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第585話 イベント制限戦Ⅱ㉑

 カナタは基本的に自分さえベストパフォーマンスを維持できれば大抵の事は何とかなる。

 そんな考えを抱いているだけあって、まずは自分で他は二の次なのだ。

 結果、彼女を中心とした「栄光」のフォーメーションが確立された。


 このやり方は間違っているかと尋ねられれば一概にそうとも言えない。

 カナタのパフォーマンスが高ければチームは崩れず、個々のモチベーションが低かったとしても彼女を支えると言う最低限の事をするだけなのでそれなり以上に安定はする。


 少なくともカナタはこのやり方でここまできた。 

 無敗とまでは行かないが、一定以上の戦果は挙げているのだ。 

 だから、大丈夫と思っていたのだが、少なくともマルメルからはそう見えなかったようだ。


 彼の言う事はもっともな話でさっきの戦いで後衛が上手く機能していなかったのは否定しようがない。

 加えて厳選したとはいえ所詮は寄せ集めで「栄光」のメンバーと同等の連携を期待するのは間違っている。 そこは理解していた。


 カナタは他人に意見されたとしてそれを頭ごなしに否定するほど狭量ではない。

 だから、頭では納得しているので意見は素直に聞いたが、あまり面白くはなかった。


 「よし、そのまま追い込む!」


 戦い方を変えた。 範囲攻撃を控え、味方を巻き込まない事を意識した立ち回りで援護しやすくする。

 マルメルが突撃銃で相手の位置を誘導しエーデ、まんまるが退路を封じ、アリスがレーザーで焼き払う。 その討ち漏らしをカナタが大剣で両断。 あっさりと敵チームが全滅となった。


 C、Bランクで構成されたチームを危なげなく撃破。 明らかにさっきまでよりもスムーズだった。

 特に後衛を動きやすくするだけでかなり違う。 

 エーデもまんまるも後衛としては優秀なので撃てるタイミングを作ってやれば勝手に仕事をする。


 基本的にこのチームは中~後衛に人数をかけている関係で撃つ機会を増やせば勝手に手数が増えるのだ。 

 明らかに完成度が上がったチームを見れば認めざるを得ない。


 「マルメルさん」


 カナタは自分の非を認めるべくマルメルに声をかけたのだった。



 「すいませんでした。 あなたの言う通り私は私のやり方を皆に押し付けてたんだと思います」


 あれから三チームほど撃破し、補給と整備の為に拠点に戻ったタイミングでカナタがいきなりそんな事を言い出して頭を下げたのだ。 

 流石にこの反応は予想外だった事もあってマルメルは少し慌てる。


 「あ、いや、俺も生意気言ってすんませんでした」


 正直、マルメルとしてはカナタからの心証が少々下がった所で、どうでも良かったというのもあった。

 何故ならヨシナリがあまりいい顔をされていない事もあって深い付き合いにはならないと思っていたからだ。 


 結果だけを意識した立ち回り、ドライな付き合い。 今回限りならそれでいいと割り切った。

 エーデに唆された形になったのは不快ではあったが、まぁいいかと話を続けたのもこれが理由だった。


 ――それに他人に踏み込むのって重いんだよなぁ……。


 特にヨシナリを見ているとそれを痛感させられる。

 ふわわやシニフィエに関しては程々の距離感、グロウモスに関しては一定の距離で線引き。

 前者は過度な干渉を嫌うからだ。 以前、引き抜きにあった時に見せた反応からそれは明らかだった。


 ――まぁ、ヨシナリからの受け売りだが。


 グロウモスはマルメルから見ても分かり易い。 

 傍から見ても彼女がヨシナリに重たい感情を向けているのが分かる。

 ヨシナリも応えるのは無理、もしくは手に余るとでも判断しているのか踏み込まない、踏み込ませないラインを決めている印象があった。


 この時点で彼の他者との距離の取り方が秀逸だなと思ってしまう。

 逆にベリアルに関しては思いっきり踏み込んでいた。  

 恐らくは彼とまともに付き合う、もしくは信頼関係を築くのはそれしかないと理解していたからだろう。 完全な赤の他人があの会話をしていたら失笑してしまう自信がある。


 そんなハイレベルな会話を心の底から真剣に行うのだ。 並大抵の覚悟で出来る事ではない。

 少なくともマルメルには真似できそうもなかった。 

 ただ、付き合ってみるとベリアルは言葉こそ難解なだけで考え方自体はまともなのだ。


 ついでに見た目よりも優しい奴だった。 模擬戦を頼めば時間の都合が付けば相手もしてくれる。

 Aランクプレイヤーとの実戦経験なんて簡単に積めない経験をさせてくれるだけでマルメルにとってはベリアルはありがたい存在だ。 


 ――ヨシナリの影響か、なんかちょいちょい褒めてくれるんだよなぁ……。


 分かり難いがいい動きをすればここは良く練られた一撃だったとか、貴様の間合いは中々の完成度だとか遠回しなのか直球なのかの判断の分かれる言葉で褒めてくれるのだ。

 マルメルとしては自発的にくれる他人の誉め言葉は素直に嬉しいので、ベリアルの事はちょっと気に入っており地味に好感度が高かった。


 ワードセンスに関しては付いていけない気持ちもあったが、センスは良いと思っている。

 機体のデザインも格好いいと思っている事もあって今度、プセウドテイのフィギュアを買おうと考えていた。

 ホーコートに関してはまだよく分からないと言うのがマルメルの本音だ。


 良い後輩だとは思う。 あんまり強くないのは仕方がない。

 マルメルも最初はあんなものだったのだ。 やる気がある以上、そのまま頑張って貰えばいい。

 ヨシナリも根気よく育てたいと言っていたのでそれ以上いう事はなかった。


 ――で、だ。 残りのユウヤについて――


 「私は自分のやり方を皆さんに押し付けていたんだと思います。 ――だからユウヤともうまくいかないんでしょうか?」


 カナタが少し目を伏せる姿が見える。 

 流れ的に来るかもなーと思っていたのでそこまでの驚きはないが、地雷を踏み抜いたような少し嫌な感じはした。 マルメルは迷う。 どう答えるべきかを。


 ユウヤに関しては実は分かっていない部分が多かった。

 性格的にも触れ辛いというのもあるが『星座盤』に入った最も大きな動機が目の前のカナタだ。

 真偽は定かではないが、彼女からの勧誘を避ける為に入ったというのは聞いている。


 マルメルとしてはユニオンホームにずっといて皆に癒しを提供してくれるアルフレッドの存在の方が大きかったりした。 

 触った感触なども本物の犬と変わらず、体温らしきものもあるので触れ合うだけで非常に癒されるのだ。

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