まれている。


 だからこそ彼女なりに真剣にユウヤの面倒を見て来たのだが、何一つ上手くいかなかった。

 皮肉な事に彼女自身の掲げる「効率」がユウヤの存在と致命的に噛み合わないのだ。

 有益なものだけで周囲を固めて来た彼女が自らの主義に反した存在を傍に置き続けている以上、こうなる事は目に見えていたとも言える。 


 何故なら彼女は結果を出せる保証のある簡単な問題にしか手を出さず、面倒な物は切り捨てていたのでこういった場合にどうすればいいのかの経験が絶望的に足りていないのだ。 


 ――ユウヤが言う事を聞くまで根気よく付き合えって事?


 だから彼女はヨシナリの思考が理解できない。 共感できない。

 そして意味が分からない。 無駄な事をやっているとしか感じないのだ。


 『それはユニオン戦とかでも同じで、あいつってユニオン内でいっつも模擬戦やりたがるんですよ。 で、終わったら絶対に感想戦をするんです』

 『へぇ、自分達の動きを指摘し合う感じ?』

 『そうなんですよ。 あいつ、何だかんだいって面倒見が良いから練習の時も付き合ってくれるし、一緒に悩んでくれるから連んでて面白いんですよね』

 『いい友達だね』 

 『マジでそう思ってます。 だから、そんなダチの足を引っ張るのは嫌なんでこのゲームを頑張ろうって気持ちになるんっすよ。 なんつーか、あいつは色々言って来るけど強制とかはしてこないから最終的には自分で考えろって言うんです。 で、アドバイスに関しても鵜呑みせずに試行錯誤して自分なりの答えを出してアップデートしていく感じですかね』


 エーデは感心したように声を漏らす。


 『それ全員にやってるの?』

 『俺の見た感じではそうですね。 全員にやってますよ』

 『はは、なるほど。 これは敵わない訳だ』


 エーデは納得したようだが、カナタにはよく分からなかった。

 いや、欠片も分からないという事はない。 

 全員と向き合って問題の解決、改善を図っているのだろう。


 そこは理解できるが、カナタからすれば無駄が多く、受け入れるのが難しいやり方でもあった。

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