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第584話 イベント制限戦Ⅱ⑳

 「――はぁ、なーにが宝探しだよ」


 ヨシナリは小さく溜息を吐いた。 

 空を見上げると宇宙のような空間とそこに漂う似たような色、形状の惑星が無数に浮かんでいる。

 現在休憩中で、仲間達は各々自由時間を過ごしていた。 


 そんな中、ヨシナリはこうして空を見上げていたという訳だ。

 ここまででこのイベントの中身は凡そ見えて来た。 

 スコアという数字を稼ぐ事で様々な機能やガイド機能が解放されるのだが、その稼ぎ方が問題だったのだ。


 雑魚エネミーは一機100と旨味が少なく、手っ取り早く稼ぎたいならプレイヤーを仕留める必要がある。


 ――で、空を見上げれば同じような惑星があると言う事は全てのプレイヤーが同じ惑星に配置されている訳ではなく、あちこちに分散配置されているであろう事は明らかだ。


 それが何を意味するのか? 要はこのイベントはトーナメントなのだ。

 証拠にスコアを稼ぐと他の惑星への移動手段も確立されるのでスコアが溜まれば他所に行って他のプレイヤーを探しに行けるようになる。 その為、獲物に困る事はない。


 ――まぁ、思いっきり無視してやったが。


 ぐるりと周囲を見回すと大量のエネミーの残骸が辺り一面に散らばっていた。

 基本的にエネミーは一定以上の高度を取る事で湧いてくる。 出撃するのは上空にある天井からだ。

 ふざけた事にこの惑星は殻のような物に覆われており、そこからボロボロと湧いてくる。


 つまり、この中には大量に詰まっているのだ。 だったらやる事は一つだった。

 カカラが居た事が幸いし、殻に穴をあけて中でひと暴れしてきたのだ。

 どうやらぶち抜いて外に出ると追い出す為に次々に湧いてくるのでここで荒稼ぎができた。


 ちらりとスコアを確認するとチームの累計獲得スコアは数十万といった所だろう。

 お陰で一通りの機能は解放されていた。 ウインドウを開いてメニューを確認。

 最初に解放されるのは拠点機能だ。 これは拠点の場所を教えてくれるのだが、スコアが溜まると施設が精製されるので先に見つけて使うと言う真似は出来ない。


 修理、補給だけでなくセーフハウスとしても機能するのでエネミーや他のプレイヤーが侵入不可でログアウトも時間制限付きではあるが可能となっている。 

 スコアを稼ぐ事で装備の生産――一部制限があるが過去のイベントでもあったように所持している武装は自由に作る事が可能なので状況に合わせて装備を切り替える事が可能だ。


 ――ちなみに不可能だったのは核などのフィールドを焼き尽くせるような高威力の兵器群だ。


 最初はこのセーフハウスが味方以外侵入不可な事を利用して核兵器を大量に作ってぶっ放した後、中に隠れて爆発をやり過ごして荒稼ぎをしようと考えたのだが流石に許してはくれなかったようだ。

 そんな事もあって中でエネミーを虐殺していったのだが、あまりにも歯応えがないとカカラが不満を口にしたので、狙いをプレイヤーに変えてフィールドで暴れまわった。


 カカラの機体は巨大なだけあって航続距離も長く、プレイヤーを探し当てるのも難しくはない。

 ずっと戦いっぱなしだった事もあって全員の集中力が切れて来たという事で現在、休憩中という訳だ。

 その間にヨシナリはこのイベントのゴールに付いて考えを巡らせていた。


 重要なのはスコアである事は明らかだ。 

 このイベントは宝探しという体裁を取っているだけのサバイバルで、当初は他のプレイヤーと協力して徒党を組む事も考えていたヨシナリだったが仕様を知れば知るほどに馬鹿らしくなる。


 プレイヤー同士で潰し合わせ、スコアを集約させて残ったチームが宝に辿り着くと。

 ご丁寧にブロック分けまでされているこれがトーナメントでなくて何だと言うのだ。 

 スコア十万で他のエリアへの移動手段を獲得できる。 


 方法は拠点ごと転移する形で行うらしく、ウインドウ操作だけで移動は可能だ。

 転移先はランダム。 例のブロック分けされた街の真ん中の地下に出る。

 基本的にどの惑星もデザインが全く同じで移動しても場所が変わった感じがしない点は余り新鮮味を感じないので風景を楽しむ事は難しそうだった。


 「そろそろか」


 ヨシナリはそう呟いて立ち上がる。 

 開いている穴からカミキリムシの生き残りが這い出そうとしていたのでアトルムをゆっくりと抜いて胴体に撃ち込んで仕留め、穴から飛び降りて地上へと向かう。


 そろそろ休憩時間も終わりだ。 機体を変形させて拠点へ向けて加速した。



 ――やり難い。


 カナタはそんな事をぼんやりと考えていたが、努めて表に出さない。

 寄せ集めのチームという事もあって慣れたメンバーとは勝手が違う事は理解しているが、ここまでとは思っていなかった。 アリス、エーデ、まんまる、マルメル。


 アリスとエーデは元々、付き合いのあったプレイヤーだったので勝手は分かっているつもりだ。

 まんまるはツェツィーリエの紹介だった上、ミッション等で組んだ事もあったので面識はあった。

 最後のマルメルに関しては思い返してみるとなぜ彼にしたのだろうかという疑問はなくはない。


 事実彼よりも技量、ランクも高く、扱い易いプレイヤーは何人か心当たりがあったからだ。

 それでも彼を選んだ理由は恐らくユウヤの事はあっただろう。

 本人には否定はしたが、全くないと言えば嘘になる。 


 付き合いのある人間の傾向を見ればユウヤの思考の一部を紐解けるのではないか?

 そんな考えがない訳ではなかった。 一番早いのはヨシナリを取り込む事だったのだが、妬みもありそれを認められなかったカナタには引き入れると言う選択肢は選べない。


 どちらにせよツガルが早々に誘いに行ったので無理な話ではあったが。

 ヨシナリ。 カナタから見ても優秀なプレイヤーである事は疑いようがない。

 ユニオン対抗戦で何度か敗北している以上、ここは認めなければならなかった。


 個人技はともかくチームとしての完成度では負けていると。

 マルメルを見てもその優秀さは見えてくる。 

 自分達との違いは何だろうと考えれば答えを自然と導き出せるのはカナタの優秀さの表れでもあったが、それを許容できるのかはまた別の話だ。


 全員の長所を伸ばすやり方。 個々人の強みをそのままチームの一部として機能させる運用。

 上手く機能すれば相乗効果が期待できるがその反面、個々人に依存している為、モチベーションによって安定性を大きく欠く点だろう。

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