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第588話 イベント制限戦Ⅱ㉔

 本来なら建物の残骸を縫うように移動して相手の射線を切りたいのだが、度重なる戦闘の所為か原型を留めている建物がほとんど残っていない。

 その為、マルメルはエネルギーフィールドを展開しながら地上を進んでいた。

 ロックオン警告が出たと同時に左右に振って回避。 地面を薙ぐように弾痕が刻まれる。


 振り返って応射。 ツガルは余裕すら感じられる動きで躱す。

 ぴったりと背後に張り付き、こちらのエネルギーウイングを狙って来る。

 鬱陶しい上にやり難い。 こちらの弱点を執拗に狙って来る手口は恐らくヨシナリの入れ知恵だろう。


 加えて他から引き剥がすような動き。 明らかにハンドレールキャノンによる一発を警戒しての事だ。

 ツガル自身は楽に躱せるだろうが狙うふりをして他を撃ち抜くのは以前のユニオン対抗戦で散々見せてきた以上は対策されるのは当たり前と言える。


 加えて、マルメルの機体は重量機である事を理解して急所である推進装置を執拗に狙うのも嫌らしかった。 


 『どうした、どうしたぁ! 逃げてばっかだと勝てねーぞ!』

 「だったらもうちょっと当て易い位置に来てくれませんかねぇ!」


 言い返しながら撃ち返す。 

 こうして相対して見るとよく分かるが、チームとしての完成度は向こうの方が明らかに高い。


 ――カカラを連れて来るとか反則だろ!


 ちらりと少し離れた位置にいる目立つ機体を見ると地上へ向けて派手にミサイルと銃弾を撒き散らしていた。 

 エーデとまんまるは散って狙いを分散させつつ応戦といった形になっているが、あの要塞のような機体を沈めるには至っていない。 

 あの様子だと片方が落ちた時点で終わる。 


 ――にしても見れば見るほど反則臭ぇ……。


 あの重装甲と火力で一機分の枠なのだ。 やってられない。

 次にアリスの方を見るとこちらも膠着している。 

 ヤガミの的を絞らせない挙動をどうにか捉えようとしているが、この遮蔽物のないフィールドでは機動力の差が大きい。 


 最後にカナタだが、こちらも不味そうだ。 ポンポンとヨシナリのコンビが圧倒している。

 機体のコンセプトが近い事もあって、攻撃の繋ぎがスムーズだ。

 一対一なら充分に勝てる相手ではあるのだろうが、ヨシナリも単騎では厳しいと思っているからこその組み合わせだろう。 


 ――この状況で俺に何ができる?


 ツガルは機動性こそ高いが火力は驚くほどではない。 

 多少、無理をすれば他へ介入する余地は充分にあった。 

 俺はどうすれば勝てる? 普段ならヨシナリがヒントをくれたが、今回はそのヨシナリが敵なのだ。


 勝利への活路は自分で切り開かなければならない。 




 ――とか考えてるんだろうなぁ……。


 ヨシナリは逃げ回るマルメルを見てちらりとそう考えた。

 ここで出くわすとは思っていなかったが、チーム構成を見れば勝てない相手ではない。

 カナタが入っている時点でこの形に持って行く事は決めていた。


 「栄光」とは何度も戦っている事もあって、フォーメーションの傾向は掴んでいる。

 特にカナタに関してはユウヤが身内にいる以上、高確率で敵対する相手なのだ。

 仕留める方法は特に力を入れて考えていた。 


 カナタの処理は実の所、そこまで複雑な手段は必要ない。

 一定以上の水準で連携が取れる複数で当たる。 基本はこれだ。

 理由は単純で、彼女は自分と自分以外を切り分けて運用するので勝手に孤立するからだ。


 つまり一人でのこのこ突出した所を袋叩きにすればいい。

 さて、なら誰を当てるか? 

 このチームは機動性に振っている機体が多い事もあって組み合わせの選択肢は多い。


 ヨシナリ、ポンポン、ツガル、ヤガミとカカラ以外は誰とでも併せられるので尖らせたの正解だったと自らの選択が正しかった事を確信する。

 このイベントの告知があって早々にポンポンとツガルに声をかけられた。


 組もうと。 断る理由がなかったので即答、それにわざわざ自分の腕を買ってくれたのだ。

 ここは喜んで付いて行くところだろう。 これで三枠埋まったのだが、問題は残りの二枠だ。

 実は少しだけ揉めた。 


 ツガルとしては自身の火力の乏しさもあって、高火力の砲戦機体が欲しいと主張し、ポンポンは乗り換えた機体が高機動機である事と三人のスピードに合わせられる足の速い機体がいいのではないかと。

 ヨシナリとしてはどちらの主張も正しいと思っていた。 


 高火力の支援機が居れば火力だけでなく、攪乱も期待できる事もあって前衛が仕事をし易くなる。

 対するポンポンは折角、足並みを揃えられる面子が揃っているのなら可能なら追従できる奴が欲しいと強みを可能な限り活かす方向で考えているようだ。


 ――で、お前はどうなんだと二人同時に俺が詰め寄られるんだよなぁ……。


 両者とも「お前は自分の味方だよな」と圧をかけてくるので角が立たないようにするのには苦労した。

 メンバーの選出に関しては早い段階で候補は決めていたのだ。

 まず、このイベントは長期戦になる可能性が極めて高い。 


 つまり速度、性能差が出過ぎる機体は余りよろしくなかった。 

 前回の防衛イベントの時でもその所為で部隊を分ける形になった事もあったので猶更だ。

 飛べてそこそこ以上の速度を出せるプレイヤーである事は最低条件。


 加えてツガルの希望である高火力という条件を高い水準で満たしているプレイヤーで真っ先に思いついたのがカカラだ。 

 二人に提案すると嫌な顔はされなかったが、受けてくれるのかといった疑問を抱いていたので物は試しにと連絡すると五分ぐらいで入ると返事が来たので驚いたのは記憶に新しい。


 対面したカカラと固い握手を交わし、四人目が決定。

 どうやらここ最近、連携を意識するようになったとかで勉強の為にヨシナリのチームに入りたいとの事。 


 ――学ばせて貰うぞ!


 豪快に笑うカカラだったが目には以前の借りを返すからなと炎のような感情が揺らめいていた。

 彼もまた以前の戦いから進化しようとしているのだ。

 それはヨシナリとしても同じ事。 以前の戦いでは三対一でようやく撃破した相手ではあるが、次は単独で仕留めてやりたいと思っていた。


 敵でなく味方となったカカラから吸収できる物も多いと思っているので、大歓迎だった。

 カカラは機動性というポンポンの味方に要求する能力は満たしていないが足自体は遅くない上、火力に関して圧倒的だ。 


 それに遅れないという最低限の条件は満たしているので文句は出なかった。

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