五機がカナタへ残りが後衛へと襲い掛かる。
明らかにカナタが軸のフォーメーションだと理解している動きだ。
――また、有人操作か?
そんな嫌な予感が脳裏を掠めたが、これまでに散々見て来た所為がだんだんと見極めがついてきた。
上手くは言えないが動きに固さのような物が見えるのだ。
純粋なエネミーであるなら挙動にパターンがあるはずなのでそこを見極めれば撃破のハードルは大きく下がる。
――ってヨシナリが言ってた。
「やり難い地形だなぁ!」
エーデは着地と同時に後退しながらミサイルをばら撒く。
エネミーは縫うように躱して掻い潜ろうとするが、瞬く間に二機が撃ち抜かれた。
アリスだ。 遠距離からの砲戦が得意な印象を受けたが、出力を絞る事でレーザーを連射できるようにしているらしく、しっかりと当てている。
「手前に落としますぅ」
まんまるが再度、プラズマキャノンを発射。 敵機の手前でプラズマの榴弾が爆ぜる。
エネミーは左右に散って回避。
――ここだな。
右に二機来たのでアノマリーを実弾で連射しながら両肩の散弾砲を発射。
散弾砲で一機が穴だらけになって大破。 残りの一機は無理な体勢で躱した所をアノマリーで仕留めた。 これで四つ。
こっちに来たのは残り一機、片付けたらカナタの方へ――
動こうとしていたマルメルだったが、残りの一機はアリスがあっさりと撃ち抜く。
残りの五機に関しては既にカナタが四機片付けており、最後の一機がちょうど大剣に両断されている所だった。
「はっや、もう片付けてるよ」
敵機を全滅させた後もカナタは警戒を解かない。
「エーデさん。 索敵!」
「もうやってるよ。 今のところは反応はない。 でも、ステルスとかの看破はあまり得意じゃないから過信はしないで」
「次、全員、損害報告! 私はダメージなし」
カナタの有無を言わさない確認作業にまんまるはノーダメージですぅと即答。
エーデ、マルメルもダメージなしと自己申告し、アリスは無言で頷く。
「取り敢えず、壁の近くは危なさそうですね。 少し離れましょう」
移動しながらカナタは周囲を警戒しつつ都市の中央を目指す。
「一先ず整理しましょう。 まずはここの地形について。 感じた事を教えてください」
「か、壁に囲まれた区画で分けている感じに見えましたぁ」
「僕はちらっとしか見てないから何とも言えないけど、見えてる範囲が全部あんな感じだったね」
「街並みが広がってる事しか見えなかったっすけど、切り分けて同じ感じにしてるのか、区画ごとに役割が違うのかは気になったっす」
まんまる、エーデは見たままの感想。 マルメルも疑問だけ。
じっくりと観察した訳ではないので判断材料を得る為にも情報を集めるべきだ。
「私も似たような感じですね。 次にエネミーに関してですけど、そこまで怖い相手ではないという印象でした」
確かにとマルメルも思い返すが、そこまで怖い印象はなかった。
前回の有人エネミーや要塞内に居たあの化け物が比較対象なので自然と軽く見てしまう。
「旋回性能はともかく、エンジェルタイプほどの加速はなさそうなので捉えるのは難しくないと思いますぅ」
「防衛イベントの時に出て来た蟻型よりちょっと強いぐらいじゃないかな? 多分、無人のエネミーだからだと思うけど、動きも見切り易かったから追い込むのも楽だったよ。 ただ、数で来られると厄介かな?」
アリスは無言で何も言わないが、同意と言わんばかりに何度も頷く。
マルメルも概ね同意見だった。 基本的に小型のエネミーは数で押し潰すというのがコンセプトなのか、単体ではそこまで怖い相手ではない。
少なくとも一対一ならそう簡単には負けないだろう。
「今の所、共有しておく情報はこんな感じかな? はい、ではこれからなんですけど、イベントのコンセプトに合わせて宝探しをしましょう」
「この街の調査って事でいいのかな?」
「はい、エーデさんを中心に円を描く形にフォーメーションを変えます。 範囲はエーデさんがカバーできるエリアで」
「なら僕は見張りって事か。 五百ぐらいまでならすぐに援護に入れると思う。 ただ、それ以上になるとちょっと遅れるって事は頭に入れといてくれよ」
マルメルも異論はなかったので分かりましたと頷く。
時間に制限がないとはいえ、プレイヤー自身のリアルとの兼ね合いがあるので無駄に時間をかける訳にも行かない。
状況を進める為に能動的に動くべきだ。
――っていうのは分かるんだけど何を見つければいいんだ?
マルメルは周囲を警戒しつつ廃墟の街を探索する。
視線を建物に向けると似た形状の家屋が連っており、アパートか何かかなと窓らしき物から内部を覗き込むと家具らしきものが見えた。 明らかに生活の痕跡が色濃く残っている。
「随分と細かく作り込んでるなぁ」
このゲームは通常対戦やランク戦のマップは汎用ではあるが、イベントのフィールドはかなり気合の入った造りだ。
二回の防衛戦に侵攻戦を見ればそれは明らかで、侵攻戦に至っては惑星が丸ごと作戦エリアというぶっ飛んだ広さだった。 見慣れたお陰で驚きは少ないがよくよく考えればかなり凄い事だ。
「えーっとマルメル君。 ちょっといいかな?」
「あぁ、エーデさんっすか。 どうかしましたか?」
あれこれと調べるとエーデが声をかけて来た。
「や、大した用じゃないんだ。 ただ、黙って待っているのもしんどくてさ、ちょっと話し相手になってくれないかな?」
「……まぁ、いいっすけど……」
いきなりお話ししましょうと言われてもぱっと話題が出てくる訳ではないので相手のアクション待ちになる。
「君って『星座盤』の人なんだよね」
「まぁ、そっすよ」
「よ、良かったら方針的な物を教えてくれないかな。 僕もユニオンを率いてるんだけどイベントであんまり成績出せてなくてさ。 こう、コツみたいなのがあればなーって思うんだ」
それを聞いてマルメルあぁと納得した。
エーデは個人としてはAランクプレイヤーとしての地位を確立しており、上手くは行っているがユニオン運営となると話が変わって来る。
「そうなんですか? 結構大きい所って認識っすけど」
「や、まぁ、人数は結構いるけど、あんまりイベントでいい成績出せてないからちょっと落ち込んでる子も多くて……」
エーデは前の時も君達にやられちゃったしと付け加えた。