両肩の散弾砲の可動域は銃床を切り詰めてコンパクトにしているだけあって広い。
ヤガミは完璧に射程に捉えた。 残りのツガルは壁を背にしている以上、背後は取れない。
ヤガミの動きと干渉しないポジションを考えると直上か斜め上。
攻撃を同期するなら斜め上の可能性が高い。
ハンドレールキャノンを即座に構え、エネルギーを充填。
向けた先にはツガル。 完璧に読み通り。
――行ける!
発射――と同時に二人が待ってましたと言わんばかりに回避。
「は?」
思わず声が漏れる。 ツガルは急制動をかけ、ヤガミは攻撃せずにそのままマルメルの攻撃範囲の外へ。
完全に発射のタイミングを読まれていた。
『私達二人を同時に仕留めようとする気概は素晴らしい。 ただ、少し欲張り過ぎだったね』
『いやぁ、危ねぇ、危ねぇ。 聞いてなきゃ貰ってたかもなぁ』
ヤガミは苦笑し、ツガルは少しだけ驚きの混ざった声を漏らす。
問題はそこではなく、ツガルの聞いていたという言葉。 つまりはヨシナリの入れ知恵という事だ。
「ったく相棒を売るとは酷ぇ奴だなぁ」
ハンドレールキャノンの発射とここに来るまでの加速やエネルギーフィールドの維持でジェネレーターはすっかり限界を迎えていた。 つまり強制冷却だ。
ギリギリの管理をしていたので、もうどうしようもない。
ツガルの銃口とヤガミのダガーの刃が向けられる。
完全に詰んでいたがそれでもとアノマリーを持ち上げ――抵抗も虚しくそのままコックピット部分を一突きにされた。
――負け。
カナタはもうどうにもならない事を自覚していた。
アリス、マルメルが脱落。 エーデとまんまるも頑張ってはいるが時間の問題だった。
何故ならツガルとヤガミが行ったからだ。
中衛が全滅した以上、無防備になった後衛はもはやカモでしかない。
助けに行きたいが目の前の二人がそれを許してくれなかった。
個々の実力ではカナタが勝っているはずだが、それを補って余りあるほどの連携で圧倒されている。
味方が居なくなった事でカナタは二刀から大剣に戻して攻撃範囲の広いブレードで連携の分断を図るとヨシナリがユウヤの大剣を変形させてエネルギーブレードを無効化。
その隙にポンポンが銃撃。 大剣の実体部分が届かない距離から執拗に撃ち込んで来る。
「この、鬱陶しい!」
『そりゃ光栄だナ? 悪いけどあたしとヨシナリの二人でやればアンタはそこまで怖くない』
カナタはかっと頭に血が上りそうになるのを抑え、二刀に切り替えて装甲をパージ。
身を軽くすると同時に柄で二刀を連結。 可能な限り機動性に振る。
この二人は二人だからこそ強い。 つまりは片方を落とせば勝ちの目は充分にあるのだ。
ただ、イベント戦はここまでだ。 メンバーを失った以上はこの先を勝ち進むのは不可能。
だから、こいつ等を始末して賞金を持ち帰る事に全てを傾ける。
エネルギーウイングの出力を最大にして加速。 まずはヨシナリから――
『ま、来ると思ってましたよ』
狙いを定めると同時にヨシナリの機体から闇が噴き出し、出力が爆発的に上昇。
スラスターやエネルギーウイングの発光も黒に染まる。
両剣を回転させてからの斜めからの袈裟の一撃をヨシナリは大剣で受け止めた。
完全に反応した上で受け止めている。
早々見切られない一撃のはずなのにとは思っていたが、動揺もしていられない。
即座に降下。 一瞬前までカナタの胴があった場所をポンポンの斬撃が薙ぐ。
『やっぱり簡単には行かないナ?』
こっちも速くなっている。
どういう事だとポンポンの機体を見ると四基のエネルギーウイングが起動していた。
汎用性重視の機体かと思ったが、どうやら機動性重視だったようだ。
だが何故、汎用機にエネルギーウイングが二機しか積めない事を彼女は理解しているのだろうか?
推進装置としてはこのゲームでは最高峰で、ジェネシスフレームにも採用される優秀な装備だ。
数を増やせば確かに機動性の強化は可能。
――それを制御できればの話ではあるが。
事実としてAランクの上位プレイヤーの大半が二基しか積んでいない。
完璧に操る事が難しいからだ。 それができるのはラーガストぐらいなものだろう。
つまりポンポンには繊細な操作は難しく、使うにしても直線加速ぐらいだ。
旋回を多用して縦と横に移動すればそこまで怖い相手ではない。
『――でも、旋回すると挙動が制限されるんで割と読み易くなるんですよ』
横に旋回したと同時にヨシナリが先回り。 間合いに捉えたと同時に蹴りを放つ。
足にクレイモアを仕込んでいるのは知っている以上、起爆前に足を斬り落とせばいい。
カナタは両剣で下から掬い上げるように一閃。 膝から下を切り飛ばす。
そのまま回転を経由して上から返しの一撃。
肩から入って袈裟に両断を狙うが、ヨシナリは背を向けてマウントした大剣で受ける。
即座に離脱。 ポンポンのブレードが虚空を薙ぐ。
動きを止めたらどちらかに狩られる。 とにかく一撃入れたらすぐに動かなければならない。
次は――目の前、視界一杯にヨシナリの機体が広がる。
また先回り。 胴を狙っての横薙ぎはその場で回転する事で躱される。
見た事のない挙動。 空中での前転で攻撃を躱し、頭部に踵が飛んでくる。
回避。 際どいが間に合う。 横に急旋回して背後を取――ズシンと衝撃。
胸部に穴が開いていた。 離れた位置にいたポンポンが銃を構えている姿が見える。
『これで詰みだナ?』
妙に先回りして来ると思っていたがどうやら回避先や移動先を誘導されていたようだ。
敗北の二文字が脳裏に浮かぶがとてもではないが許容できなかった。
だが、機体は射抜かれ、敗北という結果は変わらない。
「この――」
消化できない悔しさが叫びに変換される前に機体が爆散し、カナタはそのまま脱落となった。
「ふぅ、何とか仕留められたナ? 足は大丈夫か?」
カナタを仕留めたポンポンがヨシナリの方を振り返ると片足で器用にバランスを取りながら近寄って来た。
「まぁ、何とか。 エネルギーウイングも積んでるのでバランス取るのは割と難しくないんですよ」
ポンポンはカカラの援護はどうしようかと尋ねる前に残り二人の反応が消えた。
「――余計な心配だったナ」
「ですね。 割と消耗したので一旦、修理に拠点に入りたいです」
その様子を見て大した物だと感心する。
カナタの攻略に関してはほぼヨシナリの主導だったからだ。