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第606話 来訪者討伐戦⑬

 刃に合わせてヨシナリからエーテルのブレードが突き出てくる。

 前はそれでやられたのだ。 警戒はしていた。

 それにこれを使ってきたという事は今が攻め時である事の証拠でもある。


 エーテルの操作は一見万能に見えるが、実際は大きな制限があった。

 操作できる範囲と総量だ。 

 これに関してはヨシナリもはっきりと口にしなかったが、ふわわは半ば以上に確信していた。


 操作できる範囲は自機ではなく、大本であるパンドラを中心に広くても十メートル前後。

 機体を覆う分、維持と武器化、形状の変化などを加味すればそんな所だろう。

 加えて、かなり繊細な操作が必要でもある。 


 実際、ベリアルとヨシナリでは形状変化などに関してのクオリティに差があった。

 ベリアルは機体が特化している分、ハードルが低いのかもしれないがエーテルの扱いに関する習熟の差もあるだろう。 


 小太刀の切っ先がブレードに当たって弾き飛ばされる。 上手い。 

 攻撃動作を繰り出しながらカウンターを防いだ。 このまま行けば蹴りが胴体に入る。

 野太刀、太刀、ナインヘッド・ドラゴン、小太刀も今ので使えなくなった。


 残りは腕のグルーキャノンとキャノンに見せかけたウエポンラックだが、グルーはエーテルの鎧で覆われている以上、どうにでもなると判断したのだろう完全に無視していた。

 ふわわは最後の一手を打つ。 小太刀を手放すとウエポンラックが展開し、柄が飛び出す。


 『液体金属刃!? まだあったのか!?』


 大正解。 抜いて一閃。 

 胴を薙ぐ軌道で振るわれた一撃をヨシナリは腕の形状を変化させて受けようとしたがその刃はホロスコープの胴体へと深々と食い込んでいた。


 ヨシナリは何故?と言わんばかりに視線を落とし――


 『あぁ、クソ。 ショーテルかよ。 曲刀を使った時点で警戒するべきだった』


 そう、ふわわが振るった液体金属刃は大きく湾曲した形状をしており、湾曲部分を内に向けて振るう事でヨシナリの防御をすり抜けたのだ。 

 咄嗟にエーテルの鎧で防ごうとしていたが、この液体金属刃は短くした分、硬度は他とは段違いで簡単に防げない。 


 それにエーテルの鎧を貫通しているのでどうにもならない。


 『あぁ、畜生』


 ヨシナリが悔し気にそう呟き、機体が爆発。 


 「楽しかったでヨシナリ君。 また戦ろうな?」


 ふわわは満足気にそう呟き試合終了となった。




 ――マジかよ……。


 敗北の結果にヨシナリは叫び出したい気持ちを抑えて努めて冷静にさっきの一戦を分析する。

 読み自体は間違っていなかった。 確実にふわわの動き、その前兆はキャッチできていたのだ。

 だが、そこで思考停止してしまった。 特に最後のショーテル。


 あれは最悪だった。 

 液体金属刃である所までは読めていたのだが、あんな形状で防御をすり抜けてくるのは想定外。

 シックスセンスでもエネルギー流動は見えてもどのような形状になるのかまでは見えない。


 いや、それ以前にふわわなら普通に刀だろうと頭から決めつけた自分を八つ裂きにしてやりたかった。

 ギリギリまで引き付けてから防御に入れば充分に防げたはずだ。


 ――強化装甲や新装備に意識が行き過ぎていたのか?


 不明な点があった上、勝負を急ぐ必要があった事も焦りで視野が狭まったのかもしれない。


 「いやぁ、お疲れお疲れー」


 声の時点で上機嫌な事が分かるふわわのアバターが現れた。 

 現在地は『烏合衆』のモタシラの私室だが、ふわわとシニフィエもこちらに来ている。

 モタシラは負けた事が信じられないのか呆然としていた。


 その様子を見てヨシナリはいくらか冷静になれた。 一つ深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


 「モタシラさん。 すいませんでした。 負けた以上、報酬は――」


 頭を下げる。 助っ人として呼ばれ、報酬付きで引き受けた以上は許されない失態だ。


 「いや、俺の方こそすまない。 君が来るまで粘る約束だったのに……」


 本来ならモタシラと二人でふわわを袋叩きにするつもりだったのだ。

 その為に連携も磨いたのだが、モタシラが早々に落ちた事で無駄になった。


 「君は良くやってくれたし、感謝もしている。 報酬はそのまま受け取ってくれ」

 「でも――」


 受け取れないと辞退しようとしたヨシナリだったが、ガシリと肩をふわわに掴まれた。


 「貰っとき。 依頼はウチを追い返す事やろ? なら明日からこっちに復帰するから問題ないんと違う?」

 「や、まぁ、正直、帰ってきてくれるならありがたいですけど……」

 「うん。 なら問題ないねー。 モタシラさんもそれでえぇ?」

 「……ほ、本当に帰ってくれるのか?」


 モタシラはやや疑いの眼差しでふわわを見つめるが、明らかに期待が浮かんでいる。

 それを見てふわわは苦笑。 


 「もう嫌やわぁ。 そんなにウチに居なくなってほしいん?」


 傷つくわぁと付け加えるふわわに怯えるモタシラは「正直、もう帰って欲しい」と率直に要求を口にする。

 ふわわがあっさりと同意した事にモタシラは心から安心したかのように胸を撫で下ろす。


 「では、ヨシナリ。 依頼は達成、君は報酬を受け取る権利があるという事だ」


 モタシラはヨシナリに送金し、取引は完了となった。


 「あぁ、良かった。 これで私も帰れますねー。 いや、もう修行とかいってあちこちに連れ回すの勘弁してくださいよ」

 「プラスフレームと周辺パーツ買ってあげたやろ。 じゃあ、帰り支度してくるわ」

 「ですね。 モタシラさん。 私達はこれで失礼します」


 シニフィエはご迷惑をおかけしましたと最後に言い残してログアウト。

 ふわわはこれは貸しにしとくわと意味深な事を言って同様にログアウトした。


 「戦闘結果こそ無念ではあったが、君には助けられたよ。 何かあれば力になると約束しよう」

 「こちらこそあまりお役に立てずに申し訳ない。 依頼とは別で良かったら一緒に遊びましょう」

 「あぁ、これはゲームだからな。 今度は純粋に遊ぼうか」


 モタシラとヨシナリは固い握手を交わしてその場は解散となった。



 そのままログアウトしても良かったがヨシナリの足はユニオンホームへと向いた。

 リビングに降り立つとヨシナリの姿を見つけたアルフレッドが尻尾を振りながら出迎えてくれる。

 頭を撫でながらただいまと声をかけてソファーへ腰を下ろす。


 そのまま背を預けて目を閉じる。 瞼の裏ではさっきまでの戦闘の様子が蘇った。


 「次は俺が勝つ」


 小さくそう呟くと立ち上がり、ウインドウを操作。

 ランク戦へと潜っていった。

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