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第587話 イベント制限戦Ⅱ㉓

 「フォーメーションを維持! 一機ずつ減らします!」


 カナタがそう叫んで突っ込む。 


 『今回は俺とポンポンさんがトップを。 ヤガミさん、カカラさん、フォローを頼みます!』

 『おいおい、俺には指示はなしか?』

 『ツガルさんはいつものでお願いします。 頼りにしてますよ?』

 『へ、任せとけって!』


 双方のリーダーが指示を出し、全ての機体がその動きを決める。

 マルメルは努めて冷静に戦場と敵を確認。 

 幸いにも敵機の内、四機は初見ではないので手の内はある程度見えている。


 問題はポンポンのジェネシスフレームだ。 あれだけは全く情報がない。

 薄桃色の機体でデザインから汎用性を重視しているような印象を受ける。

 腰部とその少し上にエネルギーウイングが合計で四基。 


 足にもスラスターらしき物が見え、機動性に振っているようだが、装甲も少し盛っているようで軽量機のような過剰なダイエットをしている様には見えない。

 メインの武装は突撃銃にも見えるが銃口の下に恐らく榴弾砲が付いており、状況に応じての撃ち分けができるのだろう。 反対の腕にはやや大きめのシールド。 


 エネルギーシールドではなく嵩張る実体盾である事は少し気になったが、構成としてはオーソドックスな印象を受ける。 


 ――あのポンポンの機体だ。 何か隠し玉があるんだろうなぁ……。


 警戒は怠れない。 敵はどう動く?

 ヨシナリの事だ。 かなり嫌らしい動かし方をしてくるはずだが――

 真っ先に斬り込んで来たのはヤガミだ。 知ってはいたがかなり速い。


 マルメルを狙ってきたので迎撃しようと銃口を持ち上げる前にレーザーが彼女の目の前を通り過ぎる。

 アリスだ。 ヤガミを見るなり長い銃身を排除し、束ねた銃口を露出。

 銃身が回転を始め、凄まじい数のエネルギー弾を吐き出す。 


 ヤガミは空中を蹴って不規則な方向転換を行って回避を繰り返す。

 アリスはそれを追うように連射を続ける。 

 僅かに遅れてカカラが頭上を通り過ぎ、ミサイルをばら撒く。


 狙いは後衛の二人だ。 


 「やっぱこっち来たー! カカラさんの相手とか勘弁して欲しいんですけどー!?」


 エーデは全力で後退しながら、まんまるは悲鳴を上げながらカカラのミサイルを迎撃。

 無数の爆発が起こる。 明らかにカナタから周りを引き剥がしにかかっているので自分だけでも援護にと前に出たのだが、それを阻む者がいた。


 『よぉ、お前の相手は俺だ。 しばらくは大人しくしててもらうぜ!』


 ツガル。 機動性に極振りしている事もあってかなりやり難い相手だ。


 「悪いっすけどこっちも簡単に落ちてやるつもりはありませんよ!」


 アノマリーを連射。 当然のようにひらりと躱す。

 推進装置が目立つ形で付いていないので回避方向が予測できない。

 厄介な相手だった。 明らかに相性が悪い。


 ――ヨシナリの奴、狙って俺にぶつけたな。


 意地でも突破してやるとエネルギーウイングを噴かして加速。

 ツガルの銃撃を躱しながらどう撃破するかに思考を巡らせた。




 カナタは大剣の機能を解放。 巨大なエネルギーブレードが出現する。

 味方と切り離された事で連携は使い辛くなったが、そうなったらなったで周りを気にする必要がない事もあって決して悪い状況ではない。 横薙ぎに振るわれた光の剣は――


 『もうそれは何度も見ましたよ』


 ヨシナリによって砕け散った。 正確にはエネルギー部分が霧散したのだ。

 理由は明らかでヨシナリが持っているハンマーだ。 ユウヤの武器だったもの。

 ユウヤから譲り受けたもの。 ユウヤからの信頼の証。 


 そう考えると彼女の胸中に嫉妬が渦を巻く。 

 認めたくはなかったが、カナタはヨシナリという人間が大嫌いだ。

 人間性ではない。 ただ、自分にできない事をやってのけ、自分がいくら求めても手に入らなかったポジションを手に入れ、ユウヤに死んでも手放さないと思っていた武器を譲渡させた事実が許せない。


 カナタという人間は妬まれる事はあっても彼女自身が他人を妬む事はなかった。

 だが、目の前に自分がどれだけ手を伸ばしても届かない物を容易く手に入れている存在が居る。

 その事実だけでカナタは頭がおかしくなりそうなほどの激情に駆られてしまうのだ。


 ――潰す。 


 自分でも理不尽な怒りである事は分かっている。

 だが、自分からユウヤを奪った男を目の前にすると感情が抑えられない。

 個人的な感情はあれど視野を狭めてはならないとカナタは自らを戒める。


 ここでヨシナリに拘泥した結果、敗北してしまえばチームメイトに申し訳が立たない。

 怒りはあるが、勝ちに意識を傾けろ。 敵は二機。 

 ヨシナリが派手にブレードを散らしたのはカナタの意識を前に向ける為だ。


 本命はこちらだ。 カナタは振り向きながら大剣を振るう。

 そこにはいつの間にか忍び寄っていたポンポンの機体が居た。


 『ま、バレるよナ』


 カナタの大剣をシールドで受け流し、反対の手に握っていた突撃銃を向けるが銃口を足で蹴り上げる。

 エネルギーウイングを全開にして急上昇。 

 以前のイベント戦で連携を使って来る敵の恐ろしさは痛いほどに理解している。 


 有効なのは分断からの各個撃破――なのだが、この二人もそれはよく理解しているようだ。

 離れない。 正確には距離を取らせないように逃げ道を塞いできたのだ。

 上昇した先にはヨシナリが待ち構えていた。 大型のライフルを連射。 


 左右に振って躱し、横旋回。 僅かに遅れて下からポンポンの銃撃。

 回避先へ狙撃が飛んでくるが大剣で受ける。 

 足が止まったと同時にポンポンのシールドから大型のエネルギーブレードが展開。 


 横薙ぎの一閃。 エネルギーウイングを噴かして強引に体勢を変えて受け止める。

 ポンポンが何かする前に盾に蹴りを入れて強引に距離を離す。 

 一瞬前までカナタのいた位置に無数の銃弾が飛んでくる。 


 ポンポンも巻き込む位置だったが、彼女は盾を構えている状態なので何の問題もない。


 ――こいつ等。 


 上手い。 連携の組み立てだけならベリアルとユウヤ以上だ。


 『テンポ上げるゾ!』

 『了解、このまま畳みかけましょう!』


 手数を増やさないとどうにもならない。 大剣を分割して二刀に切り替える。

 ポンポンが突撃銃を小刻みに連射して追いかけ、その間にヨシナリは飛行形態で先回り。

 明らかに逃げ場所を誘導されている。 ポンポンも直接狙わずに機動を制限する撃ち方だ。


 露骨に外れようとすると散弾砲で強引に修正して来る。 

 連射してこない所からあまり多用は出来なさそうだが、厄介な事には変わりなかった。

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