目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第592話 イベント制限戦Ⅱ㉘

 カナタに関しては遭遇した時点である程度の戦い方は固まっていた。

 彼女の戦い方は大剣を発振装置とした巨大なエネルギーブレードによる中距離。

 大剣を分割しての近距離、状況次第では柄を連結した両剣。


 後者は一対一で多用して来るので、この状況での使用頻度は低い。

 裏を返せば使いだしたら余裕がなくなったと判断する目安になる。

 機動に関してはエネルギーウイングによる旋回。 


 大剣の場合は横薙ぎを多く使う関係で横旋回の方が頻度が多い。

 エネルギーブレードはヨシナリのスペルビア――ハンマーで無効化できる以上、早い段階で攻撃の選択肢から消える。


 そうなると使うのは二刀か両剣の二択。 

 二刀は手数に優れているので攻撃を捌く事には適しているが、前と後ろで挟めば早々に処理に困って当たれば両断できる両剣に頼るのは目に見えていた。 


 両剣を使う場合は威力を乗せる為に回転を経由する必要がある以上、斬撃の軌道は上下左右と読み辛いが高確率で斜め。 

 袈裟に両断を狙う事が多く、上の方がやや高頻度で出が速い。

 下からは僅かに身を引く事もあってその予備動作を見極められるならカウンターも狙える。


 ただ、下の場合はブレード部分を蹴り飛ばす事で加速させ、タイミングを狂わせてくる事もあるので注意が必要。 

 特にアーマーをパージして軽量化を図っている場合、それが顕著だ。

 初見ではあったが、あのベリアルですら反応できない斬撃速度を誇る。


 ――以上がヨシナリの研究したカナタの攻撃傾向だ。


 「後は性格的に受けに回る事を嫌っているのか、基本的にやられる前にやるといった印象ですね」

 「だから受けに回らせてイラつかせたのか?」

 「はい、これは俺の経験則なんですけど、ストレスがかかって視野が狭くなると慣れた挙動に頼りがちになるんですよね……」


 ヨシナリはやや躊躇いがちに「カナタさんはあんまりストレス耐性高そうではなかったので」と付け加えた。 

 それを聞いてポンポンは小さく吹き出す。 まさにその通りだと思ったからだ。

 基本的に大抵の事は自分の思い通りになると思っている女というのが、ポンポンから見たカナタの印象だ。


 そんな理由でツェツィーリエとそこそこ仲がいいので露骨に嫌な顔はしないがポンポンはカナタが余り好きではなかった。 


 「まぁ、そんな訳で挟んで余裕を削ぎ落し、これ見よがしにこっちが勝負に出ればアーマーをパージして迎え撃とうとしてくるのでそこを狙って終了です」


 数の利を活かし、相手に手数を使わせて最後のポンポンの狙撃へと繋げたのだった。

 ポンポンとしても中々に満足度の高い一戦で、気持ちよく勝てたと言える。


 「大したものだナ」

 「どうもです。 ってかポンポンさんも分かってて乗ってたでしょ? 途中で煽ってたし」

 「どう見ても余裕がなかったからナ。 そういう奴は煽って更に余裕をなくすのは常識だろ? ――にしても随分と細かく調べ上げてたナ。 あたしのデータも頭に入ってんのか?」

 「それは当たった時のお楽しみとでもしておいてください」


 ヨシナリははっきりと応えなかったが次に当たった時の為に対策を練っている事は明らかだ。

 味方だと頼もしいが敵でも面白いとは飽きがこない奴だと内心で笑う。


 ――次に当たったら絶対に叩き潰してやるからナ?


 ポンポンはヨシナリも内心で似たような事を考えているだろうと思いながらにこやかに勝利を喜んだ。




 ――これ、なんか言った方がいいのか?


 場所は変わって『栄光』のユニオンホーム。 負けたマルメル達はその一室に集まっていた。 

 少しの間、誰も何も言わなかったが、ややあって俯いていたカナタが顔を上げる。

 表情は笑顔だ。 悔しいはずなのに感情の全てを押し込めているのは流石だった。


 「皆さん。 今日はありがとうございました! 結果は残念でしたが、いい経験になったと思います」

 「……まぁ、そっすね。 ここは素直に相手の方が一枚上手だったと思っときましょう」


 マルメルとしても場の空気を重くしたくなかった事もあって意識して乗っかる。

 ただ、いつまでも居たい空気ではなかったのでそろそろお暇したかった。


 「そうね。 いい経験になった。 今はそれで良しとしておきましょう。 役に立てなくてごめんなさいね? じゃあ、私はこれで」


 真っ先に立ち上がったのはアリスだ。 彼女はマルメルを一瞥するとウインドウを操作。

 ポコンと通知がポップアップ。 フレンド登録された事を示すメッセージだ。

 よく分からなかったが気に入られたのだろうか? 


 マルメルは「どもです」と曖昧に答えて受託後、申請を送り返した。

 アリスはそれを確認すると「またね」と小さく口にしてアバターが消失。 

 移動したようだ。 


 「で、ではぁ、私も失礼しますぅ。 お疲れさまでしたぁ」


 次にまんまるが退出。 エーデもそれに続くようにじゃあねと消えた。

 マルメルも小さく頭を下げ、お疲れっしたと言ってウインドウを操作。

 カナタがお疲れさまでしたと返事をしたのを確認してから移動する。


 戻ってきたのは『星座盤』のホームだ。 ぐるりと見回すが誰もいない。

 マルメルはふらふらと近くのソファーに腰を下ろす。


 「なーんか滅茶苦茶疲れたな」


 大きく息を吐いて背を預ける。 

 しばらくの間、そうしているとアルフレッドが寄って来たので抱き上げて膝の上に乗せて撫でまわす。

 アルフレッドはされるがままだ。 その反応に気をよくしたマルメルは抱きしめながら考える。


 さっきの戦いに付いてを。 

 敗因に関しては割と明確だった。 相手に対する解像度の差だ。

 カカラ、ヤガミという実力者はいたが、こちらにもカナタ、エーデ、アリスと強い駒はいた。


 相手が待ち構えていた事を差し引いても対応力の差が露骨に出ていたと感じる一戦だった。

 向かってきた相手にそのまま対処したカナタに対して相性のいい相手をぶつけたヨシナリ。

 この事実だけを切り取っても差は明らかだ。 


 後衛をカカラで封殺し、邪魔な中衛はツガルとヤガミで抑える。

 孤立したカナタはヨシナリとポンポンで挟み撃ち。  

 元々、突出する傾向にあったカナタ相手なのだ。 あの形に持って行くのは簡単だっただろう。


 『烏合衆』が仕掛けて来た戦い方に似ているが、相性のいい相手に当てている辺りヨシナリの性格が出ている。

 イベント戦のリプレイ映像は呼び出せないかと思ったが、操作を受け付けない。

 どうやら駄目なようだ。 マルメルは仕方ないかと目を閉じて思い返す。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?