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第580話 イベント制限戦Ⅱ⑯

 アリスはグロウモスを完全に無視してレーザーを発射。 

 プラズマの榴弾で足が止まったセンドウはもう、撃たれる前に撃つ以外の選択肢がない。


 ――が、彼女の銃は精密射撃に特化しているだけあって、正面からの撃ち合いには絶望的に不向きだった。


 二つの銃口が光を放つ。 

 センドウの一撃はアリスのコックピット部分の手前でエネルギーフィールドに阻まれて霧散。

 そしてアリスの一撃はセンドウを一撃で焼き払った。 


 そのまま着地し、ジェネレーター出力を砲に回す。

 彼女の機体『ホワイト・アリース』は砲戦機体だ。 

 特徴的な巨大な足は内部にジェネレーターを内蔵しており、脚部のフロートシステムの維持にも使われており、背面、胴体のメインジェネレータと共に稼働する事で凄まじいスタミナを発揮する。


 そのまま砲身を壁へと向ける。 フロートシステムを切って着地。

 アウトリガーを展開。 センドウを仕留めたのを見た以上、グロウモスは簡単に尻尾を出さない。

 ならどうする? 炙り出す? それもいい。


 普段ならきっとそうしていた。 だが、チームメイトの熱に当てられたようだ。

 本気を見せたくなってしまった。 脚部に内蔵されたアウトリガーを展開。

 滅多に使わないので対戦経験が多いプレイヤーでも存在を知っている者は少ない。


 機体を固定。 大口径レーザーキャノン『ジャバウォック』

 それが彼女の持つ魔獣の銘だった。 四つのジェネレータからの供給を受けてのレーザー。

 砲身を切り離す事で内蔵された束ねた銃口を露出させる事によるエネルギー弾を吐き出すガトリング砲と二つの顔を持つ強力な兵装ではある。


 ――だが、この魔獣には真の姿が存在する。


 砲身が大きく展開。 ジェネレータのエネルギーが根こそぎ持っていかれる。 

 四つの大型ジェネレータから吐き出されるエネルギーの全てを喰らって放たれる魔獣の咆哮。

 発射に時間がかかる事もあって個人戦ではまず使えないロマン兵器だ。


 Aランク以上のプレイヤーはあの過酷な環境を生き残る為に合理性を求められる。

 アリスも例に漏れず自らを強化、最適化を何度も行ってきた。

 だが、これだけは手放せなかったのだ。 碌に使えないこの機能を残していたのは――


 ――これで決めたら最高に気持ちいでしょう?


 そんなつまらない理由だった。 だが、それを貫くには助けが必要だ。

 アリスのジェネレーター出力が跳ね上がった事と高エネルギー反応に気付いているはず。

 当然ながら許すはずがない。 ドローンを介しての狙撃が飛んでくる。


 武装に全てのエネルギーを注ぎ込んだ彼女に防御手段はないが、彼女は何となく信じていた。


 「来ると思ったぜ!」


 マルメルが射線上に割り込んでアリスへの一撃を身を挺して守る。

 推進装置が片方しか残っていないにも関わらず、彼は的確にグロウモスの狙撃ポイントに飛び込み、パージした強化装甲の一部を再装着してエネルギーフィールドを全力展開。

 フィールドを貫通して肩が吹き飛んだが無傷で守り切った。


 ――仲間の存在を。 


 間接的な射撃だったとしてもドローンを狙うのは本体だ。 

 大雑把だが、居場所は割れた。 

 発射の気配を悟ったマルメルが射線上から飛びのいたと同時にアリスは引き金を引く。


 僅かに遅れてレーザーと括るには太く長い、そして暴力的な光が放たれた。

 明らかにトルーパーが単体で出せる火力の域を逸脱したそれは強固な壁を蒸発させ、その先に居るグロウモスの機体すらも呑み込んだ。


 それだけでは飽き足らず射線上の全てを等しく蒸発させ、光が収束し消え去った時には壁に巨大な円形の穴が刻まれ、遥か彼方にあるもう一枚の壁も同様にぽっかりと口を開けていた。



 流石にアリスの放った一撃は誰も彼もが無視できない。

 その凄まじい破壊の爪跡にぽかんと口を開ける事しかできなかった。

 強力な分、代償も大きいようでアリスの機体は脱力し、機体の各所から排熱しているのか空気が噴き出す音が響く。


 「カナタ、あなた知ってたの?」

 「私も初めて見たわ」


 ツェツィーリエの質問にカナタも驚きを隠せていないようだ。

 反応から本当に知らなかったのは明らかだが、状況は非常に不味い。

 センドウ、グロウモス、ケイロンがやられた。 


 メンバー的に完封も可能な面子だったのだが、蓋を開ければ敵の損耗はゼロ。

 完全に失敗だったと言わざるを得ない。 特にケイロンがやられたのは完全に想定外だ。

 隣のウィルは「どうする?」と視線で問いかける。 


 損切りをするならここは撤退した方がいい。 

 アリスはしばらく動けなさそうだが、マルメルに後衛の二人も健在だ。 明らかに分が悪い。 


 「ウィル、あなたはどうしたい? 私、宝は諦めたわ」

 「……はぁ、分かった付き合うよ」


 ウィルもこの状況ではイベントクリアは難しいと判断したのだろう。 

 だからせめてカナタを潰して勝負には勝っておきたい。 二人とも気持ちは同じだった。

 カナタはそれを正確に汲み取り、大剣を二刀に分離させて構える。


 ウィルの鞭のようなブレードがカナタに襲い掛かり、その隙間を縫うようにツェツィーリエが肉薄。

 訓練期間は一週間ほどではあるが連携はそこそこ形になってきていた。

 この状況で注意する事はいくつかある。 まずは間合い。


 カナタから離れすぎてはならない。 理由は後衛の存在。

 密着していれば援護が難しいので余り撃って来なくなる。 

 まんまるもエーデも精密射撃は不得手なので、カナタを巻き込むような攻撃は難しい。


 懸念であるアリスは数十秒は復帰できなさそうだ。 

 マルメルもいるが、アリスが動けない以上は彼女を守る為に傍を離れられない。

 つまり、近距離戦闘を続けている限りは二対一の構図を作る事ができる。


 カナタは確かに強いとツェツィーリエは思っていた。 

 近~中距離戦に於いてはその広い行為撃範囲もあって非常に厄介な相手ではある。

 だが、それは個人戦での話。 集団戦ではその攻撃範囲の広さが枷となり、連携を取る事が難しい。


 その為、『栄光』の戦い方は『カナタ』と『それ以外』を分ける事で運用していた。

 周りがカナタの戦いを邪魔しないように支える形は王と臣下のようだ。


 ――カナタは気付いているのかしら?


 それは周囲を下に見る行いであるという事を。

 適切な運用といえば聞こえはいいが、チーム戦ではスタンドプレーとそう変わらない。

 何よりカナタの最大の問題は周囲がそれに関して何も言わない事だ。


 『栄光』は確かに結束も強く、カナタ自身のカリスマ性もあってアットホームと形容する者もいるほどに定着率の高いユニオンだ。 

 だが、その戦い方は酷く歪に見えてしまう。

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