――カナタは小さな頃から大抵の事はできた。
勉強、スポーツは勿論、このゲームもそうだ。 周囲は彼女を天才と持て囃した。
彼女自身も自分が優れた人間であるという自覚はあり、この能力を適切に運用すればこの先の人生、小さな失敗はあっても致命的な失敗は避けられるだろう。
そんな事を考えていた。
さて、天才、優れていると字面を並べてもどう優れているのかは今一つ分からない。
ならばカナタを優れていると自他に認識させている能力は何か?
――それは取捨選択だ。
彼女は直感的に自分にできる事、できない事が分かるのだ。
運動に関しては自分に合ったトレーニング、勉強であるなら自分に最適な学習法。
そしてICpwに於いては自分に最も適した機体と戦い方。
人間関係にもそれは当て嵌まり、こちらに関しては自覚はないが彼女は無意識に自身に対して有用で都合のいい人間ばかりを集めていた。
彼女の眼と感覚は非常に優れており、早い段階で有用かそうでないかが分かるのだ。
そうして増やした人間の集まり、それがユニオン『栄光』の正体。
だから戦い方も自然とカナタの強みを最大に活かせる彼女をトップとし、周囲がそれを支える形として成立し、徐々に完成していった。
彼女の才はあらゆる分野に通用し、正しく神に愛された能力と言える。
戦闘に於いてもそれは遺憾なく発揮されていた。
ツェツィーリエの蹴りを余裕を持って躱し、ウィルの独特な軌道を描く斬撃を機体を左右に振って最小の動きで捌く。
二対一なので大剣は分割して二刀に切り替え、攻撃はコンパクトに。
隙を可能な限り少なくし、相手の焦りを引き出す。
ツェツィーリエは振れ幅が小さいが、ウィルは成果が出ないと焦る傾向にあるので露骨に躱すと徐々に当てる為に前のめりになる。
ユウヤ辺りであるなら煽って焦りを引き出すのだが、カナタはそこまでする必要はない。
連携訓練をしてきているのは向こうも同じようで、ウィルの攻撃を縫うようにツェツィーリエが前に出るので互いの長所を上手に活かせていると言える。
だけどそれだけだった。 カナタからすれば穴が多く、付け入る隙は充分に存在する。
原因は練度不足もあるが、それ以上に互いが相手を仕留めるつもりで攻めている事が大きい。
互いに干渉しないだけで繋がっていないのだ。
――あの二人に比べると――
思い出したのはユウヤとベリアルの連携だった。
ユウヤは敢えて大きな動きで攻撃を仕掛け、そこに付け入ろうとするカナタをベリアルが狙う。
そしてベリアルに意識を割かれた所を狙いユウヤが仕掛けるといった互いの隙を補完するような完成度の高い連携。
アレに比べれば質という点では大きく劣る。
目の前にいる二人の連携の穴は見えるのにユウヤの心だけは何故か見えなかった。
ウィルのエネルギーウイップが飛んで来たタイミングで剣を突き出して絡め取らせる。
ウィルがこれ幸いと片腕を拘束しようとした所で思いっきり引く。
それによりエネルギーの帯がピンと張る。
「っ!?」
ツェツィーリエがたたらを踏むように急停止。
何故ならそのまま蹴り込んでいたら足が落ちていたからだ。
鞭という形状でエネルギー属性を持っているそれは触れれば容易く切断される。
つまり、目の前で張ってやれば行動を制限できるのだ。
空いた腕でツェツィーリエに刺突。 彼女は回避の為に後退するのに合わせてカナタも下がる。
それにより互いの距離が開き、エーデとまんまるの援護射撃が次々に飛ぶ。
前を塞ぐようにミサイルとプラズマキャノンが飛ぶ事でツェツィーリエはカナタに近づく事が出来ずに離れざるを得ない。
ウィルはせめて剣だけでもどうにかしようとカナタの手から奪い取ろうとしていたが、軽量機である彼女の機体よりカナタの機体の方がパワーでは上だ。
柄で連結して持ち手を広げ、両手でしっかりと握って綱引きに持ち込む。
ウィルは諦めて拘束を解除――したと同時にその機体に風穴が開いた。
これは計算に入っていなかったのでカナタも目を見開く。
飛んで来た方を見るとハンドレールキャノンを構えたマルメルの姿が見える。
どうやら狙っていたようだ。 こうなるとツェツィーリエには勝ち目がない。
諦めて撤退しようとする素振りを見せたが、薙ぎ払うようなレーザーが彼女機体を両断。
「――っ!?」
何かを言おうとしたツェツィーリエだったが、喋る間もなく機体は爆散。
脱落となった。
「ふいー、お疲れっす」
「あの距離で当てられるなんて大したものね」
互いを労いながらアリスとマルメルが近づいてくる。
カナタは想定していない動きに少しだけ面白くないと思いながらも結果が出ている以上はここは褒める所だろうとにこやかに迎える。
「助かりました。 お二人ともお見事です」
その間にエーデとまんまるが索敵を行い、安全を確認。
「どもっす。 いやぁ、行けるタイミングだったんで狙わせて貰いました」
「完全に動きが止まってたし、狙うにはいいタイミングだったね」
便乗してツェツィーリエを仕留めたアリスがマルメルを肘で小突く。
「さて、肝心のスコアっすけど――うわ、27500だって、さっきのカミキリ二百七十体分かよ。 凄まじいな」
「端数は元々持ってたスコアって所かな? 基本の値がA10000、グロウモスはDで良かった? スコアから見て3000って所かしら?」
「Aとそれ以下の格差酷いっすね」
数値で考えるなら
Aは10000、Bは5000から7000。
Dが3000という事を考えればCは4000~6000といった所だろうか?
カミキリムシが100なのでプレイヤーを狩った方がスコア的な意味では効率が段違いだ。
さっき仕留めたチームはツェツィーリエ、ウィル、ケイロン、センドウがAランクなのでそれだけで40000。 グロウモスが3000なので基本数値だけで合計で43000のスコアが手に入った事になる。
それに彼女達が溜め込んだスコアの一部が加算された事であっという間に100000近くのスコアが入った事になる。
スコアで状況が変わるのなら何か出ると思うのだが――
カナタはウインドウを操作するとスコアの項目の下にメニューが増えていた。
調べるとメンテナンス施設の位置、施設内で利用できる項目が表示されている。
「――ってか、メンテナンス施設とやらの場所近いな」
現在地からなら数分で行ける距離だ。
「消耗もありますし直ぐに向かいましょう!」
カナタはさっきまで引き摺っていた胸中の靄を強引にしまい込み、全員に声をかけた。